第十一話 悲しみの食卓
やっと投稿です。
時間が空いてすいません。
早速、西へと出発するが――
「あの、ずっと歩きなんですか?」
「何だ、歩き以外に何があるというのだ」
「乗り物を使った方が、早く着くと思うのですが」
女はこの広い荒野を普通に歩いて行こうとする。体力を温存するとか、考えることは沢山あると思うのだが、計画性がまるで感じられない。今までこれで生きてきたのであれば、綱渡りも良いところである。余りの不毛さに耐え切れなくなり声をかける。
「ふむ。その辺にそれらしきモンスターがいれば良いのだがな」
「モンスター?」
「それ以外に何があるのだ」
「い、いや、それがですね――」
「そういえば、"砂馬"がいたか。だがあれは臆病なモンスター、滅多に会えないぞ」
「スナウマ、オクビョウ」
俺の意見を遮り、言葉を重ねる女。鳥のリピートが苛つきに拍車をかける。
砂馬云々はこの際放っておこう。俺の提案には関係ない。だが、まずは人の話を最後まで聞いてもらいたい。
そういえば、まだ自己紹介すらしていない。忘れているのではなく、たぶんどうでも良いのだろう。
適当かつマイペース。とんでもない女だ。
こめかみに浮かぶ青筋を抑え切れないが、めげずに再び話しかける。
「あのですね、この球、乗れるんですよ」
「ほう、便利だな」
理不尽な適当女に対して、聴覚だけでなく視覚にも訴えるために、実際に万能球を出して乗り込んでみせる。どうだ、と言わんばかりに見せつけるが、女の反応は冷めたものだった。一方通行の言葉のキャッチボールに、心が折れそうになる。頑張れ、俺。
「だがお前は歩きだ。まずはその貧弱な足腰を鍛えないとな」
「え゛っ」
「見たところ、お前は体力、筋力等の基礎能力に大きく欠けている。確かにその原型に乗っていけば、旅は楽だろう。だが、それではいざという時に役には立たないぞ」
おっしゃる通りでございます。俺は"楽"が好きなんです。名は体を表すと良く言いますが、正に其の通りで、俺の名前"神楽楽世"にちなんで二倍の楽を要求したいです。
「お前とずっといるつもりはない。西の山まで歩いて行けば約三ヶ月。それまでにある程度は自衛できるようにしないとな」
「……そうですね。善処します」
「おにいちゃん、がんばって」
既に女の中では決定事項のようだ。何故かやる気になっている女を横目で確認して、反論は無駄と悟る。ジャニラちゃんの励ましだけが心のオアシスである。
「はぁ、やるしかないか」
自然に溜息が出るが、この先危険が待っている可能性を考えると、無下にするのは下策である……そう、理性で分かってはいるのだが、ゲームざんまいで運動不足の男子高生にはキツイものがある。幽霊部員という名の準帰宅部員に甘んじてないで、真面目に部活をやっておけば良かった、と今更ながらに後悔する。
「今から体を鍛えてもたかが知れている。ならば力ではなく、技で敵を倒す術を習得するべきだろう。お前には基本的な体術と刀術。それと原型の扱い方について教えよう。あくまで基礎の範囲だがな」
「オマエ、キソ、オボエル」
意気揚々と女が今後の予定を述べていく。嬉しそうにしている意味が分からないが、後には引けないので、気合を入れることにする。ちなみに鳥は今後無視することに決めた。
鍛錬と聞いて、部活に入部したての頃の、まだ夢を見ていた時期を思い出す。最も、現実で己の運動神経に失望して、最後には顔を出さないようになってしまったが……。
思えばあの頃からであろうか。勉強もスポーツも駄目。そんな自分に見切りをつけてしまい、ゲームや漫画にのめり込んでしまった。こんな俺でもまた輝けるのだろうか。
この世界に無理矢理連れて来られて、そのうち帰れるさと楽観視していた。いや、今まで全ての事柄を楽観視することで、現実逃避をしていたのかもしれない。
聖羅先輩を見つけて、帰る方法を見つけて、再びジャニラちゃんをビラトまで送り届ける。皆笑顔でハッピーエンドを迎えるんだ。
今、この女に会わなかったら、俺はこの世界で野垂れ死にしていたかも知れない。これはチャンスだ。
「ふむ。顔付きが変わったな。それで良い。腑抜けた顔はするな」
「はい!」
「良し! その前に飯だ!」
「メシ、タベル」
「は?」
気合いが漲る俺だったが、直後に拍子抜けする展開に変わって、毒気を抜かれたような声が出てしまった。今のはそのまま鍛錬コースだと思っていたのだ。どうもこの女の思考が読めない。
「腹が減っては戦はできないからな」
「ま、まあ、そうですね。なら――」
「おい、ピーコック! この辺に食料はあったか?」
「ショクリョウ、ナイ」
