第十五話 力の先
十三話と十四話の間にヒロインのお話も追加しました。
いよいよ、師匠とのお別れです。
急いで書いたので、誤字脱字あると思いますが、ご了承ください。
修行をしながら旅を続けて、もうすぐ三ヶ月が経とうとしている。
俺が今いる場所の眼前には巨大な山がそびえ立っており、その手前にはアマゾンみたいな熱帯雨林の森が生い茂っていた。
このまま西へ進むなら、森を抜けて行く必要がありそうだ。
「森ですね。このまま真っ直ぐ行きますか」
「そうだな。この先に火の民の村がある。そこでお別れだな」
「……そうでしたね。何だか、寂しいものですね」
「まあ、人の出会いに別れはつきものっていうからな」
この三ヶ月で随分と情が湧いてしまったものだと、内心苦笑いしてしまう。
厳しい鍛錬の日々であったが、師匠との旅はどこか楽しいものだった。師匠の人柄のせいなのか、よそよそしい雰囲気は皆無だったのだ。心の隙間を突っつくものがある。
「ジャニラちゃんは、このまま俺に付いてくるの? 旅をするなら師匠と一緒の方が安全だと思うけど」
「おにいちゃんといっしょ、だめ?」
「何を言っている? 私の旅に連れて行くつもりはないぞ」
「いや、駄目とかじゃなくて、ですね。安全性を謳っている訳なんですが……今のは忘れてください。ジャニラちゃん、一緒に行こうか」
「うん!」
ジャニラちゃんのようなピュアなお子様に、ウルウルとした瞳で見つめられて、断れる勇者が日本男児にいるだろうか。
俺には無理だった。
例えヘタレと言われようとも、無理なものは無理なのだ。
森に入る手前で、馴染みの気配を感じ、足を止める。そんな俺を見て、師匠がニヤリと感心したような顔付きになった。
「ほう、気づいたか」
「ええ、また"蠍蛇"ですね」
この荒野で、出現頻度が高かったモンスター、"蠍蛇"。全長二メートル程の巨大蠍だが、頭部についたおっさん風の人間に酷似した顔が、違和感を醸し出している。見た目は蠍風に仮装したオヤジといった風貌である。一見、変態にしか見えないが、蛇の下半身が人でないことを証明していた。
「来たか、子蠍共が」
蠍蛇の後ろから、左右に分かれて、一回り小さい蠍の集団が飛び出してきた。コイツらは"子蠍"。蠍蛇が統率するモンスターである。
蠍蛇は親蠍とも呼ばれ、子供ともいうべき子蠍の集団を従えている。それが厄介なところだ。
そして、最も注意すべき事は――
「連帯攻撃も厄介だけど、毒が一番危険、でしたね」
「おい、楽世、間違ってもくらうなよ」
「分かってますよ、師匠」
戦闘前のお浚いをして、心の準備を始める。敵を発見してから僅かな間に、最も効率的な作戦を練っていく。とは言っても、俺に立てられる作戦は殆どがシンプル・イズ・ベストなものである。複雑なのは苦手なのだ。
「集団戦はいかに効率よく敵の数を減らすかがポイント。多対一の場合は、雑魚から確実に蹴散らしていくんでしたよね」
「そうだ……が、これは……くくっ、リターンマッチか?」
「リターンマッチ?」
いつも通りの臨戦体制を整えていた俺に、師匠の意味不明な言葉が飛んできたので、反射的に聞き返す。
ボコッ、ボコボコボコ、ボコッ
その時、辺り一帯の地面から何かが飛び出て来た。あれは!?
