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拉致・のち、放置&放浪記  作者: 七草 折紙
『修行の旅』編
18/30

Another side 嘆きの聖羅

ヒロインの登場が少なかったので、割り込みで投稿。

 ふと、聖羅は覚醒した。辺りを見渡すが、見覚えのない部屋の中であり、妙に暑く、身体は汗ばんでいた。

 確か、山道の途中にあった洞窟に入って、穴に落ちて……そこからの記憶がない。


「ここは……どこ?」

「ここはザンダルの山にある、私達、赤人の住む村よ」


 聖羅の独り言のような問い掛けに、近くにいた誰かが答えた。


「私はどうして……思い出せない」

「貴方は水脈跡に倒れていたのよ。水分摂取が足りていなかったんだわ」


 ボーッとした頭で、聖羅は無意識に、誰かと会話していた。頭が冴えてくると同時に、自分が救助された事を把握する。

 確か、水脈は枯れていた筈。だとしたら水はとても大切なものなのではないか。

 それを余所者の自分に分け与えてくれた、という事実に素直に感謝する。


「すいません、貴重なお水を戴いて……」

「私達は水を必要としないからね。気にしなくても良いわよ」

「それはどうもご親切に有難うござい――」


 聖羅は、申し訳なさそうにペコリと頭を下げつつ、改めて、介抱してくれていた親切な人物に目を向けるのだが――


「ひっ」


 その人物のあまりの様相に、反射的に一瞬、悲鳴が出てしまった。

 ハッと我に返り、突発的に失礼な態度をとってしまった自分を戒める。


「あっ、す、すいません。他種族の方は見慣れないものでして……」

「ふふふ、いいわよ。良く凶暴そうな一族だと言われたものだわ」


 聖羅の前にいる女性は気にした様子もなく、その赤人特有の顔に照れ笑いを浮かべて、陽気に自虐ネタを披露する。それを目にした聖羅は、安易な自分を叱咤しつつ、ホッと胸を撫で下ろした。


「それにしても暑いですね」

「そうかしら? 私達には快適な気候なんだけどね」


 既に汗でびっしょりだった聖羅は、その不快感を拭うために、胸元をパタパタと扇ぎ、素肌に風を送り込もうとする。

 室内は新鮮な空気の循環はなく、篭りきった真夏日のような熱気で、サウナ状態になっていた。扇風機や冷房の類が無い今の状況は、正直、熱中症にならないか心配である。


「これが平温なんですか?」

「そうよ。外の人は皆、暑いって言うわね。何でかしらね?」


 心底真面目に不思議そうにしている赤人の女性を見て、聖羅は状況改善は不可能と悟り、気合いで我慢することにした。

 聖羅は気を紛らわすために、話を転換することにする。


「あの、私を助けてくれたのは貴方でしょうか?」

「私? ふふふ、違うわ。外に出稼ぎに行ってた男連中が偶然見つけたみたいなの。

水脈跡はそこまでの近道なのよ。モンスターも出ないしね」


 どうやら聖羅を救助してくれた人達は、今ここにいないようである。

 だがそこは伝説の生徒会長様。直接、御礼を言わないと気が済まないので、居場所を聞くことにした。


「あの、その方達はどちらに? 御礼を言いたいのですが」

「いいわよ、そんなの。特に今は問題があってね。集会を開いている最中なのよ」

「問題、ですか?」

「厄介事がね。貴方が気に病む必要はないわ。これは私達赤人の問題なの」


 暗に、関わるな、と言われたみたいで、ちょっとばかし凹む聖羅だったが、余計なお世話をするのも気が引けるので、深くは追求しないことにした。


 無言も辛いので、何か話題を探していた聖羅だが、自分の服が着替えさせられていることに気付く。

 まさか脱がされたのだろうか、という考えが頭を埋め尽くし、つるっとした頬っぺたがうっすらと赤く染まっていく。


「あの、服は……」

「ああ、服なら洗って置いたわよ」


「いえ、そうじゃなくて」

「ふふふ、大丈夫よ。着替えさせたのは私だから」


 もし男の人に裸を見られていたら、と思うと恥ずかしくて、穴があったら入りたいレベルであったが、幸い目の前の女性に着替えさせてもらったようである。

 それでも例え女性であっても抵抗はあり、羞恥心は消えない。それを表に出さないように、冷静に振舞おうとするのは、いわば聖羅の癖であった。周りから求められる自分を演じる悪癖、それは聖羅が嫌悪している部分なのだ。