「――そうか。参ったな……ここら辺で食えそうなのはいないぞ。"土砕き"もまずくて食えたものじゃない。はぁ、また干肉だけか」
女がまた俺の話を飛ばした。ナイーブな自分の心が痛い。挫けるな、俺。ここは俺のターンだ。万能球の凄さを見せつけるんだ。
「俺が持ってますよ!」
「何!?」
溜まっていた鬱憤が大声となり、つい叫んでしまった。だが、女の吃驚した顔が見れたので、俺の溜飲は下がった。ふふふ、驚くのはこれからだ。よし、出て来るのだ。
「ククク。イチオシのドンカ亭セット、ドリンク&デザート付きでございます。ゆっくりとご堪能下さい」
「なっ!?」
香ばしい匂いが辺りに立ち込めて、女が二度目の驚愕を表す。ククク、気分が良い。
肉の焼ける香りにやられたのか、女が手で掴み取り、一口食べる。手で持って熱くないのかが気になるが、平気そうな顔をしているので大丈夫なのだろう。
そこで、女に三度目の衝撃が走る。口に持っていった手が止まり、体全体がわなわなと震えている。
「――っ!? ……こ、これはっ!?」
「フフフ。どうです。俺の大好物です。美味いでしょう?」
「……」
「ちなみにおかわり自由ですよ。幾らでも作って差し上げます」
「……」
「あれっ? あのぅ? もしも~し?」
「……」
女が反応しないので、下から顔を覗いてみると、涙が出ていた。そこまで感動したのだろうか。女は、俺を無視して独り言を呟いていた。
「ううぅ。みすぼらしい食事をすること半年。久しぶりのまともな食事。それも、こんな……こんな……こんなモノは生まれて初めて食べたぁーーーーーーっ!」
女は、呟いていたかと思うと、いきなり発狂したかのように、空に向かって大声を出し始めた。まるで天まで貫けと言わんばかりの勢いである。
場に沈黙が訪れると、女は、唖然としていた俺をびしっと指差して、強い口調で命令した。
「今日からお前は食事係だ。それと今日から毎日あるったけの食事を用意しろ。今後の私の食事だ」
「アルジサマ、ヨカッタ、ヒモジイ、ナクナル」
「あ、ありったけですか?」
ありたっけというと、とんでもない量になる。それが分かっているのだろうか。俺の疑問を察したのか、女が声高に宣言しだす。
「そうだ。私の恩寵で保存が可能なのだ。幾らあっても足りない。よって、軽く一年分くらいは欲しいな」
「い、一年!?」
「そう、最低一年分だ! 今日からお前は食事生成に生きろ!」
女はあまりの衝撃に、ハイテンションで失礼な発言を繰り返す。生き様まで決められるのは、たまったもんじゃない。
だが、血走った目で迫ってくる女を前に、断る勇気は俺にはなかった。
「わ、わかった! わかったから近寄るな!」
「ふん。初めからそう言えば良い」
気がつくと、ジャニラちゃんが俺の服をギュッとしてしがみついていた。思うことは同じようである。それ程、女の形相が怖かったのだ。
女が落ち着いたのを見計らって、食事に移行する。
大きいテーブル状にした万能球から次々に食べ物を出していく。地球産の食べ物からビラトで飲み食いした野菜と果物、それに酒。酒は女に追加で要求された。酒豪でもあるようだ。機嫌よく呷っている。
準備終了と共に、早速がっついてくる女。食い物を口全体にほうばり、丸い頬っぺを作り、貪るように食べている。貸してあげたフォークとナイフを存分に使って、物凄いペースで食事を口に入れていく。どれだけ飢えていたのだろうか。若干哀れみの情が湧いてくる。
呆れたように見ていると、それに気付いた女が食事をしながら不思議そうに語りかけてきた。その様子はとてもじゃないが、マナーのなったレディーには見えない。
「(もぐもぐ)それにしても、その原型は変わってるな。通常の原型は自在に動き、形を変えるだけの筈だ。雷や水、食料を出すなど聞いたことがない。お前、珍種だな」
「そうなんですか?」
「その力は恩寵の領域だぞ。恩寵を持ったまま物質化する原型など聞いたことがない」
どうやら万能球の謎はまだ全て解けていないようだ。俺は何をされたのだろうか。
というか、実験が終わったなら普通に家に帰して欲しかった。まさか放置されて異世界を放浪することになるなんて、夢にも思わない。無責任な連中だ。
女の話はさらに続いた。
「まあ、とにかく、原型にしろ恩寵にしろ、効率の良い扱い方は、無駄を省いて一点集中。只それだけだ。締りのない状態で使用しても、さっきみたいに簡単に砕けるぞ」
「一点集中ですか」
「そうだ。恩寵の力は心の強さ。より純粋で強固な想い程、崇拝事象を揺り動かし、強大な恩寵を受けられる。それは原型も同じ。本来、"土砕き"ごときに砕ける代物ではない筈だ。お前は心も弱い。修練することだ。そんなんじゃ、これから先もたないぞ」