「まさか、"土砕き"ですか!」
あの憎き顔は忘れない。
人畜無害そうなツラをしながら、美味しくない俺達を食そうとしてきた味覚音痴だ。
森の入口近くで隠れて獲物を待っていた、という訳か。相変わらず姑息な奴らだ。
「よかろう、受けて立つ」
渋く決めたつもりだったが、当然、周囲からの反応はない。
自分に浸っているだけだ。
だが、そんな俺を他所に、土砕きが蠍蛇達と一戦始め出した。
「あれっ?」
「まあ、そうなるな。モンスター同士は仲間ではない。こういうこともありえる」
なら無理しなくても良いか、と高みの見物を決め込もうとした俺だったが、性懲りもなく、何匹かが俺達に向かってきた。
慌てて、後ろにステップを踏み、下がるが――
ドシンッ
「石岩拳人っ!?」
「そうだ、しかもあれは珍しいレア種だ」
太く強い震動を感じて振り返れば、これまた初勝利の相手、石岩拳人がいた。
あまりの展開に呆然とする俺だったが、突如、師匠が狂ったように笑い出した。
「フフッ、…………アハハハハハハハハハハハハッ!」
「し、師匠?」
「フヒッ……ヒハッ、これは面白い。"蠍蛇"に"土砕き"、そして"石岩拳人のレア種"。
三種のモンスターが一堂に会するなんて、こんな体験は滅多に味わえないぞ。
よく、こんな状況に出逢えたものだ。お前の引きの強さには感心するぞ。ククッ」
「笑い事じゃないですよ!」
「どうやら、ここはモンスタースポットのようだな。丁度良い。混戦・乱戦、対集団戦闘は確かまだだったな。ここで経験できたのは幸いだ。やってみろ」
「やってみろ――って!」
子蠍が尻尾で刺してきたので、身体を捩って回避する。そのまま後方にいた子蠍に同士討ちさせて、子蠍を一匹撃破する。
「そうだ。周りを利用、この場合は同士討ちが賢明だな」
ノヴァ師匠の解説を耳に入れながら、次いで襲ってきた土砕きに、原型刀の一閃を与えるが、敵は倒れない。
土砕きの歯が腕を掠って軽い傷を負ってしまった。
初撃の刃の通りが浅かったため、再度斬り裂き、二撃で仕留める。
「くっ、手ごわい」
「刀で接近戦をするなら、間合いに気をつけろ、と言っただろう」
「分かってますが、この数で余裕がないんですよ」
「はぁ、まだまだだな」
ジャニラちゃんを護るような形を取る師匠は、溜息をつきつつ、やってきた土砕き三体を一太刀の下に絶った。その顔には焦りは見られない。
「"土砕き"の厄介な所は集団でやってくる所だが、コイツらでもモンスターの中では弱い方だ。苦戦するようじゃ、この先キツイぞ」
流れるようにモンスターを斬り裂いていく師匠を傍目に、俺は目の前の土砕きの脳天に鋭い突きを入れて、倒した。そのまま後ろから来た子蠍の攻撃をしゃがんで躱しつつ、刀を斬り返して両断する。
その先にいた土砕きを水平に薙ぎ、さらに先にいた子蠍の尻尾を刀でいなし、横に一閃。瞬く間に四匹を撃退した。
「ふうっ、あとは……半分か。まあ、モンスター同士で共倒れしてくれるみたいだし」
辺りを見渡せば、結構な数のモンスターが朽ち果てていた。
あと、厄介なのは、親蠍こと蠍蛇と、石岩拳人のレア種だが、彼らは立派に争ってくれている。余計な手出しは無用だろう。
「こう多いと一気に焼き払いたくなりますね。まあ、無理ですが」
万能球がもっと使えれば、方法が広がるんだが、現実は厳しい。
「アレか」
「ええ、そうです」
「まあ、多少なりとも効く気はするんだがな」
「えっ?」
冗談混じりに愚痴を言っていただけなのだが、師匠の意外な発言にキョトンとしてしまった。多少なりとも効く?
