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拉致・のち、放置&放浪記  作者: 七草 折紙
『放浪開始』編
3/30

第二話 謎の黒い球

※4/11 文章修正しました。

 目の前に浮かぶ謎の黒い球。

 先程までは無かった、ファンタジー要素満載の浮遊する物体、直径十センチ程の小さい球である。


 我が目を疑うが、目を擦ったところで消えることはない。

 新種の生物に見えなくもないが、こんな無愛想な生物は記憶にない。羽もなく、只浮いているのだ。


 この広い荒野でピンポイントで現れた、ということは、まさか自分が出したのだろうか。

 考えられるのは、あの人体実験の影響だけだ。それ以外に思い当たる節はない。


「な、何だこれ?」


 試しにちょん、とつついてみる。何かの固形物のようである。

 浮いているというよりも、空間に固定されている、と表現した方が良いくらいに動かない。どんな仕組みなんだろうか。


 しばらく、息を吹きかけてみたり、押したり引いたりしてみたが、それ以上の変化ない。

 ずっと浮いているだけである。


「う~ん。まっいっか。行こっ」


 少し迷ったが、気にせずにとっとと行くことにする。

 腹が減り、喉が渇いて、死にそうなので、のんびりしている暇はない。命の灯火が消えかかっているのだ。


 球の事を忘れるように歩き出したが、数歩程で足を止める。


――あれは重要なものだ、と自分の直感が言っているのだ。


 時間は惜しいが、確認のため、黒い球の所まで戻ることにした。


 再び黒い球の前まで近づき、この球について検証することにする。

 これを自分が出したものだとすれば、コントロールできる筈、検証してみよう。


 思い返すと、希望的観測で念じたら、ポッと出現したのだ。

 念じる事で、何か動きがあると予測できる。


 実験1.離れて消えろと念じる――消えない。

 実験2.触って消えろと念じる――消えた。


 成程、出し入れは完璧である。やはり俺の意思に反応している。


 次はこの球が何なのかだ。動いたりしないのかな。


 実験3.離れて動けと念じる――動かない。

 実験4.触って動けと念じる――動いた。


 触ることで命令できるようだ。


 こうやって、動けと念じても――動いた?


 一度動けと命令すると、離れても命令可能になる。接触によって、俺の意思と完全に同調(リンク)する仕組みらしい。なかなか便利な構造をしている。


 あとは他に何ができるのかだが……動くだけかな。

 手元に引き寄せ、試しに……燃えろ、と念じてみた。


 ファイアァァァァァァッ!


「うぉっ!」


 手元で豪快に炎が吹き出して、髪が数センチ程焼けた。

 本当に燃えるとは、危なかった。


 遠隔で念じても、同じ現象が起きた。

 一度触って設定すれば、遠隔操作が可能みたいだ。


 その後、水や雷、風なども起こしてみたが、全部できた。


「凄いぞ。これは万能球なのか?」


 感心に浸っていると、突如として、お腹が鳴り始めた。

 流石に二日間、殆ど何も口にしていないので、きついものがある。


 そこで天啓が下った。もしかしてあの球で何とかならないか。

 試してみる価値はある。


「ドンカ亭のハンバーグセット・ドリンク付きよ、出てくるのだ」


 念じると、黒球がゴムのように伸びて、テーブル状に形を変え、そこからニョキッと生えるように出てきた。


「おおぉ~っ、出たぞ。懐かしの大好きなドンカ亭のハンバーグセットだ。本当に出てきたぁ」


 香ばしい匂いが、本物といっている。


 試しに食べてみるが、そのままのお味が再現されていた。空腹だっただけに、格別にうまいっ。

 飲み物のコーラも、飲めば全身に染み渡る。


 その後、涙が出るほどにおかわりをして、満足した。


 あとは寝床だが、この球で快適空間を作れないだろうか、と考える。あの球の中に入れないのだろうか、という発想だ。


 ものは試しなので、意識して指を入れてみると――入った!


