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拉致・のち、放置&放浪記  作者: 七草 折紙
『放浪開始』編
2/30

第一話 そして放浪、彷徨う

※4/11 文章修正しました。

 始まりは彼此一ヶ月前に遡る。


 ある日、学校からの帰宅途中――突然、俺は拉致された。


「お~い、楽世(なせ)ぇ~」


 幼い頃からの親友が、手を上げながら、こっちにやってくる。良くある、日常の光景だった。


 その親友が近づいてくるに従って、荒い呼吸音が耳に入る。

 随分と激しい息切れ具合から、かなり遠くから走ってきたと思われるが、俺に緊急の用事だろうか。


「はあっ、はあっ、あ~っ、疲れたぁ。ふぅっ、お前、窪塚先生が呼んでたぞ」

「はぁ? また赤点かな」


 担任であり、化学教師でもある、窪塚隼人教諭。

 馬鹿な俺にでも分かるように、心底丁寧に教えてくれる救世主だ。化学以外の教科も質問すれば解説してくれる。

 おかげで留年という最低限のラインは超えないでいる。


 お呼びがかかったという事は、先日のテストでまた赤点をとってしまったのだろう。


「お前、勉強しろよ」

「拒絶反応が酷くてな。俺は運動派なんだ」


 親友の呆れた声にも俺が折れることはない。何故ならば、俺は勉強嫌いを自称しているからだ。

 机に向かっても、手につかず、相性が悪いのだろう、と既に諦めた。なるようにしかならないのだ。そのうち、やる気が出ることを祈るばかりである。


 勉強が駄目ならば、運動はどうか、と言われると、そちらも実は大したことはない。

 一応サッカー部に在籍してはいるが、運動派とは名ばかりの万年補欠である。

 今や幽霊部員と化した。


 自分で言っていて悲しくなる。俺に取り柄はあるのだろうか。将来、天職が見つかることを期待するしかない。


 問題はこれから学校に引き返すかどうかだが――


「まぁ、明日でも問題ないだろ。今日はもう帰ったって事で」

「……相変わらずの楽観主義振りだな。流石は神楽(かぐら)楽世(なせ)様だ。伊達に名前に"楽"が二つも付いてないってか」


 これから学校にUターンするのも、面倒くさいので、親友に俺の理論を推し進める。もう半分以上の距離を、歩いてきたのだ。


 それに対して、軽口を叩く親友には、諦念と理解とが浮かんでいた。

 中学一年からの付き合いだ。お互いの性格は把握している。


「まあ、俺にゃ関係ない事だ、好きにすれば良いさ」

「おぅ、サンキューな」


 そう、気が効く親友なのだ。この柔軟な感じが妙に心地よく、俺と気が合っている。


 ここで話が最近一番の話題に変わる。


「それにしても聖羅(せいら)先輩が行方不明になって一週間か……」

「そうだな」

「ああ、変な事されてないだろうな。あの美しさだからなぁ」


 睦月(むつき)聖羅(せいら)先輩。我が校ナンバーワンのアイドルである。

 大和撫子を絵に書いたような美人で、他校からのアプローチも多いと聞く。

 近辺では、本職のアイドル顔負けの人気ぶりである。


――その先輩が一週間前に行方不明になったのだ。


 周りは騒然として、今でもその話で持ちきりである。至る処で、色々な説が囁かれている。

 様々な噂を耳にするが、駆け落ちしただの、攫われて酷い目にあっているだの、中には天使になって飛んでいった、などというアホな話まで出てくる始末だ。


「ホントどうしたんだろうな?」

「でもここ最近この辺で行方不明者が続出してるんだってよ」

「全員美女美男子ばっかりなんだろ? 怪しいよなぁ」

「確か、どこかの学校の生徒会長や番長格もいるって話だよな」

「先輩で七人目だったか。確かに多いよな」


 我が校は聖羅先輩が初めてだが、ここ二ヶ月の間で、この界隈の高校の生徒七人が、相次いで行方不明になっているのだ。しかも、全員が見た目麗しい、という共通点まである。