「お前がその力を使うにあたり、二つの問題がある」
「二つ……ですか?」
ここは重要な所なので、黙って聞くことにする。
「一つは前にも言ったが、エネルギーの規模が小さすぎる」
「もう一つは?」
「これも前に言ったが、原型はイメージを強くするのが大事。そこに問題がある」
「イメージ……」
イメージは"思い込む"と言っていたので、その通りにしているのだが。
「例えば、お前、炎で焼かれたことがあるか?」
「そんなのある訳ないじゃないですか」
「そうだな。じゃあ、雷に打たれた事は?」
「ないですよ。あったら、死んじゃいますよ」
いきなり物騒な体験を聞かれて、師匠の頭を疑ってしまった。
この人は何を言いたいのだろうか。
「そう、それが問題だ。その力、お前の体験を元に、想像を現実に引き寄せる力があると見ている。私と同じ"光浴洗浄"はできただろう?」
「ええ」
「お前には実際に、炎に焼かれるイメージ、雷に打たれて痺れるイメージ、そういったものが足りないのだ」
「それじゃお手上げじゃないですか」
火で焼かれるのも、雷で感電死するのも、ご遠慮願いたい。
つまりは体験できないような過激な方面の能力は、万能球で使えないってことだな。
お手上げである。
「まあ、そういうことだ。だから、今後、体験したことは貴重な記憶となりえることを肝に銘じておけ。それはさておき、勝敗が決したようだぞ」
師匠と話しているうちに、モンスター対抗戦の勝敗が決定したようである。
優勝者は石岩拳人君でした。
物凄い光景を目にしてしまった。奴はムエタイみたいに、パンチからの掴まえてのティーカウ――膝蹴りをくらわせていた。あの巨体では考えられない程の俊敏性だ。
「勝ったのはやはり石岩拳人か。まあ、レア種だしな」
「レア種ってそんなに違うんですか?」
「モンスターにもよるな。まあ、気にせず逝って来い!」
今、不穏な言い回しを聞いた気がしたが、師匠の発言をいちいち気にしていたら心臓がもたないので、スルーする。
無の心でいざ行かん。
「よし、行くぞ!」
低空飛行で懐に飛び込み、定石通りに足を断ち斬ろうとするが――
高速の蹴りが飛んできた。
「しまっ――」
慌てて刀でガードして、その勢いのままにわざと飛ばされて、後方で一回転して着地する。
今の攻防で冷や汗がどっと出てきた。
成程、レアは一味違う、ということか。
「忘れたか? 実力が拮抗する場合は駆け引きが重要だぞ」
「そうでしたね。ふうっ」
身体に籠った熱を発散するように息を吐き出すと、再度、足に力を入れて飛び込んでいく。俺のタイミングに合わせて、石岩拳人から蹴りが飛来する。
先程と同じ展開だが、今度は違う。これは誘導だ。
当たるスレスレで停止し、一瞬後退した後、再び通り過ぎた蹴り足の裏側まで跳び、そのまま足を押し出して、蹴りを促進させる。空回りした蹴りは、その巨体を崩して、転倒させた。
今だ!
俺のいる位置は奴の背中。
刀を、隙だらけの奴の鳩尾部分、核石に突き刺すと、奴――石岩拳人レア種は形を維持できずに崩れ去った。
「はあっ、はあっ、ふうっ」
「ふむ、終わったか。ふふ、良くやった」
「はあ、疲れました」
毎度言えることだが、戦闘で神経を高まらせると、体力の減りが激しい。
それでもバテていないのは、成長の証だろう。だが流石にこの数はキツかった。
「それだけ動いてもまだ体力に余裕があるだろう。修行の賜物だな」
「三ヶ月……ですか。長いようで短かったですね」
「……そうだな。もう基礎は粗方教え終えた。最終的には今まで教えた全てを無意識に行えるようになるのが理想だな」
山を囲む森に入っていく。
森の中はどうやらモンスターが少ないようだ。サクサクと進んでいく。
ここは平和なんじゃないか、と思っていた矢先に、今度は巨大な一つ目を持つ巨人が現れた。確か、サイクロプスとかいった化物じゃなかっただろうか。痛そうな刺々しい棍棒を手に持っている。
「これはまた会いたくないタイプのモンスターだな」
「ほう、"一眼鬼"か。こんな場所にいるとは珍しいな。よし、少々早いが卒業試験だ。新しいモンスターだが、口出しはせん。お前のやりたいようにやってみろ」
「まあ、何とかなりますか」
師匠からのご命令なので、条件反射で頷く。これが師匠の躾の成果、じゃなくて、師匠と弟子の厚い絆である。
