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拉致・のち、放置&放浪記  作者: 七草 折紙
『憤怒の山』編
26/30

第十八話 失踪

続きです。

 先輩らしき人物が村を襲う悪党共とつるんでいるという話だが、あの先輩がそんな事をする筈がない。

 先輩の身に何があったのだろうか。


 ギギカのオヤジと親衛隊二匹のぎこちない関係も気になる。

 一体全体、何がどうなっているのだ。


「彼らの狙いはここのマットゥだ」


 横で黙って聞いていたギギカのオヤジが苦い表情で告げてきた。

 オヤジの嫁のギミミ夫人も辛そうにしている。


「我々は恩寵だけでは生きていけない。それを活かすマットゥがあってこそだ」

「それほどマットゥというものは重要なんですよ」

「何とか穏便に済ませたいのだが」


 ギギカのオヤジと灰人男が補足説明を付け加えて、さらに話を進める。

 平和的な解決を望むのは皆一緒のようだ。なら何故そうしないのだろうか。


「話し合いで折をつけようとは思わないのか?」


「そんな甘い手段など、我ら赤人のプライドが許さない!」

「王に逆らおうという愚かな連中だ。根絶やしにするに限る!」


 真面目な会話をしていたのに、親衛隊二匹が殺気立って喚きたてる。

 いちいち五月蝿いので、コイツらには黙っていて欲しい。


「貴様ら!」


「何か文句でもあるのか?」

「分かっているのだろうな」


「クッ」


 ギギカのオヤジが物凄い剣幕で怒り出し、それに対して締りのない顔で親衛隊二匹が牽制する。やっぱり仲が悪そうだ。

 ある程度事情は把握したが、あまり関わり合いになりたくはない。しかし先輩が関係しているのならば、このまま去る訳にもいかない。

 さて、どうする?


「それで俺に用心棒をやれとでも?」

「そういうことのようですよ」


 そっけない俺の質問に、灰人男が第三者のように返してきた。

 この男も先生と呼ばれていたが、助っ人なのだろうか。


「アンタも雇われた身なのか?」

「いえ、私には私の目的がありましてね。襲撃者に協力している灰人連中に用があるんですよ。まあ、利害関係が一致しているだけですね」

「成程。だけど俺は――っ!」


 ドォォォォォォン……


 その時、俺の心臓を貫くような爆音が響き渡った。世界そのものが揺れているかのように、地面が激しく鼓動する。俺の尻に踏まれていた椅子が左右に流され、床に突っ伏しようとしたので、思わずテーブルにしがみついた。

 横で眠そうに話を聞いていたジャニラちゃんも眠気眼(ねむけまなこ)で転げ落ちそうになり、手で体勢を固定しようとテーブルに手を伸ばすが、届かないようだ。慌てて、片手を使ってジャニラちゃんの腕を掴み、引き寄せることで事なきを得る。