 卑猥な方向へと話が行くのも、致し方ない。


「お前も気をつけろよ」

「俺を攫って何の得があるんだよ」

「ははっ、それもそうだな」


――そんなこともありました。


 不覚にもその当日にいきなり拉致されてしまった訳です。

 気付く暇もなく気を失って気づいたら人体実験の日々、今に至る。同一犯かは不明。


「で、今こんな羽目に遭っているわけだが……」


 しばらく適当に歩いてきたが、見渡す限りが荒野の連続。どの方角に向かえば良いのかも分からない。

 日もそろそろ落ちてきて、今は恐らく夕方の時間帯だろう。このままでは本格的にまずい。


 空腹に野宿。現代人にはきついキーワードである。


 こんな日が来るとは夢にも思わなかった。頬についた乾いた涙が、風に揺れるのを感じる。夕陽がやけに眩しいぞ。


「ハッ!? いかん、いかん」


 黄昏ている場合ではない。現実に向き合わなくてはいけないのだ。


 現状、歩く以外にやることがない。だが、このまま只歩いていくのも下策である。

 どうしたものか、と頭から打開策を捻り出すが、一向に思いつかない。


「残り体力と変わりないこの風景。どう考えても終了だろ。はぁ、餓死決定か」


 食料無し、毛布無し、情報無し、何も無し。この状況で何をどうしろと云うのだ。


 今いる場所の気候すら把握していない。

 雨が降っていないのは幸いであるが、あるいは砂漠のように気温が急激に変わるなんてこともありえる。

 かと言って、寝るためだけに何もないあの部屋に戻るのも面倒である。


 今、最も重要なのは、居場所の特定、食料、寝床の三つ。

 どれも絶望的であります。


「取り敢えず、歩くか」


 立ち止まっていても始まらない。結局歩くしかなかった。


 何とかなる。どの方角に行こうと人はいるだろう。

 心配する必要はないじゃないか。


 後戻りなどしたら、逆に体力がもたない。振り返らずに進むんだ。






 体内時計で約三時間が経過したと思われる。

 完全に日が落ちて、夜の時間帯に突入した。


 未だに新しい発見はない。


「暗いな。月明かりでうっすらと見える程度か」


 一説では、暗くなると不安が増し、闇が誘う恐怖も織り交ぜて、焦りが人をパニックに陥れる、と良く言われる。

 今の状況がそれに当たるのだろうが、パニクる気力もない。

 仮にパニックになったところで、疲弊するだけだ。そんな無意味なことはしない。

 気楽が一番だ。


 今はとにかく歩く。


「月と星が綺麗だな。この星空だけはどこにいても変わらないな」


 見知らぬ土地にいる現状だが、空を眺めているだけで優しい気持ちになれる。不思議なものだ。






 夜になって二時間は経っただろうか。午後九時頃と思われる。

 体感温度から察するに、気温が極端に下がることはないようだ。


「気温は大丈夫のようだな。この分ならそこら辺でも寝られそうだな」


 疲れたので、今日はこのままゴロ寝しよう。空腹を睡眠で誤魔化すんだ。

 土だけの荒野に、ドカリと仰向けになって、寝ることにした。


「取り敢えず、おやすみ」


 …………

 ……


 不快感を感じて、うっすらと意識が覚醒する。

 もう朝なのか、異様に暑い。


「おい、朝はこんなにも暑いのか? いや、もしかしたら、午後までこの暑さが続いたり? 昨日は夕方前に出発したから気付かなかったのか?」


 日差しが鬱陶しいくらいに、照りつけてくる。


 睡眠はOKなので、次は食事だ。この暑さで余計に腹が減る。

 そういえば喉が渇いた。水もないじゃないか。このままでは干からびてしまう。

 ピンチである。


「なんかこう、イメージすると隠されたパワーがズドン、とか出たりしないかなぁ。まあ、出るわけな……いか?」


 目の前には真っ黒い球体が浮いていた。


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