第二十二話 理不尽な懇願
やっとここまで来た……。
今回は本格的なバトル有りです。
うまく書けたかな?
闇討ちしてきたのはギギカのオヤジ。
普段の格好に何故か赤いふろしきのような布切れを被っている。
このオヤジ、隠れコスプレマニアか?
「その殺気、冗談じゃないようだな……これはこの村の総意か? それともオヤジの独断か? 答えろッ!」
「……」
ブチ切れた俺の問い掛けに対してもオヤジは無言だった。
言葉を交わす気はない、ということか。上等だ。
「お喋りはしないってことか? いいだろう。オヤジ、テメェには昼間の礼があるからな」
この殺気、間違いなく俺を仕留めようとしている。どういう事だ、
まさか、今までのハプニングもアホの暴走ではなくてマジだったとか?
円を描くように互いに牽制しあっていると、ついにオヤジが口を開いた。
「俺はお前の事など知らん。俺の名は赤装束ラブリーマスク。貴様が気に入らないから叩きのめすだけだ!」
胸を張って臆面もなく、オヤジが恥ずかしいセリフを吐く。
――いや、やっぱりアホだ。バレていないとでも思っているのだろうか。
俺は何でこんな奴とシリアス展開を迎えねばならないのだ。
「そんなもん被っていても、丸分かりだぞ」
「……クッ、鋭いな。監視の目がない今だけがチャンス! こちらの勝手な事情ですまんが消えてもらう」
作戦失敗とばかりに悔しがり、オヤジは訳の分からない事を連ねていく。
何が鋭いだ。テメェ勝手に進行しやがって!
理不尽な状況に俺の怒りもオーバーヒートしていく。
「ジャニラちゃんを攫ったのはてめぇか!」
「それは自分の目で確かめるんだな」
肝心な内容をはぐらかすオヤジに俺の苛つきも限界を突破した。
おのれ、オヤジ! 成敗してくれる!
「なら今度はこちらから行かせてもらうぞッ!」
気合いと共にオヤジの正面に攻撃を仕掛ける。
――これが俺の最速の突き!
キィイイイイイイン……
しかしそれはオヤジに容易く弾かれる。直後に反撃は……来ない?
余裕の現れなのか、嘲笑うようなオヤジの声が飛んできた。
「この程度か? なら――ッ」
言葉の途中でオヤジが動いた。弾け飛ぶような動きで横薙ぎの一閃が迫り来る。
「クッ……」
集中して斬撃を見極める。後ろに半歩下がって回避に成功した。
やはり強靭な脚力。恐らく全体的なパワーではギギカのオヤジが上だろう。
単純に足腰のバネや剣を押し出す膂力では負けてしまう。
――ならば攻撃をいなすのみ。
力ではなく技。柔らかい動きで力押しの剣を受け流すんだ。
この戦いは負けられない。
オヤジの動きを見極めるべく集中力を高めていく。
またしても昼間と同じ展開になっていき、受け一方の防戦を強いられる。
オヤジの猛攻撃が降り注ぐ。
「フッ、所詮子供、かッ!」
「――!」
オヤジのテンポがまたずれて諸に斬撃――が、あれっ? 躱せたぞ?
半テンポの緩急をつけた攻撃に難なく対応できた。自然と身体がリズムを調整している。
「なっ!? あれから一日と経っていないのだぞ!」
オヤジの驚愕の叫びをバックコーラスに、激しい撃ち合いが続いていく。
今度は完全に力を殺しきって、腕の痺れも軽度なモノだ。
この間のは気が緩んでいたのか?
今ははっきりとオヤジの動きが分かる。
「へっ、同じ手は二度も食らわねぇよ!」
よくよく考えれば師匠との斬り合いを毎日行なっていたんだっけ? こんなザマが師匠にバレたら殺されるぞ。
ほぼ受けに回っていた攻防が徐々に互角の勝負に変わっていく。
防御の直後に攻撃を仕掛ける余裕が出てきた。
「どうやら剣の腕は互角のようだなッ!」
あらゆる角度からの速度重視の連撃を重ねていく。
力では敵わないので、きわどい角度からの奇襲のような形での攻め。
一撃一撃の威力は軽いが、オヤジも直撃はまずい筈だ。
「やるな。ならこれはどうだ! 恩寵は力! この土地では俺の方が有利! 行くぞ、加速ッ!」
頭に身体、そして腰に手足、オヤジの背後一帯から炎が噴射された。
さながらジェットエンジンの如く、オヤジのスピードが膨れ上がった。
オヤジの身体がブレるように迫る。
「いッ――!」
ブゥオウゥンッ
死神の鎌のような高速の大振りが頭上を通り過ぎた。不吉な風の音がご臨終レベルを物語っている。
アレはヤバい、ヤバいぞ!
「ハァアアアアアアッ!」
「うぉおおおおおおッ!」
強力かつ怒涛の勢いのオヤジの猛攻を必死に防いでいく。
いくが、もう持たない。さらに――
「これならどうだ!」
炎を纏って熱く燃え滾った剣刃が唸りを上げて放たれた。
――オヤジの奥の手、やはり隠していたか!
明らかに渾身の一撃。
これは師匠の言っていた一撃必殺の技――まずいッ!
「ぐあッ――熱ッ! アチィイイイイイイッ!」
後方に跳ぶように力は何とか受けきったが、炎の残滓で全身が焼ける。
嫌だ、死にたくない!