ズバズバと言われ放題である。親切に教えてくれているのは分かるが、俺の心は既にズタボロだ。
「ところで、はいじん」
「あ、あの、できれば、ハイジンはやめて頂きたいのですが」
話題を変えようとしたのか、"はいじん"が再び降臨した。いい加減、廃人は卒業して欲しい。ここは強固に反対だ。
「そうか、はいびとだったか。面倒だな。お前、名は何という?」
「あ、はい。神楽楽世と言います。楽世でいいですよ」
「何!?」
「あの、何か?」
「い、いや、私の勘違いだな。よし、楽世だな」
俺の名前を聞いて、二度見をする女。何かおかしなところでもあったのか心配になったが、勘違いならば良い。
そういえば、俺も女の名前を知らないではないか。
「あの、貴方の名前は何と言うんですか?」
「ん? 言ってなかったか。そうだな……私はノヴァだ」
「ノヴァさんですか」
「そうだ。お前は師匠でも良いぞ」
「じゃあ、ノヴァ師匠」
「う、うむ」
女の呼び方はノヴァ師匠で決定した。まさか自分に師匠なるものができる日が来ようとは、人生は分からないものである。
これで自己紹介は終わりと思いきや、ノヴァ師匠は俺の隣に視線を移した。そういえばジャニラちゃんの紹介がまだであった。
早速、ノヴァ師匠が聞いてくる。
「ところで、そっちの緑人の名は何という?」
「この子はビラトの民でジャニラちゃんといいます」
「ジャニラ、です」
俺の紹介に合わせて、小さな声で挨拶をするジャニラちゃん。人見知りなのに良く頑張った。えらいぞ。
ノヴァ師匠は今になってジャニラちゃんの顔をはっきりと見たようだ。その顔が驚きに彩られる。
「お、お前は……」
「ん? ジャニラちゃんがどうしましたか?」
「い、いや、気のせいだな……。どういうことだ?(ボソッ)」
何やら呟いていたが、聞こえなかった。確かに愛らしいが、そこまで驚くことはないだろう。
少しの間考え事をしていたノヴァ師匠だが、ふと気持ちを切り替えるように、新たな質問をしてきた。
「それで楽世。西へ行ってどうする? 目的でもあるのか?」
「目的ですか。人探しですね」
「人探しか。どんな奴だ。名前は?」
「そうですね。長い黒髪をして俺と同じような服を着ている少女です。名前は睦月聖羅と言います」
「!?……そ、そうか。残念だが知らないな」
「まあそんなものですよね」
今日何度目だろうか。先程からノヴァ師匠の表情がコロコロと変わっている。見ていて面白い。理由が気にはなったが、追求したところで、口を割ることはないだろう。大方、名前が珍しいとか簡単なことだろう、と見切りを付ける。
ここで食事が丁度終わった。話しながら食べていたが、ノヴァ師匠は大層満足されたようだ。元気いっぱいに行動を開始する。
「よし、食ったことだし、そろそろ行くか」
「酒臭いですよ。よく考えれば昼間から酒を飲むなんてゴロツキみたいですよ」
「何か、言ったか?」
先程までの機嫌が嘘のように睨みつけてくるノヴァ師匠。どの言葉がノヴァ師匠の琴線に触れるかが分からない。慎重に発言しようではないか。
食事も終わり、徒歩で西の山へと向かうことにする。ちなみに徒歩は俺だけ。ノヴァ師匠とジャニラちゃん、鳥は万能球にゆったりと乗って、くつろいでいた。
羨ましいが、仕方がない。頑張って歩くことにする。
歩いている横では、ノヴァ師匠が対モンスター戦闘のレクチャーを行なっていた。
「モンスターとは、恩寵なくして生き残るために進化した生物。ある一点の特徴に優れていることが多い」
「はあ、はあ、そうですか……」
息切れがして、話の半分も耳に入らない。あとどれくらい歩けば休憩できるのだろうか。そんなことを思ってしまう。
俯向き気味に懸命に歩き続ける横で、ノヴァ師匠の話は続く。
「あれは"石岩拳人"。視覚や聴覚はなく、触覚のみが異常に発達したモンスターだ。空気の流れで周囲の動きを感知しているって訳だ。あの図体で動きは速いぞ。攻撃は殴打のみ。偶に亜種で頭突きや蹴りをしてくる輩もいるが、大概は両手のみに注意を払っていれば大丈夫だ」
「はあ、はあ、成程……ん?」
今、不穏な言葉を聞いた気がする。確か"あれ"とか言っていた。
何だろうと思っていた矢先に、俺の足元に影が射す。
嫌な気配を感じて上を向くが、
――目の前には全長三メートル程の岩の塊、俗にいうゴーレムがそびえ立っていた。
「よし、早速、特訓開始だ」
満面の笑みを浮かべてノヴァ師匠が死刑宣告を告げる。
鍛錬という名の地獄が始まった。
小説書くのはモチベーションが大切ですね。
モチベーションが上がらないと、内容が希薄になってしまう。
ということで、不定期更新でお願いします。
次回は戦闘ありますが、基本はまったりです。




