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拉致・のち、放置&放浪記  作者: 七草 折紙
『修行の旅』編
19/30

第十四話 湯あみ

続きです。

先週投稿したんですが、割り込みって更新日時変わらないんですね。

 修行をしながら旅を続けること、早二ヶ月。

 あれだけ遠かった山も、随分と近づいてきた。


 最近では、一日中歩くのも苦ではなくなり、余裕が出てきたように思う。

 朝昼晩に行う、素振りと柔軟体操に、不安定な足場での受けの練習、謎の超重量物体を持ちながらの徒歩等、色々とやってきた。


 鍛錬にあたり、ノヴァ師匠の手持ちの道具を使用することが多々あるのだが、次々と怪しい物体が出てくるのを、目撃した。

 謎の超重量物体――ノヴァ師匠を型どった、材質不明の銅像のようなものは、筋トレをするのに使用したりしたのだが、重さが明らかに尋常じゃない。

 それが用途に応じて、型が変わったものがポンポンと出てくるのだ。


 例えば、肩に担ぐタイプのお座り型師匠、これは腕を組んでいて、偉そうである。

 背負うタイプのお疲れ型師匠は、穏やかに眠っている仕草をしており、細かいこだわりが見受けられる。

 腰あたりにひっつくタイプの甘えん坊師匠に至っては、普段見ないような朗らかな笑顔をしているので、正直、気持ちが悪い。

 しまいには、不安定な足場作成のために登場した銅像だが、ノヴァ師匠が整列して、様々なポーズをしている、キチガイな光景があった。言うなれば、お子様向け戦隊ものシリーズのように、格好をつけたノヴァ師匠がわんさかなのだ。それを見た後、数日間は、悪夢にうなされた。


 何故こんなものを用意してあるのか、ノヴァ師匠の人格を疑いたくなるようなグッズがいっぱいである。

 某アニメの未来型ロボットのポケットのように、黒い穴から色々と出てくるが、そのコレクションの趣味が悪いのだ。ジャニラちゃんの宝箱に夢いっぱいに詰まったピュアコレクションを、少しは見習って頂きたい。


 師匠型銅像は、最初は持ち上げることは疎か、浮かせることすらできない程の重量があった。それを、軽い物から徐々に重さを上げていき、昨日、やっとのことで持ち上げrられるようになったのだ。成長してきた自分の逞しさに、嬉しくてニヤけてしまい、ノヴァ師匠に引かれたが、この際、気にするものではない。