「そ、そうですか。それは度々、有難うございました」

「貴方って、着やせするタイプ? 男受けする身体よねぇ」

「えっ? あの、えっと……」


 急なガールズトーク全開のノリに、聖羅は戸惑い言葉に詰まる。

 その反応を楽しんだ赤人の女性は、ツボに嵌ったかのように、聖羅を指差しながら、笑いこけた。


「あははっ、真っ赤になっちゃって。貴方、男をまだ知らないのね」

「なっ!? にゃんて……コホンッ、何て事を言うんですか!」

「動揺しすぎ。あははははははっ!」


 種族は違えど、男と女の関係は人類皆平等、種の繁栄のためには必要不可欠なものである。だがそれらの話題は、聖羅には荷が重い話であった。その手の話には免疫が弱すぎたのである。


「もう、笑いすぎよ」

「うふふ、ごめんなさいね」


 目の前で笑っている女性が、容姿は全然違うのに、親友の鬼の風紀委員長殿と重なって、故郷を思い出してしまった。

 親友は今頃何をしているのだろうか。途方もない異世界ホームシックが聖羅を襲う。


「さて、起きたことだし、食事にしましょうか」

「食事!? え、ええ、頂けるのなら是非ともお願いします」


 赤人の女性が、話を打ち切り、立ち上がって、食事を提案してきた。それに対して、またしても聖羅はペコリと丁寧に頭を下げる。

 空腹でひもじかったのを思い出すと、ジュルリと舌舐めずりをしてしまった。

 待望の食事にありつけて気が緩んでしまったのであろうか、レディーにあるまじき行為である。そんな事を気にも止めずに、スキップを踏みそうな軽い足取りで食卓に付いていく聖羅であった。






 聖羅達が食卓に到着すると、赤人の男性が一人、席に座っていた。

 男性は聖羅達に気付くと、声を掛けてきた。


「おやっ、起きたのかい?」


 どうやら聖羅に向かって問い掛けているようだ。


「あっ、はい、ご親切に有難うございます」

「はは、気にしなくていいよ。さあ、座った、座った」

「し、失礼します」


 聖羅がお辞儀をすると、男性は快く迎え入れてくれた。

 聖羅は、自分が居るのが場違いなように感じ、恐縮しながら、席に着いた。


「兄さん、父さん達は?」

「まだ集会中だ。長引くようだから、先に食べてよう」


「う~ん、それほど大変なのかな?」

「俺達が気にしてもしょがないだろ」

「まあ、そうなんだけどね」


 赤人の女性が不安そうな顔をすると、兄さんと呼ばれた男性が宥めるように落ち着ける。


「ほら、ギリリ、客人を待たせるんじゃない」

「あら、ごめんなさいね」

「いえ、お気になさらずに。あの、ギリリさんって言うんですね。私は聖羅です」


 ふいに男性から飛び出した女性の名前を聞いて、聖羅は肝心な自己紹介が抜けていた事に気付き、自分の名前を切り出す。


「そういえば言ってなかったわね。そうよ、私の名前はギリリ。それでこっちの、のほほんとしたのが兄のギレルよ。よろしくね、聖羅♪」


「のほほん、は余計じゃないか?」

「良いのよ、本当の事なんだから」


「裏表のない素直な妹をもって、僕は幸せだよ」

「はい、はい」


「お二人共、よろしくお願いします」


 聖羅は、二人の恒例行事のようなやり取りを黙って聞き、タイミングの良い所で、改めて挨拶を挟む。空気を読んで間を把握するのも、生徒会長たる聖羅の培ってきた、取りまとめのための必須技術であった。これにより、変な後味を残すことなく、次の話題に移行することができるのだ。


