第三話 初コンタクト~集落~
いよいよ初コンタクトです。
ネーミングは結構適当です。
※4/11 文章修正しました。
黒い球に入ったままなので、人もどきに囲まれて、騒がれているようだ。
このままでいる訳にもいかないので、黒い球を解除することにする。
――っと、その前に身嗜みを整えることにしよう。初印象は大事だ。
寝癖がないのを鏡で確認して、服もしわがないのを確認する。
服は拉致された当時の、学生服のままであるが、違和感はないだろう。
準備完了、早速、黒い球を消去する。
途端に姿を現わした俺を見て、人もどき達が一斉にざわつく。
こちらを見る視線が痛い。
ドキドキと心臓の音を感じ取りながら、人らしき生物に近づいていく。
いや、見た目が違うからといって早まるな。これはコスプレなんだ。
白目部分がなく大きく尖った緑の目、例えるなら宇宙人のような目だ。
こういう人もありえなくはない。そうだ、きっとそう。
鼻も口もあるし、耳は尖ってはいるが、一応ある。
髪の毛も、色が緑色だが、これも外国ならばありえる。
背中の羽は完全にコスプレ、引っ張ったら取れるに違いない。
肌がうっすらと緑色なのは、塗っているだけで、服が変なのも、そういうコスプレなんだ。
……そう思いたい。
取り敢えず、一番近くにいた、人もどきに話しかけることにする。
全員が槍みたいなものを持って警戒している。何もしませんよ。
まずはコミュニケーションだ。俺の真価が試される時が来た。
だが言葉が通じなかったらどうしよう、と一抹の不安もある。
「ア、アイム、ジャパニーズボーイ。リターン、トゥ、ジャパァン!」
今絞り出せる知能を最大限に発揮して、コミュニケーションを試みる。
こういう時のコツは身振り手振りで大げさなオーバーリアクションをすることだ。
自分を指したり、走る真似をしてみたり、とジェスチャーを交えて話しかけてみる。
「あんた、外から来た人間かい?」
俺の一世一代の自己紹介に、おばちゃんみたいな人もどきが、普通に返してきた。
――普通に言葉が通じました。
ここは日本ですか? 確認しよう。
「あ、あの、変な事をお聞きしますが、ここはどこでしょうか?」
「迷い込んだのかい? ここは『ビラトの森』の中心部だよ」
ビラトの森? 聞いたことがないので、もっと大きく聞こう。
「国の名前ですけど、ここは日本ですよね? 何県ですか?」
「……? 日本? 聞いたことないねぇ。ここはどこの国にも属していない只の集落、いわゆる無法地帯の一つだよ」
日本ではない? しかし言葉が通じている。
言葉が通じる理由は良く分からんが、まさかアレか、アレなのか。
――考えたくはないが、異世界とか……。
最後の最後にとっておいた結論ではあるが、現実逃避している場合ではないので、確認しよう。
「あの、変な事をお聞きするようですが、この世界の名前は何ていうんでしょうか?」
「この世界? 妙な事を聞くねぇ。そんなもの気にする奴なんていないよ」
駄目だ、スケールが大きすぎた。
もっと身近な何か……そうだ、地図だ。
「あ、あの、地図とかありませんか? できれば大きい地図を」
「地図? ここにそんなものあったかな?」
おばちゃんが首を傾げる中、違う人もどきがおばちゃんに助言する。
「ピーラさん、確かエルナーさん家のジャニラちゃんが持っていた気がするんだが……」
「ジャニラちゃんかい? そういえば人間の持ち物を良く集めていたねぇ。でもエルナーさんって言ったら……」
話を聞く限り、どうやらジャニラちゃんとやらが持っているらしい。
ここはお願いせねばなるまい。
「ちらっと見せてもらえるだけで良いのですが……」
「う~ん、あの子は人見知りだからねぇ~。それに今はさらにタイミングが悪い」
困った顔をするピーラおばちゃん。
そこで別の人もどきが、敵対するような態度で口を挟んでくる。
「おい、ピーラ! 今は皆ピリピリしているんだ。人間なんかと馴れ馴れしくしてるんじゃない!」