 ちなみに、この時、ノヴァ師匠から散々、"もやし"だの"へっぽこ"だの、言葉の暴力を受けた。それにより、最近では、神経が麻痺したかのように、耐性がついた。

 身体と共に心も鍛える、ということを狙ってやっているのか、それとも只の罵倒なのかは分からない。

 結果オーライである。


 そんな俺であったが、今現在は、目の前の巨大な蚯蚓を見上げている。

 俺の身長の優に数十倍はデカイ、ニョロニョロとした、気持ちの悪いモンスターだ。

 できれば目に入れたくない存在である。


「"砂食い蚯蚓(みみず)"か」


 ノヴァ師匠の説明が入る。やはり蚯蚓の一種のようだ。

 だが、こんな大きな蚯蚓は異世界ならではだろう。


「まあ、頑張ってみろ」

「いや、頑張れって言われましても……こんなとき、師匠ならどうしますか?」


 巨大生物と戦うなんてことは想定していないので、ここは経験者の意見が欲しい。


「そうだな、私なら懐に飛び込んで、一撃必殺だな」

「一撃必殺ですか?」

「そうだ。最速の一撃、最重の一撃、この二つは重要な技。取り敢えず一つだけでも良いから、身につけておくことだ」


 一撃必殺、そんな甲斐性は今の俺にはない。ノヴァ師匠の例は参考にはならない。

 そんな俺の考えが表情に出ていたのか、ノヴァ師匠が言葉を継ぎ足す。


「戦闘において、無駄な時間をかけるのは愚かな行為だ。援軍がいた場合、死ぬぞ。

ぬるい攻撃を長々と続けるより、究極の一撃で瞬殺。これに限る」

「現段階では無理です」

「ふむ、お前は原型(オリジン)とは別に武器を持った方が良いのかもしれんな」

「別?」

「私の刀のように固定化されていない原型(オリジン)なら、機動力を活かしたり、目眩ましで敵を撹乱したり、といったサポート方面に使用した方が効率が良さそうだ」


 成程、確かに素で走るよりも万能球で移動した方が速いし、敵の視覚を奪うというのも立派な手である。

 工夫が大事という訳か。


「まあ、それは後で自分で何とかするんだな。今はその蚯蚓だが……」


 ドゴンッ


 ノヴァ師匠の話が終わる前に蚯蚓が襲いかかってきた。気の短い奴だ。


「だが甘いっ!」


 ここ一ヶ月で俺も成長した。この程度の攻撃は避けられる。

 と、思ったのだが――


「おい、余裕は良いが、油断は馬鹿のすることだぞ」

「うおっ!」


 避けた攻撃で、砂つぶてが飛んできた。

 予想外の攻撃だが、間一髪躱すことに成功する。


「大概のモンスターは阿呆だが、中には賢い奴もいる。ソイツがそうで、モンスターでは珍しく、そこそこ賢い」

「この蚯蚓が!?」


 蚯蚓にそんな脳みそがあるとは思わない。まだ、地球での常識が邪魔しているのか。

 蚯蚓如きに舐められるとは、屈辱だ。


「くそっ」

「いいか、さりげなく周りにも注意を払え。そこに打開のチャンスが眠っていることもあり、逆に足を引っ張られるものもあるかもしれん。気を配ることだ」


 今回の場合は砂が凶器になったという事か。集中力をもっと身につけなければいけないな。

 そんな考え事をしていると、またしても蚯蚓が飛び込んできた。


「また来た――が、」


 地面に激突する蚯蚓を回避し、その拍子に飛んできた砂つぶても躱す。

 蚯蚓は砂を撒き散らかしながら、土の中に潜っていった。


「へっ、同じ轍は踏まないぞ」


 自分の成長を感じて、つい頬が緩んでしまうが、その間にも気は抜かない。

 いつ、蚯蚓が飛び出してくるか分からないのだ。

 地面の揺れである程度の予測を立てながら、気配を敏感に探る。


「ふむ、二度目をやらせない、その心構え、成長したな」

「まあ、今まで散々鍛えられましたから」

「ふふっ、講義を続けるぞ。高度な駆け引きだと、隙をわざと作ったり、フェイントを何重にも含む攻撃、徐々に罠を張り巡らせたりも有りだな」

「フェイントですか?」

「そうだ。フェイントも大事。"虚"と"実"を使い分けるんだ」

「成程! 後は?」

「まあ、深い智謀知略はお前には無理だろうから、後は割愛する。以上だな」

「オマエ、ムリ」

「……さいですか」