「そう、そう、あと、両親が居るんだけど、集会で今出かけているんだ。家は四人家族なんだよ」

「母さんの料理は最高なのよ」


 ついでに家族構成まで丁寧に説明する律儀な兄妹に、聖羅は純粋な好意を感じる。


「それでは、食べよう。遠慮しないで食べてくれ」

「そうよ。頂きましょう」

「はい、頂きます!」


 ようやく食事開始のようだ。

 ひもじさがピークを迎えていた聖羅は、期待に目を輝かせて、いざ手をつけようとしたのだが――


「こ、これが食事?」


 食卓に並べられた料理の数々を目撃して、聖羅は呆然自失する。料理を取りに行ったフォークを動かす手が止まる。

 贅沢を言うつもりはないが、これはとてもじゃないが食えそうにない。それ以前の問題なのだ。

 そんな聖羅の様子を見た赤人の女性ギリリが、首を傾げながら声を掛ける。


「どうしたんだ? 遠慮しなくてもいいんだよ」

「い、いえ、その……」

「そっか、灰人は偏食家が多いからなぁ。口に合わないのか。う~ん……あっ、そういえば、灰人の客人が一人来てたわね」


 ギレルの問いかけに、どう答えて良いものか思案していた聖羅だったが、気を効かせてくれたギリリが代弁してくれた。


「その客人は今、父さん達と一緒にいるよ。確か珍しい食料を持参していたな」

「あっ、ちょっと待ってて。挨拶代わりに貰った食料がどこかにあった筈だわ」


 聖羅の他にも客がおり、その人が持ってきた食料とやらがあるようだ。

 聖羅にとっては最後の希望、縋る思いである。


「あの、お構いなく。少しだけ頂ければ」


 申し訳なくて遠慮するが、全くいらない、とは言わない。このままでは餓死一直線、背に腹は変えられないのだ。


「気にしなくても良いよ。我々には必要のない食料だからね。灰人は良くあんなものを食べられるよね」

「あの灰人も胡散臭かったわよね。悪そうな顔してたし」


「こら、ギリリ、人の悪口を言うものじゃないぞ」

「兄さんは堅いわね」


 兄妹の緩いやり取りだったが、聖羅にとっては死活問題。不安を煽る会話に、どんな食料が出てくるのかと気が気でない。最悪、ゲテモノだろうが何だろうが食さないといけない、という切実な覚悟を胸に秘めていた。

 出てきたのは――


「林檎! ……とバナナ?」


 見た目林檎に似た赤い果物と、バナナのような形をした毒々しく青い推定果物。

 取り敢えず、林檎の方だけを頂くことにした。


「嗚呼ぁ~~っ、美味しい、美味しいわ。うっ、ううっ」


「ちょ、ちょっと、貴方、何で泣くの?」

「おい、どうしたんだ。病気か?」


 我慢してきた涙が決壊して、泣き笑いしながら食べる聖羅を見て、ドン引きする兄妹。

 周りが見えずに貪り食っていた聖羅だが、腹が少し満たされて冷静になると同時に我に返り、恥じるようにわざとらしく咳払いをして、お茶を濁す。

 聖羅は、微妙な空気になった食卓を何とかしようと、適当な話題を放り込み、無かったことにすべく、懸命な努力を始めた。


「……コホンッ。……あの、その灰人の方というのは、どういった用事でこちらに?」

「えっ? ああ、何でも、地質調査とかで来たらしいんだが」

「怪しいったらありゃしないわよ」

「そう……ですか」


 会話は数秒で終了した。聖羅にこれ以上の話題はない。

 と、ここで再びギリリからのフォローが入る。


「聖羅はこれからどうするの? 案内なら私がするわよ」


「そうね……しばらく厄介になってもいいでしょうか? 私にできることはお手伝いくらいしかないと思いますけど……」


「そんなの気にしないでよ」

「そうだ。遠慮はいらない、と言っただろう?」


「ありがとう」


 無償の優しさに触れ、世界は違えど人の心が同じ、という事に聖羅は安堵を覚える。

 それとは逆に、聖羅の中に、言いようのない胸騒ぎが立ち込めていた。

 一抹の不安が聖羅を襲うのであった。


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