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拉致・のち、放置&放浪記  作者: 七草 折紙
『修行の旅』編
21/30

Special episode ノヴァ

ノヴァ師匠無双の回です。

戦闘描写は簡略化してます。


 ザンダル山の麓で楽世達と別れたノヴァだったが、しばらく歩いた所で、不自然に足を止めた。緊急事態であれば焦りを露にする筈だが、その顔に浮かぶのは普段通りの無表情だ。


 辺りには何もなく木々が立ち並ぶだけ。

 人の到来が少ない場所。にも関わらず、山道は虫の音一つすらなく、静まり返っていた。それが意味するのは只一つ。


 ノヴァがゆったりとした口調で虚空に向かって話しかける。


「私に何か用か?」


 ノヴァの視界には誰も映っていない。

 通常ならば油断しきっている場面だが、僅かな予兆が全てに繋がる。微かな気配も見逃すことはない。

 お前たちの存在に気づいているぞ、と気配で気配に語りかける。


 始めは微々たる震動音。

 それが徐々に大きくなっていき、最後には周囲の木々が吹き飛ぶ。ノヴァを中心に、半径二十メートル程度の地面が隆起していった。


 完成したのは、即席の闘技場とでも呼ぶべき円状に開けた地形。ノヴァを包囲するように、岩の壁が立ち塞がっていた。一箇所だけが外界に通じる道、とでも言わんばかりに開いており、そこに十人程度の男達が、ニヤニヤと欲望丸出しの顔で通せん坊している。全員、灰色の髪と褐色の肌をした、灰人であった。


「器用なものだな」


 かなりの数をこなしてきたと思わせる、熟練の腕を感じさせる手際の良さに、ノヴァが思わず感嘆の声をあげる。


 さらに空から何かがやって来る。巨大な鳥に乗った灰人の集団であった。

 地上と空の灰人達がノヴァ一人を大人数で取り囲む。


 完全包囲。


 圧倒的戦力差、一個小隊程の戦力がたった一人を威圧していた。

 用意周到、卑怯、様々な表現が当てはまりそうであるが、この世界は実力主義。女一人で彷徨いている方が悪いのだ。


「ヒハッ、この山に用があったんだが、別の獲物もくるたぁな」

「隊長、寄り道してると怒られますよ」

「ハッ、構わねぇさ。幹部連中は大層な戦利品をご所望だ。それなりの成果をもってけば機嫌を損ねることはねぇんだよ」


 男達は、口論をしながら近づいてきた。手には様々な武器が握られている。

 その中でもノヴァが一際注目したのは、茶系統の装飾がされた一本の刀。近年では見かけることの無くなった特殊な武器である。

 自然とノヴァの目が鋭くなってゆく。


「カルナ刀か。どこぞで奪ったか」

「さあな。姉ちゃんの持ってるソレもカルナ刀だろ?」

「まあ、厳密にいえば違うが、似たようなものだな」


 特殊な武器――カルナ刀と呼ばれた武器――を持つのは、一番偉そうで態度の悪い男。その隊長と呼ばれた男の軽薄な物言いに、ノヴァも負けずと軽い調子で返した。


「細けぇこたぁ良いんだよ。その得物と、姉ちゃんの身柄、俺達が貰ってやろうじゃねぇか」


 隊長男の下劣でいやらしい眼差しに、ノヴァのまなじりがつり上がっていくが、隊長男はそれに気付かない。戦力差がありすぎて、己が敗北する未来など予想だにしない、といった感じである。

