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拉致・のち、放置&放浪記  作者: 七草 折紙
『修行の旅』編
16/30

第十二話 実戦

遅くなりましたが、続きです。

戦闘描写って難しいですね。

 眼前には、全身が岩で構成された人型のモンスターが、強力な敵意を放っている。


 胴体を支える両足に、ボクサーのように構えられた両手。手足ともに、指の数は人と同じく五本ある。攻撃の力が結集しているからなのだろうか、しっかりと握られた拳からは、ただならぬ気配を感じる。一撃くらっただけでお陀仏しそうだ。

 頭部もついてはいるが、急所になり得るような目や鼻、耳や口などは確認できない。全身均一で、特別脆い部分はなさそうだ。硬そうな岩を斬るか砕くかするしか打開策はないと考えられる。


 名前は確か"石岩拳人"とか言っていたか。見た目通りのネーミングである。


「まずは、戦ってみろ。死ぬ寸前には助けてやる。それまでは自力で頑張れ」

「おにいちゃん、ふぁいとっ!」


 いつ動くのかと、冷や汗を流しながら"石岩拳人"を観察していた俺に、ノヴァ師匠が無慈悲なお言葉を発する。覚悟はしていたが、やはり鬼教官であった。

 ジャニラちゃんもその気になっているのを見て、心の奥に虚しい風が吹くが、折れそうになった心を気力で持ち直す。


 いかん、いかん、弱気でどうする。やると決めたばかりではないか。


 声が届いてきた後方にちらりと視線を向けると、いつの間にか鳥を肩に乗せたノヴァ師匠とジャニラちゃんが、万能球を降りていた。原型(オリジン)を使え、という意思表示だろう。遠慮なく呼び戻すことにする。


「来い、万能球!」


 ヒュインッと風を切りながら一瞬で万能球が手元にやって来る。

 俺の武器はこの万能球只一つ。恐らく雷や炎を出したところで効かないだろう。ならば、原型(オリジン)を使いこなすしかない。

 原型(オリジン)は心の力、想いの強さで強度も威力も変わる、とノヴァ師匠が言っていた。それと、一点集中だっけか。とにかくイメージだ。

 直径三メートルはあった万能球を直径十センチ程に凝縮させる。只小さくするのではなくて、密度を増すように圧縮する。これを弾き飛ばすイメージで――


「貫け!」


 石岩拳人の腹にドゴンッと直撃した音が響き渡る。腹付近が衝撃で砂塵で包まれて、巨体が浮き上がる。確実に砕いた、もしくは貫いた手応えがあった。


――やった!


 そう、勝利を確信した瞬間――石岩拳人は後方に軽くステップを踏んだかのように、崩れた体勢を立て直した。


「――っ!?」


 無傷。砂埃が晴れた後の腹部には傷一つなかった。


「はぁ」


 モンスターの耐久性に一人震撼していた俺に、ノヴァ師匠の呆れたような溜息が聞こえてきた。


「イメージを"変える"んじゃなくて、イメージを"強く"するんだ」

「強くですか? したつもりだったんですが……」

「あの程度じゃ駄目だな。もっと強いイメージだ。より現実的な何かを想像しろ!」

「現実的……ですか」


 イメージしやすいもの……そうだ、ノヴァ師匠の刀だ。あれなら――


「おい! ボケッとするな! 敵は銅像じゃないんだぞ!」

「えっ?」

「ちっ!」


 我に返って前を向いた俺に、高速で何かが迫ってきていた。

 それを認識したと同時に、キンッと鋭い金属音がして、辺りに風が巻き起こる。

 混乱した俺の瞳には不思議な光景が映った。石岩拳人が右腕を何かに弾き飛ばされたかのように仰反っていたのだ。


「はっ? へっ?」

「お前は馬鹿か! 私がいなければ、今ので死んでいたぞ!」


 何が起きたか把握する前に、近くからお怒りの声が飛んできた。気づくと、いつの間にかノヴァ師匠が目の前に立っていた。手には刀が握られている。

 助けられた? 石岩拳人の姿勢とノヴァ師匠の状況が相成って、自分が殺される一歩手前だったことを悟る。背筋にぞっと悪寒が走った。


「……」

「戦闘中は常に気を抜くな。油断していると、あっけなく死ぬぞ」


 頭に霞がかかるが、神経は逆に研ぎ澄まされていく。ノヴァ師匠の言っている事も理解できる。辺りの風のそよぎや、砂の擦れる音、自分だけでなくノヴァ師匠の呼吸まで聞こえてきた。まるで追憶するかのように、場全体を客観的に感じ取っている自分がいるようだ。