 褒められているのか、貶されているのか、分からない。他意は無いのだろうが、ノヴァ師匠の言葉は、偶に、地味に俺を傷つける。

 涙は決して流さない。この一ヶ月でやわな心も鍛えられたのだ。ノヴァ師匠の罵詈雑言で、どれだけ俺の心が抉られてきたことか。

 思い出すのも鬱になる。


 最近、酷い言われようが落ち着いてきたと思ったら、言葉のフェイント。

 追従する鳥もどうにかして欲しい。


「また来たか……よし、万能球、奴が衝突するポイントに潜んで貫け。俺が囮になる」


 俺の命令に反応して、万能球が俺の近くに潜む。

 蚯蚓は、俺に直接攻撃してこないで、砂つぶてを利用することが多い。

 今回も恐らく――


「よし、こっちに来たっ! 多分、この場所にいれば――」


 蚯蚓がピンポイントで万能球が潜む場所に衝突する。

 直後、蚯蚓の悲鳴が響き渡る。


「ジュラァァァァァァッ!」


 俺の狙い通り、錐状に変化した万能球が蚯蚓の額を貫いた。

 地面に大きな衝突音を残して、蚯蚓は崩れ落ちていった。


「うしっ!」

「よし、合格だ!」


 思わず、腕と腕を絡ませ、ガッツポーズを掲げてしまう。

 身につけたことが役に立つ、というのは清々しいものがある。

 今までこんな爽快感は感じたことはなかった。高校に通っていた時には味わえなかった気持ちが胸を漂う。俺でもやれるんだ。






 日が暮れた所で、本日もテントでのお休みタイムを開始する。

この時間帯から、毎日の日課となった、素振りと柔軟体操、足場を変えての師匠との撃ち合い等が始まる。暗闇での模擬戦は、勘を養う訓練にもなるそうだ。


「ふうっ、今日はこれくらいで良いだろう」

「はぁひぃ、うっふぅ、はあぅふ、うっはぁ」


 ノヴァ師匠との特訓は、かなりのハードを極める。気を抜いた瞬間に、本当にご臨終しそうな攻撃が飛んでくることもあるのだ。この時の師匠は、俺を本気で討ち取ろうとしているのか、少し恐い。

 恐らく、間違って殺っちゃったとしても、しょうがない、で済まそうという魂胆なのだろう。

 常に必死になるのは、主に自分のためである。


 そのため体力の消耗が激しい。今日も過呼吸で荒い息を繰り返す羽目になっている。

 顔は汗と疲れで英気が抜け、お爺ちゃんになってしまったかのような錯覚を覚える。


「……おにいちゃん、こわい」

「ぬぅなっ! ひっはぅ、ふっはぅ」


 一度気を抜けば、もう起き上がれなくなるくらいの疲労感が全身を漂う。

 歯を食いしばって、ガクガクする足と腰に力を入れながら立っていた俺だが、我が癒しのジャニラちゃんからキツイお言葉が放たれ、さらにジェントルマンを努めようと己を奮い立たせる。


「だ、大丈夫だ……ぞ」

「むりは、だめ」

「いや、もう大分落ち着いてきた。ありがとうな」

「えへへ」


 ようやく、ジャニラちゃんからの優しい労りを頂戴した。俺の心の栄養ドリンクだ。


「飯の前に身体を浄化しないとな」

「じゃあ、俺は自分でやりますよ」

「ふむ、お前の原型(オリジン)は便利だな」


 恒例の食事タイムの前に、身体をキレイにすることを師匠に促されたので、師匠と同じ"光浴洗浄"を、万能球で再現する。

 これは、光を肉体に透過させて、不純物を除去する効果を持っているそうだ。

 先日試した時にできたので、それからは、自分で浄化するように心がけている。


「本来なら水浴びをしたいところなのだが、はぁ、しょうがないな」

「アルジサマ、キレイズキ」

「ふふ。美しさを保つ秘訣だな」

「できますよ」

「何っ!?」


 師匠から哀愁が漂ってきたので、何気なく、事実を述べる。

 今まで言おう、言おう、と思っていたのだが、面倒くさいので「まっいっか」と先延ばしにしてきたのである。

 予想はしていた通りなのだが、その食いつきっぷりに若干、腰が引けてしまう。


「ま、まあ、テントも作れるんですが、湯あみも可能ですよ」

「貴様、何故それを早く言わん!」


 ノヴァ師匠が、まるでお坊さんが喝を入れるかのように、クワッと目を見開き、叫ぶ。あまりの剣幕に、周囲の生き物達が息を潜めたような気がした。前にもこんなことがあったよな、と既視感(デジャブ)を感じたのは、ココだけの話である。