「またですか」

「うおっ、何だ何だ、これ――地震、いや噴火か!?」


 突然の事態にも平然としていた灰人男の背に、窓を通して赤い壁が向かってくるような光景が目に映った。家々を飲み込みながら、こちらへとやって来る。


「マグマ!? ちょっと、ちょっと、これ大丈夫なの!?」


 まるで悪夢。

 眼前に迫る死へのカウントダウンが、どんどん近づいてくる。

 ついには窓に覆いかぶさり……


「うおおおおおおーっ! ……あれっ?」


 いよいよ目を瞑って覚悟を決めたが、溶岩は家の中にまで入ってこなかった。

 どうやら、家の造りは遮断性にも優れているようだ。


「はぁ~、助かった」


 訳が分からずに狼狽える俺だったが、異常のない赤い窓を確認して安堵する。

 何の材質で出来ているか分からないが、尋常じゃない頑丈さだ。


 まだ胸がドキドキしている。それ程の恐怖だった。異世界やべぇ。

 それ以上に目に見えて動揺し出したトカゲ四匹が気になった。何かに怯えているように見える。


「くっ、またか。リメイラ様がお怒りになられている。何故だ……」

「ああ、お鎮まりください」


「だから言ったんだ。王の親衛隊が聞いて呆れる」

「アナタ……」


 ニヤケ顔が一転、焦り顔で拝みだす親衛隊二匹を尻目に、ギギカのオヤジが小言を呟く。パニクっている二匹には聞こえなかったようだが、俺の耳には届いた。

 今までの様子から、オヤジの発言権はここでは低いようだ。確か警備隊長だった筈だが、親衛隊二匹が歯牙にもかけないところをみると、不憫な立ち位置と見た。


「とにかく俺達はここを出ていきますので」


 付き合ってられないので、さっさと切り出した。ここから一刻も早く去りたい。

 先輩に関しては、こっそり観察して、合流後に即離脱しよう。

 とにかく深入りは禁物だ。


「なんだ、出て行くのか?」

「なら泊まっていけ」


 偉そうに親衛隊二匹が命令口調で泊まることを促してきた。

 乱暴な口調で優しい人も世の中にはいるだろうが、コイツらからはそこはかとない悪意を感じる。

 今の親切な発言には何らかの意図が感じられるのだ。油断はできない。


「ククク、一泊くらいゆっくり休養した方がいいですよ」

「えっと……」


 断ろうとした矢先に、灰人男からも労りの言葉が飛び出した。

 どんどん外堀が埋められていく気がする。


「そうしなさい」

「歓迎するわ」


 ギギカ&ギミミ夫婦からも是非にとお声がかかる。


 これらの好意を袖にする程、俺は肝が座っていなかった。

 退路を断たれたので、素直に甘えることにする。

 一泊くらい問題ないだろう。




 そう思っていたのだが――


 ジャニラちゃんと二人で一部屋を与えられて就寝しようとするものの、物凄く暑い。暑すぎて眠れない。

 万能球で簡易冷房を用意するも、冷やす度に熱気で温度が逃げていく。

 しょうがないので密室を作って温度を調節することにした。

 自分の気力体力が微妙に減っていくのを感じるが、真夏日の電気エネルギーみたいに物凄い勢いで消費する訳ではないので、朝までは快適空間を維持することにする。ちなみに使用量の計算は、修行で鍛えた感覚がそれを可能にしていた。

 それでも、省エネ思考がこびりついたのか、あまり万能球を多用したくはない。


 そんな事を考えながら寝転がっていたが、ふと横で熟睡していたジャニラちゃんが起きた。目を擦りながら、ヨロヨロとお爺ちゃんのように立ち上がる。

 しかし、この子良く寝るな。


「どこ行くんだ?」

「おしっこ」


「一人で大丈夫か?」

「うん」


 ここのトイレは普通に使えた。多少尻が熱かったが問題ないだろう。

 我慢は体に毒だ。


「なら行っておいで」

「いってくる」


 ジャニラちゃんが、届かないドアノブに、マットゥの欠片で蔓を伸ばし、器用に扉を開ける。

 扉を閉めるのを忘れずに出て行った。




 かれこれ二十分は経過しただろうか。

 未だにジャニラちゃんが帰ってこない。


 随分と遅いな。


 以前覗きで得た遠隔監視をしてみるか。

 あの時師匠に殺されかけたのがトラウマだが、便利なのは疑いようがない。

 トイレまで胃カメラのように細い管状にして伸ばしていく。

 トイレの中をチェックするが……いない? どこにいったんだろうか。


 嫌な予感がしてきた。この家の中を家捜ししてみよう。

 この家の間取りは4LDKだ。リビング兼キッチンにはいない。

 となると、どこかの部屋にお邪魔しているのだろうか。


 覗くようで後ろめたいが、これは保護者の義務だ。

 まずは端の部屋から調べよう。


「どうする?」

「奴と同じようにすればどうとでもなるだろ」

「クハハッ、そうだな。お前も悪だなぁ」

「お前こそ」

「「ハハハハハハッ」」


 ここには親衛隊二匹が居座っているようだ。お代官様と悪徳商人みたいなやり取りをしていた。

 話の意味は分からないが、悪巧みのように感じる。俺には関係ないのでどうでも良いか。

 ジャニラちゃんはいないみたいなので、次へ行こう。


 次の部屋はギギカとギミミ夫婦の愛の巣だった。

 えらい映像が伝わってきた。


「ギミミ……」

「ダメ、アナタ……」


 ギギカが鼻息を荒くして、ギミミ夫人の肩を掴んでいる。

 駄目と言いながらその気に見える夫人と、ギギカのオヤジが、そのままキッス。

 事態が進んでいく。


「ダメよ。隣にお客様がいるのよ。あの人達もいるし、それにあの子達の事も……」

「全て大丈夫だ。それより、もう我慢できないんだ」


 夫人をベッドに押し倒して、そのまま――


「あん、ダメ」

「ギミミィ~」


 獣となったギギカのオヤジを最後に映像を切った。

 封印完了っと。トカゲの交尾なんぞ精神衛生上、見たくはない。


 オヤジ達のところにもいないとなると、残りの部屋は……ここか。


「ふっふふ~ん♪」


 そこには見たことのない、灰人らしき少女がいた。

 部屋中に広がった怪しい道具の数々を嬉しそうに眺めている。


 コイツ、誰だ?


 食事の時にも見かけなかったぞ。

 いやそれよりもジャニラちゃんがどこにもいない。

 そういえばあの灰人男もいないではないか。まさか、誘拐とか……。


「どこにいったんだ、ジャニラちゃん」


 ジャニラちゃんが忽然と姿を消した。


いつの間にか、お気に入りが100件を超えていました。

ありがとうございます!

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