「意識すれば中に入れるのか。何でもありだな」


 怪しさ満開の謎の球だが、便利なものには違いない。利用しない手はないだろう。

 特に、食料の問題が解決したことで、生存確率がぐんっと伸びた。

 衣食住さえあれば、どこででも生きていけるのだ。


 あまりの万能能力に呆れていると、ふと頭にイケナイ事が浮かんでしまった。

 一人は寂しいので、癒しの存在――可愛い女の子を出せないか、と思ったのだ。


「ゴホンッ、試すだけだよ。変なことはしないよ……たぶん」


 誰に言い訳するでもなく、自分で自分にフォローする。

 女子にでも見られたら、一生爪弾き者だろう。犯罪者の気分である。

 自然と声が小さくなる。


「TERAの深夏(みなつ)ちゃんよ、出てくるのだ(ボソッ)」


 ゴクリ、と緊張と期待で喉が鳴る。

 大好きな、某アイドルグループの娘が出てくる、と思うと血液が沸騰しそうになる。


 彼女いない歴イコール年齢なのだ、と胸が張り裂けんばかりに高鳴り出した。


「……」


 しばらく待つが、黒球には変化なし。うんともすんとも言わない。


――出せませんでした。生き物は駄目なようです。


 あっち行こ、そう思ったのがいけなかった。


「のわぁーーーーーーっ!」


 球に指を入れたまま、行こう、と念じたら、そのまま我が身ごと進んでいくではないか。

 まるで何かに引っ張られるかのようにすっ飛んでいく。


 速い速い。優に、時速百キロメートルは出ているのではないか。


 今までの徒歩がバカらしくなる程に進んでいく。

 その先には――断崖絶壁!?


「うおおおおおおっ、やばいっ! ス、ストーップ! 止まれ、止まれぇー!」


 ギリギリで止まった。危なかった。


 どうやら、この方角はアウトのようだ。しかし面倒くさいので戻りたくない。


「う~ん、どうしよう……そうだ! 空を飛んで行けば良いじゃないか!?」


 流石に指一本だけ固定して飛ぶのは肝が冷える、となると乗り物型が妥当である。

 この球、さっき形を変えたから――


「え~っと、でっかくなぁ~れ」


 俺の命令に反応して、グオンッ、と直径十センチ程だった球が、直径三メートル程の大きさに変化する。流石、万能球である。


 早速乗り込むが、何も見えない。

 ここで、視界よ開けろ、と念じると、視界が開けた。


「凄ぇなぁ。しかし気温はそのままか……気温を下げろ……そう、そこでストップ。よし、この先へゆっくりと進んでいけ」


 気温を快適に調節して、早速移動することにする。

 ここでスピードを上げて進むのは馬鹿のすることである。同じ(あやま)ちは繰り返さない。


「このまま行けぇ……あっ、でも何かにぶつかりそうになったら避けて進んでね。あと人がいたら止まってね」


 人を()ねてしまったらやばいので、細かい指示をしておく。

 着くまでは暇だから、昼寝でもするかな。






……彼此一ヶ月は経過しただろうか。


 食事、就寝、食事、就寝。太らないか心配である。


 ザワザワと慌ただしい音を聞いて、目が覚めた。

 距離感がはっきりとしないので、どこまで来たかは不明である。


 外が妙に騒がしいが、どうしたのであろうか。

 起きて辺りを見渡すが――


 今度は人、人、人?

 人に似ているが、背中に羽らしきものが生えた生き物、とても人類には見えない生き物達がこちらを見ていた。


 それにしても妙に注目を浴びている。

 こんな球が浮いていたら、誰でも吃驚するか。


 辺り一帯には木々が立ち並び、恐らく森の中と思われる。

 今いる場所は、森に囲まれた、円状の空白地帯の、中心にある、とんでもなく巨大な樹の、一歩手前。

 その大樹の周りには、ちょっとした湖のように浅瀬が広がり、木造りの橋で足場を補っている光景が目に映った。

 所々には、大木風の家が点在しており、おとぎ話の中にいるみたいだ。


――どこだここは?


「ここは、ジャングル? 人らしき生物はいないみたいだが……」


 旅立ってから初めての、人類(?)遭遇であった。


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