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拉致・のち、放置&放浪記  作者: 七草 折紙
『放浪開始』編
4/30

幕開 奈落

割り込みで投稿してみました。

追加の話です。

 万能球に乗って移動する、約一ヶ月の間の出来事である。


 食事以外、只ひだすら寝ていただけではない。

 人間、そんなに睡眠は取れないのだ。


「オリャッ、テリャッ!」


 そこで、暇潰しに、懐かしの格ゲーをやっていた。


『You Win!』


 万能球で作り出したテレビ画面とゲーム機一式。

 そこに、俺の勝利を知らせる文字が表示された。


 これも、もう何回目だろうか。


 所詮は俺の記憶の中の産物、予想を超えるものではない。

 万能球は所詮、俺の記憶を再現しているに過ぎないのだ。


「はぁ、これで百五十連勝か……つまらん。暇だなぁ~」


 退屈な現状に易癖して、コントローラを乱暴に投げ捨てると、俺の意思に反応して、テレビ画面とゲーム機が消え去った。

 次は何をするか――


「エクササイズマシンで運動でもするか。流石に身体が(なま)っちまう」


 これもお馴染みの光景である。

 早速、ランニングもどきを開始する。


「ふっ、ふっ、ふっ」


 有酸素運動の証でもある短い呼吸が自然と出てくる。

 人間、全く動かないのも疲れる、というものを体験した。


「ふっ、ふっ、ふっ……ふふふ、ふ、もう飽きたぁーーーーーーっ!」


 運動しているうちに、呼吸が、自然と乾いた笑いに変化してしまった。

 このランニングもどきも毎度やってきたことなので、いい加減飽きてしまったのだ。


 ストレス発散のために、大声を出して叫ぶ。

 誰も聞いていないので、思う存分に、力の限りに吠えまくる。


「何なんだ、この究極の暇地獄は! いくら俺でも我慢できないぞ」


 最近、独り言が多くなった気がする。

 幾ら一人が好き、といっても、誰ともコミュニケーションを取れないのは、苦痛でしかない。


「くそっ、飯だ、飯!」


 悪態をついて、飯に移行する。

 食事は気分転換に丁度良い。


「今日はカレーでも食うか」


 全ての行動が飽きたからとといっても、この一時だけは別である。

 食事はレパートリーとバリエーションを変えて、ローテーションを組めば、十分満足できるのだ。


「それにしても、すっきりするぐらい何もないな」


 上下360度、何もない。

 いや、空に浮かぶ太陽や雲だけは見えるが、その他は何もないのだ。


 俺が高所恐怖症だったら、とんでもない事になっていた。

 もし万能球が消えたら、という考えが浮かばない訳ではないのだ。


 この空で俺を支えているのは、万能球只一つだけ。

 落ちたら、ペシャンコで、形は人の原型すら留めないだろう。


「ちょっと、怖いな。しかし、何も見えないのはおかしくないか?」


 万能球で飛んできたため、後方はもう荒野の影すら確認できなくなっていた。

 前方も未だ何も見えてこない。

 下はというと、これまた何もない。

 渓谷やら海やらが見えても良い筈なのだが、どういうことだろうか。


「う~ん、万能球、ちょっとだけ下に行ってみてくれない? あっ、方向は変えないでね」


 俺の命令に従って、真っ直ぐに進んでいた軌道が下へと逸れていく。

 そのまま、下方45度くらいの角度で進んでいくが、相変わらず何もない。

 そう思っていた、その時――


「な、何だ、これは!?」


 黒一面の大地らしきものが見えてきた。見渡す限りが漆黒の荒野である。

 まるで、闇一色の地獄の入り口、奈落そのものだ。


 それ以上進んではいけない、と頭に警報が鳴る。


「ここは何処なんだよ?」


 日本、いや、世界中の何処にだって、こんな場所は聞いたことがない。

 某国の政府が隠蔽でもしてきた危険スポットなのだろうか。


 もう考えるのはよそう。

 そういうのは専門家に任せて、俺はとっとと自宅に帰ることだけを考えることにする。


「はぁ、次は一人カラオケでもするか……」


 再び、憂鬱な旅を続けることに、気持ちを切り替えた。






 そして、一週間後。


 ドゴンッ


「うおっ、何だ何だ!?」


 昼寝中に、物凄い衝突音と衝撃が襲ってきた。

 慌てて起きて、辺りを確認すると――目の前には巨大な土の壁があった。


「着いた……のか?」


 ぶつかった、ということは、踏みしめられる場所が存在しているという事である。

 取り敢えず、このままでは埒があかないので、移動することにする。


「おい、万能球、後ろに下がって……そう、真上へ行け!」


 希望を込めて、万能球が上がっていく。緊張で胸がドキドキしてきた。

 徐々に光が射してきて、その先には――


「おおぉーっ、大地だ……でも、また何もないな。本当に何処なんだ、此処は?」


 予想通りの肥沃な大地が広がっていた。

 閑散としており寂しいが、草は生えている。生命力が感じられるのだ。

 いよいよ、人がいそうな気配に、期待が高まる。


「よし、そのまま人のいる所まで進んでくれ」


 万能球に乗って、さらに進んでいく。


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