 一歩後退する俺。

 鬼が再来したかのような歪なオーラが、ノヴァ師匠の背後から見える気がする。

 突然の豹変ぶりは、恐ろしいので金輪際やめて頂きたい。


「い、いや、タイミングがなかったといいますか……」

「クッ、貴様と旅してからおおよそ二ヶ月。二ヶ月も無駄にしたというのか……」

「あ、あのぅ?」

「不覚だ」


 お叱りを受けると思いきや、自分の世界に浸り出すノヴァ師匠。師匠は、大仰なオーバーリアクションで、手と膝を突き、項垂れる。そこだけにスポットライトが当たっているかのような、わざとらしさを感じる。


「み、水も貯蓄しておきますか?」


 つい馬鹿正直に食料事件の時と同じ過ちを繰り返しそうになったのだが――


「それには及ばん。入れ物がなくてな。そのままというのも無理だしな」

「そうですか」


 ノヴァ師匠は、急に立ち直り、冷静にこちらを見返してきた。

 もっと迫ってくるかと思ったのだが、時間の無駄とでも思ったのだろうか。

 まあ、良い傾向なので、追求はしない。


 入れ物も作ろうと思えば作れるのだが、それを言い出したら、水の生成に生きろ、とか言い出され兼ねない。水は貴重は生きるのに必須だが、これまでも生きてこれたんだから大丈夫だろう。


「湯を張ってくれ。優先度マックスで頼む」

「分かりました」






 早速、風呂桶を出し、お湯を貯める。風呂桶はゆとりをもたせるために、広めにしておいた。お湯の温度は、疲労回復のために、42度程度がよろしいだろう。


「もう良いですよ、師匠」

「じゃあ、入ってくるか。ジャニラよ、お前も一緒にどうだ?」

「いく」


 人見知りのジャニラちゃんも、この二ヶ月の旅で、師匠に慣れたようである。気後れした様子もなく、付いていく。


 それにしても、師匠が湯船に浸かる光景を想像してしまう。あれでも見た目だけは良いのだ。以前にお触りした時の豊満な感触も残っており――


「一つ、忠告しておく。不埒な真似はしないことだ。命が惜しければな」

「ハハ、しませんよ。ハハハ、まさか。ハハハ」


 俺がイケナイ妄想をしていたのが顔に出ていたのだろうか。師匠から鋭い指摘をされる。特に、後半の発言が恐ろしい。

 エロと恐怖で、自分でも挙動不審なのが丸わかりしてしまい、冷や汗が止まらない。

 バレていなければ良いのだが。


「オマエ、ノゾキ、チェック」

「ふん、そんなことはしないさ。あ~あ、もう寝よっと」


 鳥が余計な事をしようとしているので、弁解はしておく。覗きませんよ、直接はね。

 フフフ、馬鹿な鳥め。万能球のお力を使えば、遠隔で覗き放題なのだ。

 精々、そこで無駄な監視をしているのだな。


 俺も健全な男子。

 例え残念な人だろうと、ノヴァ師匠は見た目はパーフェクトなのだ。いかに危険な船旅であろうと、男なら行くべきである。

 こんなチャンスは逃さない。






 只今、絶賛覗き中。

 万能球をニョロニョロとパイプのように伸ばして、臨戦体制は整えた。

 あとは除くだけだが――


「どれどれ、もう少しだ。おう、もっと下へ……あれっ? おかしいな。見えないぞ」


 ノヴァ師匠とジャニラちゃんが湯あみをしている中、覗こうとしているのだが、何故かボヤけたように見えない。湯けむりで見えないのではなく、レンズの標準がズレているかのように、視界が合わないのだ。