「おい、聞いてるのか?」

「……はい」


 ノヴァ師匠の問いかけに対して軽く返事をする。

 受け流すような返しだったにも関わらず、ノヴァ師匠からは感心したような声が返ってくる。


「ほう。スイッチが入ったか。それが常時できれば問題ないが、まあ、一時的なものだろうな」


 石岩拳人を牽制しつつ、ノヴァ師匠の言葉に耳を傾ける。


「先程の一点集中の発想は良い。無駄を省くとはそういうことだ。あとは……ん?」


 話を聞きながら、俺は刀を形成していた。ノヴァ師匠と同じ黒刀だ。これならば、石岩拳人の装甲だろうと、貫けるかもしれない。

 俺の刀を興味深げに、少し照れながら、ノヴァ師匠が指南を続ける。


「ゴホンッ、ま、まあ、丁度良いか。原型(オリジン)の使い方だが、曖昧なイメージはやめろ。

"刀のようなもの"ではなく、"刀"。"斬れたらいいな"ではなく、"斬れるのが当然"。

"斬れるかも"ではなく、"確実に斬れる"と思い込め!」


 成程、弱気じゃ駄目ということか。単純で純粋な馬鹿程強いのが、原型(オリジン)。あとはこの刀を使いこなす技量なんだが、一朝一夕じゃ無理だろうな。


「まあ、刀術も教えるつもりだったからな。この際、それで斬ってみろ――っと、その前に……フッ!」


 どんな身体能力をしているのか、ノヴァ師匠が目の前から消失したかと思ったら、フシュンッ、と空気が抜けるような音と共に、石岩拳人の左腕が斬り裂かれる。


 まさに一瞬の出来事。


 ドスンッ、と重量を感じさせるように、断たれた腕が垂直に落ちる。俺のいる場所にまで、振動が伝わってきた。


「よし、腕一本ならいい勝負ができるだろう」


 物騒な光景とは裏腹に、振り返って笑顔で頷くノヴァ師匠。一人で勝手に納得して、軽い足取りでこちらに戻ってくる。

 その姿は、アンバランスな故か、現実味を感じない。どう反応して良いものか、戸惑いが俺を襲うが、自然と曖昧な笑みが出てくる。頬が引き攣っているのは気のせいだろう。


「そ、そうですねぇ、ははっ」


 石岩拳人は痛覚がないのか、平然としており、怒ったようにノヴァ師匠を殴ろうとしている。

 石岩拳人が右腕一つで懸命に振るうジャブを、ノヴァ師匠は見もせずに余裕で躱している。拳速はかなりのものだが、一向に当たらない。


「凄いというか何ていうか……あれが心眼ってやつか。まさか、実物がいるとはな」

「だいじょうぶ?」

「ジャニラちゃん? あ、ああ、大丈夫だ。危ないから下がってるんだ」


 ノヴァ師匠の実力を垣間見て、唖然としていた俺に、ジャニラちゃんが気を使ってくる。こんな小さな子に心配される、頼りない自分が情けなくなった。このままじゃいけない、もっと頼れる男になりたい。


――やってやるっ!


「くぉぉぉぉぉぉっ!」


 気合いの雄叫びで自分を叱咤し、渾身の一撃を与えるべく、ノヴァ師匠と入れ違いで石岩拳人に突っ込んでいく。

 助走をつけての、俺の最大の突きだ。


「おい! 馬鹿正直に真正面から突っ込むだけの奴がいるか!」


 ノヴァ師匠の焦った声が耳に伝わるが、構わず走っていく。


 奴はさっきパンチを放ったばかり。注意も俺から逸れている。

 このスピードなら、もうパンチは間に合わない筈だ。


――今ならイケる!