一眼鬼と睨み合い、仕掛けるタイミングを図る。初めての敵は戦力を正確に図ることが第一優先事項である。
一眼鬼が棍棒を下ろした隙に、最速で飛び込む。
気合いの一撃を斬り上げるが、それを躱されて、逆に反撃される。
「くっ、速い! それに重い」
膂力に優れ、俊敏な技巧派。それが一眼鬼のようだ。
なかなかの強敵である。
「コイツは膂力が強いな。パワーファイターか」
「ふっ」
何故かやたらと師匠の声を拾ってしまう。意味ありげな笑いだったが、馬鹿にしたものではなかったので、良い方向に考えても良いだろう。
それにしても、どうするか。普通に戦っていたら長引いてしまうこと、間違いない。
ならば――
「フラッシュ!」
一瞬目を閉じて、刀の形の万能球から眩い閃光を放ち、一眼鬼の視界を奪う。
怯んだ隙に、高速で横に薙いで、一眼鬼の身体を両断する。
「ガァァァァァァッ」
一眼鬼は血飛沫を上げて倒れた。
モンスターとの戦闘は慣れたとはいえ、この瞬間は好きにはなれない。
俺はバトルジャンキーではないのだ。生き延びるためにやっているに過ぎない。
「終わった……はぁ」
「だいじょうぶ? おにいちゃん」
「ああ、有難うな」
相変わらず、戦闘終了するとジャニラちゃんから労りの言葉がかけられる。
心配性な子だ。
「もう大丈夫なようだな」
「ええ、大丈夫です」
「なら、お前は卒業だ。今まで良く頑張ったな」
「オマエ、ソツギョウ、モウオワリ」
「師匠……」
やばい。涙腺が崩壊しそうな勢いである。
師匠の優しさがフィナーレを告げているようで、訳の分からない衝動が溢れそうだ。
泣くな、俺。不思議な事に、鳥への苛つきが涙の防波堤となっていた。
ドシンッ、ドシンッ
「うしろ」
「後ろ?」
感動に悶える俺にジャニラちゃんの可愛らしい声が届いた。後ろ、とは何だろうか。
そういえば、不気味な振動音が響いている。
即座に振り向くが――
そこには圧倒的威圧感を巨大な生物がいた。
「ア、アレはナニ?」
「ほう、鋼龍か。確か、災害指定級だったな」
「サイガイランクワン、モンスター、デス」
「そう、ランク1だったな」
お散歩にでも行くような気軽さで、師匠がご説明をくださる。
災害指定というのは、不吉すぎる響きだ。関わり合いになりたくはない。
それにしても鋼龍? もしかしてあの最強と名高いドラゴンさんでしょうか。
何でいるの? エンカウント早すぎでしょ。
この距離に近づくまで気付けなかった。もしかして敵が強大すぎるからか。あまりの濃密な気配に俺の神経が麻痺していたようだ。
「くそっ、これでも喰らえ!」
半ばヤケクソで、鋼龍に向かって杭に変形した万能球を放つが、コンッと虚しい音を立てて弾かれてしまった。
グァァァァァァッ!
怒らせてしまっただけのようである。
表面の皮膚が硬いのだろうか、鋼龍の身体には傷一つない。
「し、師匠! これは完全に無理です!」
「ふむ。どうやらここらでお別れのようだな。最後に良いものを見せてやる。精進しろ」
師匠にお助けコールを送ると、師匠が何やら動き出す。
一メートル弱だった黒刀が、三メートル近くにまで巨大化する。原型の持つ"形態変化"だ。
刀が輝きを増してゆく。
「原型は便利だと言ったな。それがこの恩寵との"共鳴現象"だ。増幅した恩寵は強大な力を秘め、こんなこともできる」
巨大な光の刃。それが鋼龍を一刀両断する。
上下に分断された巨体が大地に落ちてくる。
ドシィィィィィィンッ……
「いずれ、また会おう!」
そっけない別れの挨拶を残して、ノヴァ師匠は去っていった。
キィアオォォォォォォッ
師匠が去ると同時に、逆方向から、鋭い咆哮をあげながら赤く輝く生物が近づいてきた。
全長三メートル程の燃える鳥、火の鳥である。
またモンスターか。絶体絶命のピンチ、と思っていたのだが――
「待て! やめろ! おい、そこの灰人、何者だ?」
火の鳥の上に誰かが乗っていた。言葉を話しているので人のようだ。
警戒するような太い声が上から降ってきた。
この章もやっと終了。
次回はノヴァ師匠の特別編を挟んで、次章にいきたいと思います。
次章『憤怒の山』編、お楽しみに。
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