 静かな怒りが沸き立ちながら、ノヴァは敢えて分かりきった質問する。


「ほう、私もか。私を攫ってどうするのだ?」

「ハッ、なぁに、後で俺達が可愛がってやるって言ってんだよ」

「ふっ、聞くに堪えんな」


 先程までの呑気な会話が一新、突如、ノヴァから途方もない殺気が溢れ出した。

 それを容赦なく身に受け、だらしなくいやらしい顔をしていた隊長男の表情が一気に固まる。


 隊長男とて、数々の修羅場をくぐり抜けてきたベテラン。多少の殺気では動じることはない。

 しかしノヴァの放つ殺気は、未だかつて体験したことのないくらいに強大であった。

 それは歴然たる実力の差を示していたのだ。


 隊長男の顔が一気に青褪める。


「な、何なんだ、この殺気、お前……へへ、だがこの数には敵うまい」


 隊長男の周りには十人程が控えており、空には速度に特化した四翼のモンスター"風切り大燕"に乗った灰人が、数人待機している。

 客観的に判断すれば、ノヴァに勝ち目はないように思えた。

 それでもノヴァに動揺は微塵も感じられない。


「それだけか?」

「なに?」


 圧倒的戦力差にも関わらず、余裕を崩さないノヴァに、隊長男は不気味なものを感じつつ、事態を見守ることにする。


「ピーコック、空にいる連中はお前に任せる」

「アルジサマ、二、マカサレタ」


 ノヴァの命令に従い、肩に止まっていたピーコックが擬態を解除し、その姿を徐々に露にしていく。虹色の光を纏いながら、ピーコックは大きく変貌していった。

 その光景を目にした隊長男は、驚愕と恐怖とを交えた声を絞り出す。


「あ、あ゛、あ゛あ゛……お゛、お前、まさか、まさか……」

「アルジサマ、二、アダナスモノ、ハイジョ、スル」


 光が収まると共に、その巨大な体躯が姿を現す。

 七色の翼を持つ巨大な鳥――孔雀。その中でも頂点に君臨する、孔雀の王"大孔雀"。

 恩寵ではない、自然の力をその体内で生成する、最強種のモンスターの一角。

 何者にもかしずく事のない、絶対なる王者がそこにいた。


「……災害指定ランク5、空の王"大孔雀"!?」


 シィアアアアアアッ


 大気を引き裂く咆哮が、森の静寂を打ち破り、森全体が異常な気配に騒めき出す。

 そのオーラは男達をも萎縮させた。中にはガチガチと歯を鳴らしている者もいる。

 隊長男は威厳を保つべく、呑まれないように大声を出して威嚇する。


「あんなのを引き連れて……お、お前は誰だ!?」

「ふふ、私か。私は最も新しく、若く、そして美しい、『希望』だ」


 自画自賛、ナルシストの極み。だが、誰もそれを否定できない。

 そんな美しさが彼女にはあった。


「お前、白人か……いや、しかし、只の白人ではないな。希望……まさかっ!?」

「さあ、精々、私を楽しませてくれ」


 何かを言いかけた隊長男の言葉を遮り、付き合ってられないとばかりに、ノヴァが動き出した。

 ノヴァの腰から放たれた刀の不吉な煌きが、隊長男の心の均衡を崩し、行動を促す。


「クソッ、この"岩砕"のカルナ刀の威力、受けてみやがれぇ!」


 隊長男が持っていたカルナ刀を地面に突き立てると、開放された恩寵が大地を脈動させ、変化させる。

 走り出した亀裂と共に、形を変えた土が凶器となって立ち上がっていく。


 グガアアアアアアッ


 重い振動音を立てながら、励起していく土の羅列が、ノヴァに迫る。


「こんなものか」


 壮大な自然の脅威の前に、顔色一つ変えないノヴァが、期待外れとでも言わんばかりの一言を発する。

 ノヴァの腕が霞み、横に薙ぎ払われた黒刀。

 鋭い一撃で広がった不可視の衝撃の刃が、襲い来る土石の群れを斬り伏せる。


 たった一太刀。


 それだけで大地の軍団が消滅した。


「なっ!? くそっ、ならこれなら――」


 隊長男がカルナ刀を水平に構えると、それに答えるかのように、無数の岩石が空中を漂い始める。


「襲えっ!」


 隊長男の合図を発端に、全方位を囲んだ岩石群が、ノヴァを貫こうと一斉に降り注ぐ。

 逃げ場がないと思われたノヴァだったが、直後、全身を覆った光の粒子が泡となるように弾け消え去った。

 一瞬にして男の目の前に現れるノヴァ。


「うおっ!?」


 反射的に隊長男が後退しようと飛び去るが、それを遥かに凌駕する速度で、ノヴァが追従する。


 そのまま一閃。


「がっ……」


 大地と水平に通り過ぎた無慈悲な刃が、男を上下に両断する。

 男は驚愕に目を見開き、息途絶えた。


「ぬるいっ」

「な、何なんだ、この女は……」


 一番強いと予想した隊長男の脆弱さに、ノヴァが吐き捨てるように愚痴を呟く。


 残った男達は、隊長があっさりと殺られたのを目撃して、只々呆然とする。

 冷たい予感が絶望の大きさをもって、男達の未来に突きつけられる。


「く、くそっ、お前ら撤退だ! 燕部隊、俺達が逃げる時間を稼げ!」


 隊長男に付き添っていた男が、代表して退却命令を下す。

 だが空からの反応はなかった。


「おい、聞いてるのか!」


 苛立って空を見上げれば、そこには、消し炭になりゆく"風切り大燕"達が、大孔雀の口内に吸い込まれていく、現実離れした光景があった。


「あっ、あ……」


 退路を失い、声にならない呻き声を出す男達。

 そんな醜態を気にも留めないで、ノヴァは残酷な宣告を男達に与える。


(とく)と抗え。襲われて逃すほど私は甘くない。お前らの人生はあと少しだぞ

「ま、待てっ!」


 一方的な蹂躙が始まった。






 数分後、立っていたのは、全身に返り血を浴びたノヴァ一人だけだった。

 くだらない時間を過ごしたおぞましさに、嫌悪感を強く含めた感情が爆発する。


「フン、相も変わらずくだらない連中だ」


 血糊を拭うべく、刀を高速で振るい大まかに落として、最後に光の熱洗浄効果でジュワッと蒸発させる。只の熱処理では血痕が残ってしまうが、光の透過作用で完全に落としきるのだ。ついでに全身についた血も光浴洗浄で完全に洗い流す。


 スッキリして落ち着くと、近くに転がっていたカルナ刀を見て、呆れと苛立ちを合わせたような表情が浮かぶ。


「まだこんなものが残っていたとはな」


 拾い上げて空中に放り投げたカルナ刀を、数瞬にして振るわれた数十もの太刀が、無数の欠片に分解すると、カルナ刀は泥のように溶けていった。


「タダイマ、モドリマシタ」


 空で一風変わったお食事をしていたピーコックがノヴァの元に帰還した。

 既にオウム形態に戻ったそのマヌケづらには、満足した様子が広がっていた。


「お前も良くやったぞ、ピーコック」

「ゲフッ、オナカ、イッパイ」


 労りの言葉を受け取ったピーコックは、再び肩に止まり、ボーッとしだした。元の絵図である。


「しかし、こいつらが絡んでいるとは、かなりの厄介事に巻き込まれているようだな」


 山の頂上付近を見つめ、先程まで一緒にいた弟子を思い、ノヴァは憂いを濃くする。

 結局、運が無ければしょうがない、と割り切ることにした。


「まあ、これも試練か」


 冷たいと言われようが、これくらい乗り切れないようでは、これから先はもっと厳しい旅になるだろう、と思い立ったのだ。それは、成長した弟子に対する信頼の証でもあった。


「さて、また会えるかな。ふふっ」


 女神のような美貌の剣士は、陽気な微笑みを残して、去っていった。


次章行く前の用語説明等を次回取り入れたいと思います。

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