 ちなみに音声も込みの、ハイスペック仕様である。声だけが聞こえるのだが、こちらも聞き取りずらい。


「お前はどうしたいのだ?」

「いっしょにいたいの」

「ではやはり……」


「――はこの事を知っているのか?」

「うん」

「それにしても、その姿は、そうか、あの方か……」

「うん」


「ふん。一人だけ蚊帳の外は気に食わないが、何か考えがあるのだろう?」

「うん」

「なら、これ以上は追求はせん」


「最後に一つだけ。他の……」

「うん」

「そうか。そちらも気にはなるな。まあ、そんなにヤワではないか」


「……あれからもうそんなに月日が経つのか」

「……」

「母様達は決心したのかもしれないな」


「そろそろ、出るか……ん?」


 しょうがないので、音声だけでも楽しもうと、聞き耳を立てていたのだが、その時、ノヴァ師匠が何かに気付いたかのように上を向いた。

 俺と目が合った気がしたのは、気のせいだろう。そう願いたい。


 直後、ガラッと扉が開いたので、直ぐ様、寝たふりをする。


 師匠達が出てきた。

 ドキドキとしている自分が分かる。この胸の高まりは緊張か、はたまた恐怖か。

 まさか、覗きがバレてやしないだろうな。


 横の布団を捲る音がした。どうやら寝に入ったようだ。

 良かった。そう、ホッと胸を撫で下ろした時――


「見たな」

「ひいっ」


 耳元で地獄から這い上がるような声が聞こえて、思わず、悲鳴が出る。


「忠告した筈だ。命はない、と」


 いつの間にかノヴァ師匠が手にしていた刀が、チャキッと不吉な音を奏でる。

 その音が死神さんの「こんにちは」に聞こえてしまったのは、俺の心の叫びだろう。


「み、見てませんよ。本当に!」

「嘘は通じん。貴様の視線を確認した。私は希望のリーン様の恩寵を持つ。リーン様のお力は明暗を司る光と闇。周囲の視線など容易く把握でき、また視覚も自在に支配できる。現に私の裸は見えなかっただろう」

「た、確かに」

「ほう、今、自白したな」


 どうやら簡単な誘導尋問に引っかかってしまったようである。

 パニクっていたとはいえ、俺は馬鹿だ。脳みそを使う事に慣れていないのだろう。

 とにかく、ここは誤魔化す。嘘も突き通せば真実になるのだ。


「き、気のせいでは?」

「私に嘘をつくか。良い度胸だ」


 嘘は身を滅ぼすみたいなので、この時点で却下する。状況に応じて、柔軟に対処するのが、人生を生き延びるコツである。


「えっ? あ、いや、違うんです!」

「何が違うと云うのだ? ん? お前の命はあと数秒だぞ」


 首筋に刀のひんやりとした感触が伝わってきた。初対面の時もこんなだったなーっ、と現実逃避しようとしたが、このままでは死んでしまうので、我に返る。

 この場を切り抜ける最善の一言。何かないか……そうだ!


「い、いや、貴方のお姿があまりにもお綺麗でしたので、つい……」

「なに!?」

「その神々しいまでの誘惑には抗えませんでした。すみません。俺の修行不足です」


 しおらしく悲しげな様をアピールするのを忘れない。

 甘美な言葉と、同情を誘う態度の、二重攻撃だ。さしもの師匠も陥落せざるをえないだろう。


「う、うむ。ま、まあ、そういうことなら今回は不問に処そう。過ちは誰にでもあるからな。寛大な私に感謝するのだな」

「流石、師匠です」

「そうだな……くふふっ」


 予想通りの反応だ。コロッと手の平を返しだした。

 何だか気持ちの悪い笑い方をしているが、この際、気にしないようにしよう。

 だがやはり、おだてられるのには弱いようだな。


「おにいちゃん、えっち」

「ぐはっ」


 一難去ってまた一難。

 ジャニラちゃんからの不意討ちを浴びて、俺のマインドゲージが一気に下降する。

 この場の勝者はジャニラちゃんのようだ。幼女、おそるべし。


「しかし、お前は便利だな。よもやこんな場所で湯あみができようとは。最近は水脈が枯れていたりするからな」

「そうなんですか?」

「ああ、これも災厄の一つだな。これも魔兵器のせいだ」


 森で水浴びをした時に水位が低かったのは、水脈が枯れていたせいだったのか。

 しかし、それに魔兵器が関係している?