慌てて万能球を全身に浴びて、冷却した。もう隠している余裕はない。
「はあッ、はあッ、くそ、オヤジ、がッ! 調子にのるんじゃねェッ!」
万能球をマンホール蓋みたいな形状に形態変化させ、足裏に固定する。
「ホバリング――」
さらにマンホール型万能球の下から風によるホバリング現象を起こし、身体を僅かに浮遊させる。
そして――
「ジェット!」
風を蹴るような爆発で前方に押し出し、推進力を発生させる。
――目には目を、歯には歯を、恨みには恨みをぶつけてやるッ。
ヒュインッ
鋭い風切り音を奏でながら、瞬速でギギカの懐に飛び込むことに成功する。
そのまま斜め一閃!
不意を突いたその一撃はオヤジの胸を斬り裂いた。
「何っ!? ――ガッ……」
これも三ヶ月の旅路での研鑽の成果。移動力の上昇だ。
傷を負いながらもオヤジはまだ立っていた。
傷が浅かったか? なら周囲を飛び回って撹乱だ。オヤジの方法では直線に近い動きしかできない筈……。
鎌鼬のように、円状の動きで浅く、だが凄まじい数の斬り傷を与えていく。
フハハッ、追いつけまい。この恨み、晴らさでおくべきか。ククククククク……。
「ガッ、グッ、ゴッ、――!? しまっ――赤頭巾が!」
頭を覆っていた赤い布が取れて、アホオヤジがここ一番に取り乱す。
そこに諸に隙ができた。
「ウラァアアアアアアッ!」
ガインッ
オヤジの剣を弾き飛ばし、首筋に剣を突きつける。
これ以上は流石にやり過ぎだろう。殺す訳にはいかない。面倒な事になるからな。
「ここまでだ、オヤジ。何か言うことがあるか?」
「クッ、見事だ……」
血だらけでがっくりと項垂れるオヤジに、それを見下す俺。
きんもちいぃ~い♪ 正義は勝つのだ、フハハッ。
愉悦に浸っていた俺だったが、そこに空気の読めないアホオヤジが、ふざけた事を吐かしてきた。
「お前に頼みがある」
プチッとキレました。誰でもそう思うでしょう。
今まで溜まった鬱憤を一気に晴らすが如く、オヤジに捲し立てた。
「ふざけんな! 散々殺そうとしておいて、今更なんだ!」
「いや、それは、そう、なんだが……」
俺の怒りを一心に受けて、オヤジは目を泳がせながら言葉を濁す。
このオヤジも罪悪感はあるみたいだな。だが知らん。
「フンッ、何言ってんだ、俺はそんなにお人好しじゃないぞ。俺に何の恨みがあるか知らないが、個人的な事だろ? なら今から警備の連中に突き出してやる……いや、警備のトップはオヤジだったか……なら、あのボットンとかいう奴に突き出してやるッ!」
「――! ま、待ってくれ!」
ボットンの名前を出した途端に、オヤジの顔が死人のように青褪めていった。
どんだけ怖いんだよ。俺もアイツ恐いけど……。
呆れたように見ていると、さらにオヤジが謝ってきた。
「色々と試す真似をして済まない! この通りだ! 力を貸してくれ!」
切羽詰ったような物言いに、俺の心に戸惑いが生まれた。
どうする? 話だけでも聞いてみるか? まあこのオヤジは駄目駄目だが、夫人は良い人だったからな。
迷っていた俺に、オヤジが最後の手段とばかりの行動に出た。
「頼む!」
――土下座である。
おいおい、そうきたか。人生でコレをされるのは余程の事がないとありえない。
俺はいつぞやの猿ボスの豪快な土下座を見ている。アホの思考回路は共通なのだろうか。
しかし土下座すれば何でも許されると思っているのなら大間違いだ。
いや、アホだからこそのこの末路なのかもしれないな。呆気なく破綻する計画の稚拙さ……ヤバい、何だか泣けてきた。何故、俺がコイツに同情しなければいけないんだ。
……まあ、話くらいは聞いてやるか。
「コホンッ、……一応、聞くだけ聞いてやる。くだらない話だったら承知しないぞ」
俺の寛大な発言に、オヤジが潤んだ瞳を輝かせた。可愛くないからその目はヤメロ。
オヤジは佇まいを正して、いわゆる正座の形でもって語り始める。誠意を示す方法くらいは知っているんだな。
「実は、半年くらい前から西からやって来た火の民がこの場所を明け渡せと言ってきてな。今でも二つの火の民が争っている」
「ああ、それは聞いたぞ」
初日に食卓で確かに聞いた。このオヤジ、もう忘れたのか?
オヤジの頭の弱さに易癖しながら、不躾な視線を送る。
だがオヤジは狼狽えることなく、一呼吸置いた後、神妙な面持ちで口を開いた。
「……だが内容の一部は違っていてな。西からやって来たのは奴らの方だ」
「えっ? 奴ら?」
意味が分からない。
無言でオヤジに話を促すと、苦悩するようにオヤジが語りだした。
「同じ部族で争うなど言語道断。奴らも何を考えているのか。奪い取ったマットゥなど、恩寵を失うだけだというのにな」
えっと、つまりどういうこと?
結論の的を得ないので、黙って続きを聞くことにする。
「奴らは西からやって来た別の火の民。我らのマットゥを奪いに来た連中。何とか抵抗していたんだが……」
「いたんだが?」
「――ついに二ヶ月程前に奪われてしまった」
奪われた? 奪う……余所者!?
「恐らく君の連れ添いを攫ったのもここにいる奴らの仕業。俺の子供も人質に取られている」
ま、まさか……。
「ここにいる奴らは侵略者だ」
この話で『憤怒の山』編の前半戦が終了です。
次回はAnother side。
徐々に白熱した展開になっていきます。
乞うご期待。