 だが、攻撃が届く前に、石岩拳人の右ストレートが飛んできた。


「なっ!? ぐあっっ!」


 慌てて刀を水平にして、両手で前に突き出すが、強烈な衝撃を受け止めきれずに、思いっきり吹き飛ばされる。


 背中から落ちるのはまずいので、空中で必死にバランスを取り、不安定ながら、両足で何とか着地に成功する。腕がビリビリと痺れているのは、歴然たる力の差を物語っている。


「くそっ、駄目か」


 ノヴァ師匠が余裕でよけていたから、甘く見ていたが、パワーもスピードも俺より断然上だ。この世界にはこんなのがゴロゴロいるのか、やってられないぞ。


「そんなへっぽこ筋力で何ができる。自分に今できることを選択するんだ」


 俺が内心泣き言を発していると、ノヴァ師匠のアドバイスが飛んできた。

 今できること? これ以上にできることはないぞ。


 俺が皺を寄せて考えていると、ノヴァ師匠から深い溜息が溢れた。


「はぁ、いいか、まず戦闘の基礎からだ」


 俺は基本からなっていないらしい。そもそも基本とは即席で何とかなるものなのか。

 ノヴァ師匠の話は続く。


「自分の手持ちのカードと相手の実力を天秤にかけるんだ。勝てないようなら、逃げることだけに集中しろ。最初は"見切り"が大事」

「つまり、ここは逃げろ、と?」

「そうではない。この程度の相手、お前でも楽勝だ。戦闘は相性。相手の実力が自分を大きく下回る場合は力押しでもいけるが、そうじゃない場合は相手の弱点を突け。自分の弱点を見せずに、相手の弱点のみを攻撃する。常識だぞ」


 弱点か……となると、あの岩男の場合は……足か。

 パンチを掻い潜って、足を攻撃して、倒れたところを滅多刺しする。

 卑怯ではない、生き残るためには綺麗事はなしだ。


「それから刀は腰を入れて体重を乗せるように振れ。へっぽこじゃあんなのでも斬れないぞ。どんな斬り方でも良い。今のベストをつくせ!」


 ノヴァ師匠の言いたい事は終わったようである。

 俺が今するべきことは理解した。一番慣れ親しんでいる振り方は、アレしかないだろう。


「よし、決まった。行くぞ!」


 こっちに突撃してくる石岩拳人に向かって、俺も飛び出していく。

 まずは集中、第一段階はパンチを見切ることだ。ならば――


「ここだ!」


 パンチが当たる距離の一歩前で急停止。奴が拳を引く動作に合わせて飛び込み、軸となる左足をたたっ斬る!


「大回転ホームラーンッーーーーーー!」


――これぞ地球人の伝統スタイル、ザ・野球のフルスウィングだ!


 刃が右足の表面に食い込み、振り切った勢いで分厚い抵抗を通り抜ける。

 ズシンッと派手な音を立てて、石岩拳人が左斜めに倒れ込んだ。


――その隙を見逃さない!


「もういっちょ!」


 今度は右足を同じように斬り裂く。


「よっしゃぁッ!」

「そのまま畳み込め! 早くしないと復活するぞ!」

「ヘッ?」


 勝利を確信したポーズを取る俺に、ノヴァ師匠から激しい声が飛ぶ。

 後は動けない石岩拳人をやっつけるだけだと思っていたのだが、見ると、足元が地面と融合していく。


「おわっ、やばっ」


 慌てて石岩拳人の首を斬り裂くが、まだ動いている。


「ちょっと、これ弱点とかないんですか? キリがないんですけど!」

「ソイツの弱点は胸の中心部にある核石だ。鳩尾の辺りを狙え!」


 鳩尾というと、胸と腹の間くらいだったな。


「そこかぁッ!」


 倒れている石岩拳人の推定鳩尾部分に刃を突き刺す。一際違和感のある手応えがあった。


「どうだ!」


 それが決定打だったのか、石岩拳人の地面との融合が止まる。

 それに合わせて、全身がひび割れていく。


 ピキピキピキピキ……ピキピキッ……ドォォォォォォンッ……


 全身に亀裂が走ったのを最後に、石岩拳人は無数の岩石に砕け散った。地面が激しい音と共に揺れ動く。


「はあっ、はあっ、お、終わった……のか?」

「まあ、ギリギリ及第点だな。戦闘がどういうものか体感できただろう」


 惚けていた俺の後ろで見ていたノヴァ師匠が、腕を組みながら採点を下す。

 終わってみると、改めてモンスターの強さを認識した。

 不甲斐ない自分と、現実の厳しさに、力ない声が溢れ出る。


「……精進します」


 気怠い疲労感を残して、戦闘は初勝利で幕を閉じた。


 肉体的、精神的に非常に疲れました。


筆が進みません(泣)。

一週間に最低一話は投稿したいのですが、それさえも危なそうです。

ご勘弁ください。

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