「魔兵器……ですか?」

「そうだ。あれが全てを狂わせているのかもしれん」


 ノヴァ師匠はそこで口を噤む。

 それ以上、聞くことはできなかった。






 話は俺の万能球に移る。何でも取り出せる原型など、前代未聞なのだそうだ。

 まあ、こんな力が蔓延っていたら、怠け者が溢れるだけの世界になってしまうか。


「しかし、お前のその原型(オリジン)。やはり珍種だな」

「まあ、不思議ですよね。便利なので良いですけど」

「それだけ便利だと、お前から離れられなくなりそうだな」

「へぇ、愛の告白みたいですね」


 ドスッ


 寝っ転がりながらの会話中、ちょっとした冗談を入交えてみたが、その時、俺の顔スレスレに何かが降り立った。

 横に視線を向けると、いつの間にか抜かれた刀が、地面に突き刺さっていた。


「はへ?」

「調子に乗るなよ、貴様。私はそんなに安い女ではない。貴様らと一緒にいるのは只の私の温情だ。"もやし"の貴様らをボディーガードするついでに鍛えてやっているんだ。ありがたく思えよ」

「は、はひ、ラジャー!」

「ふ、ふん、それでは寝る」


 今の発言の中に、ノヴァ師匠の琴線に触れるワードが含まれていたようである。

 恐怖に打ち震えながら、ひたすら師匠の怒りが過ぎ去るのを待つと、師匠は寝に入ってしまった。

 ノヴァ師匠の顔が赤かったのは気のせいだろう。






 深夜、まだ夜の時間帯に、目が覚めてしまった。

 僅かな月明かりを辿って、夜目で捉えたのは、近くで黄昏ているノヴァ師匠。

 普段見ないような艷やかな顔付きに、つい見とれてしまい、ドキッとしてしまった。


「師匠? まだ起きてたんですか?」

「ん? 起きたのか。ちょっとな……」


 横を見ると、ジャニラちゃんはすぴーっと可愛らしい寝息を立てて、熟睡していた。

 静かだが、落ち着くこの空間。異世界に来て、色々あったが、今はこの安らかな気分に浸りたい。


「師匠……その、色々とありがとうございます」

「何だ、藪から棒に?」


 深夜特有の、心に染み渡る穏やかな空気に、今まで言えなかった御礼の気持ちが、自然と口からはみ出た。


「いえ、普段のアレな師匠を見ていると、言いづらくて、ですね……」

「ほう、"アレ"とは、どういう意味だ? 是非とも、じっくりと話し合いたいな」

「いっ!? いや、まあ、そのですね……」

「ふふっ、冗談だ」

「へっ?」


 ノヴァ師匠の雰囲気がいつもと違う。何かあったんだろうか。

 そういえば、風呂場での会話、ジャニラちゃんと妙に仲良さげだったが――


「お前は……強くなって、世界をその目で見据えろ。その判断がどうであれ……」

「?」

「……いや、何でもない。要するに、今のお前は頼りにならん、ということだ」

「はっきりと言いますね。まあ、其の通りなんですけど」


 憂いを吹っ切るかのように、首を振り、自分を律しようとしている風に感じた。


「明日からはもっと厳しく鍛えてやるから、安心しろ」

「うっ、お手柔らかにお願いします」

「ふふっ、がんばれ……お前はもっと強くなるさ」


 そう呟いたノヴァ師匠の姿は、どこまでも優しく、そして儚げに見えた。


次回、いよいよ師匠との旅も終わり。


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