「そうは言っても、大丈夫そうだよ。見たところ手ぶらのようだしね」
「手ぶらだからといって油断はするな。おい、お前。さっきの黒い球。あれは何だ?」
威圧感のある、オヤジ風の人もどきが、黒い球について質問してくる。
実のところ、俺にも良く分からん代物を説明などできない。
面倒なので、掻い摘んで話をしよう。
「あれは乗り物です。あっちの方から来るときに使いました。今は消えちゃったみたいですが」
「あっち? あっちは渓谷だぞ。嘘をつくな!」
「だから、あの乗り物で渡ってきたんですよ」
融通の利かないオヤジだ。自分の常識でしか物事を測れない人なのだろう。
「ピッツン、そう怒鳴ることはないだろう。奴らだったら一人でノコノコとこんな所にくるわけがないだろう?」
「奴ら?」
「ああ、お前さん災難だったねぇ。普段は人間を見てもここまでの反応はしないんだけどね……」
「正体不明の人間達が最近、この森に侵入してきてな。我らに仇なしているんだ。この間、エルナーもやられた」
「エルナーって確か、さっき言っていた……」
「ああ、ジャニラちゃんの父親だよ。あの子は母親も亡くしているからねぇ」
「それで人間を……」
「だけどアンタは奴らとは格好も違うし、何より優しそうな顔立ちをしてるしね。あたしの勘が大丈夫だって言っているんだよ」
どうやら、人間は存在するようである。
その人間達がこの集落を襲っていると……俺、やばくないかな。
下手をすると両方から袋叩きにあう可能性有り。
それは嫌だ、ここは早めに出ていくに限る。
「あ、あの、地図をちょろっと見せて頂ければさっさとこの森を出ていきますので……」
「あぁん? 何かやましいことでもあるのか?」
何故、わざわざ裏を読むのだ。このオヤジ、本当に鬱陶しいぞ。
「こら! 喧嘩腰になるんじゃないよ、全く。最終的な判断は長老に任せようじゃないかい」
「それなら問題ない。長老が判断を誤る筈はないからな」
「アンタもそれでいいかい?」
「あ、あの、先程も言いました通り、地図を見せて頂けるだけで良いのですが……」
「あはは、遠慮するんじゃないよ。あのオヤジの事なら無視しときゃ良いのさ」
ピーラおばちゃんの好意が逆に痛い。
俺の希望としては、この集落と人間、両方の板挟みになる前に、とっとと出ていきたいのだ。
その時、ザワザワと再び場がざわついた。何であろうか。
「長老!?」
「ふむ。人間か」
長老、と呼ばれた人もどきが、こちらにやって来た。隣には、小さな子供が付き添っている。
長老は楽世をじっと見つめ出す。
何かを探るような目。何もありませんよ。
「この者は大丈夫じゃ。奴らとは別口のようじゃのう」
その言葉を皮切りに、緊張していた場が嘘のように和み始める。
どうやら長老は余程信頼されているようだ。
「して、お前さんはどこから来なさったんじゃ?」
「えっと、あちらの渓谷のさらに向こうからです」
「渓谷の向こうには草一本ない荒野が広がるだけじゃと思ったが……ふむ。嘘偽りはないようじゃのう」
長老が、先程から、じっと俺の一挙一動を観察しているので、居心地が悪い。
「ええ。ですので地図さえ見せて頂ければ……」
「まあ深い事情は良いじゃろう。我らに仇なすとも思えん。して地図か……」
「長老、地図はジャニラちゃんが持ってるそうなんだよ」
長老と俺の会話に、ピーラおばちゃんが割り込んできた。
ジャニラちゃん、とやらの情報を長老に渡す。
「ジャニラか……丁度それで悩んでいたところじゃ。ティンクリア、ジャニラには会えたのか?」
「ううん、駄目。会ってくれないの」
長老が傍らにいた子供、ティンクリアちゃんに語りかけた。
それに対してティンクリアちゃんは俯くように首を横に振る。
「そうか、困ったものじゃ。完全に塞ぎ込んでおる」
その時、集落の者が一人飛び込んできた。
「長老! 大変だ! 奴らがまた来た!」
その場が再び緊張に包まれた。
次回、敵がやってきます。本当に人間?