表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拉致・のち、放置&放浪記  作者: 七草 折紙
『修行の旅』編
14/30

第十話 二人目の人間

やっと人間の女性が登場。

少し残酷描写あります。

 目の前に現れたのは、鋭い眼をした白い長髪女。

 正真正銘、俺の知っている、人間である。


 黒い瞳、肌の色、スラリとした手足と肉体の凹凸は、惚れ惚れする程に美しく、髪色以外の全てが日本人の容姿をしていた。

 見た目で二十歳前後と推定する。


 服は、黒を基調として白い線が入り乱れたデザインのドレス。

 スカートの丈は短く、艷やかな太腿が露になっているが、膝上から足首までは、ニー・ハイのようなもので、覆われて隠されていた。抜群のチラリズムである。

 ドレスの上に羽織っているパーカー付きの青いマントは、白と黒に映え、美しさを際立たせていた。


 その女が手に持つのは黒い刀。それが万能球をいとも容易く斬り裂いた。

 女の剣捌きを、目で捉えることはできなかったのだ。信じられない腕前である。


 辺り一帯を見渡せば、そこは血の海。

 もへじ生物の残骸と思わしき肉片が散らばっていた。

 何十体もの死骸と、鼻をつくような異臭に、思わず胃の中の消化物を吐きそうになる。


 俺の直感がこの女はやばい、と最大級の警戒を促していた。


 首元の刀がいつ動くのかと、気が気でない。

 動くと命に関わりそうなので、女の次の言葉をじっと待つことにする。


 待つこと数秒、俺を観察していた女は腰に下げていた鞘に刀をしまうと、先程の剣幕が嘘のように、静かに語りかけてきた。


「それで先程の答えは?」

「それが――」


 素直に答えようと立ち上げかけるが、その直後ガクンと崩れ落ちるように体が傾く。

 身体の力が抜けて立てない。


「あ、あれっ?」

「無理をするからだ」


 呆れた顔で、女に理由を指摘される。

 緊張をしていたのは確かだが、そこまで無理をした覚えはない。


 そんな俺の心情を察したのか、もへじ生物の成れの果てを指差しながら、女が解説を始める。


「こいつらは、荒野をさすらう"土砕き"。強靭なアゴを持つ、モンスターだ。岩や鉱物ですら噛み砕くと聞く。お前、先程、黒い球を噛み砕かれただろう?」

「え、ええ」


 そういえば、そんな事もありましたね。

 貴方の物騒な刀にばかり注意がいって忘れていました。


 今現在の万能球は斜め上部が円状に斬り取られている。

 咄嗟のことだったので、意識していなかったが、砕けた球が再び出せたのは不幸中の幸いだ。


「お前、その球の事をどれくらい知っている?」

「えっ? いや、全然知りません」

「……その球は恐らく恩寵の"原型(オリジン)"。属性を与えられていない、赤子のような状態だ。どんな恩寵にもなりうる可能性を秘めている。

 本来、物質化できるのは特殊な条件下でのみなんだが……お前の場合はレアなケースのようだな。この刀も、とある場所で年月をかけて生み出された逸品だ」


 そう言いながら、女が腰の刀に再び手をかける。怖いのでやめてください。


 それにしても、今の話だと、女の刀と俺の万能球が同じものだと言っているようだ。

 謎の多かった万能球だが、ここでそれが解明されるかもしれない。


 そう思い、女の話を黙って聴き続けることにする。


「恩寵とは"加護"。外敵から一族を護ってくれる崇拝事象(カルナ)の防衛システムだ。それには敵かどうかを判断する"印"が必要になる。

 殆どの者は一族の血に組み込まれ、生まれた時には、既に恩寵は決められている筈……だが、恩寵を持たない出身の者には原型(オリジン)が定まらない形で宿っていることもある。

 最も、それらも一番相性が近い崇拝事象(カルナ)の"マットゥ"に惹かれ、接触と同時に体内に溶け込んで、自然な形で恩寵に変わっていくがな」


 成程、ビラトで俺が敵認定されたのは、そういう訳だったのか。


 つまり、豊穣のメルシン様とやらには相性がない、と。

 うん、俺、これからジャニラちゃんと仲良くやっていけるのかな?

 相性ないんだよね?


崇拝事象(カルナ)の相性と、現実の相性は関係ないぞ」


 俺の心の葛藤を読んだかの如く、女が言葉をつなげてくる。妖怪サトリですか?


「話は戻るが、物質化された原型(オリジン)は、いわば強大な生命力と精神力の塊。何らかの力に転換しない限りは永久に持続することも可能だが……逆に砕けたりすると、疲弊が尋常ではないと思うぞ。先程のお前のようにな」

「な、成程」


 何というか、分かりやすい説明有難うございます。

 旅の始めでこれを知れたのは運が良かった。


 万能能力はこれから控えよう。あれもたぶん徐々に消耗を伴うのだろう。

 今まで力の規模が小さかったから大丈夫だったが、大きい規模だと下手をすると死んでしまうかもしれない。


 女は実は親切な人だったようだ。

 いや、それならば何故球を斬ったのだ。S気質の女なのか。

 もしかして頭が弱い猿ボスの親戚か何かか。同じ人間みたいだしな。


「斬る分には傷は浅いぞ。まあ、私の腕ならではの芸当だな」


 またもや俺の心中を見透かしたように説明が加わる。今度はドヤ顔での説明である。

 余程、腕に自信があるのだろう。


「それに原型(オリジン)は消えることはない。何度でも蘇る。

 逆に、原型(オリジン)は便利だぞ。マットゥの欠片がなくとも、世界のどこでも使えるからな。まあ、体力と気力は、がっつり持っていかれるがな」

「それじゃ貴方は崇拝事象(カルナ)を持たないんですか? その刀が原型(オリジン)なんですよね?」


 素朴な疑問が俺の口から出てきた。


 それに対して、待ってましたと言わんばかりに女の顔が輝き出す。

 張り詰めていた空気が解けていく。


「ふふふ。良くぞ聞いてくれた。これは私の原型(オリジン)ではない。

 ある人物から、譲り受けたものだ。

 私の崇拝事象(カルナ)は最も若く美しいと言われている『希望』のリーン様だ。

 万物を照らす女神様。私のこの両耳のピアスがその"マットゥ"の欠片でな。

 左が光を、右が闇を表すのだ。どうだ、美しいだろう?」


 引くぐらいの勢いで、恍惚とした表情を浮かべて、立て続けに喋り始める女。

 最初の"恐かっこいい"印象が音を立てて崩れていく。


崇拝事象(カルナ)って性別とかあるんですか? 只の概念じゃ?」

「何を言う! 美しいお方なのだ。史上最高の美女。そうだ。そうに違いない」


 見当外れな事を言うんじゃない、といった感じで叱咤されてしまった。

 盲信している敬虔なる信者といった様子だ。何を言っても無駄であろう。


 このままでは(らち)があかないので、話を進めることにする。


「と、ところで崇拝事象(カルナ)ってどれだけあるんですか?」

「確か、十一種類と言われているな。十二番目の崇拝事象(カルナ)も存在していた、と云う噂も聞く。一説では、原型(オリジン)がそれに当たるとまで言われている。十二番目は全ての祖であるとな」

「そんなにあるのか。凄いな……ん?」


 そこで先程の言葉の不可解な部分に気がつく。


 存在していた(・・・・)


 その答えを継ぎ足すように、女の話は続いた。


「まあ、その十二番目が滅んだのが、全ての災厄の始まりとも言われているがな」

「えっ? 滅んだんですか? 崇拝事象(カルナ)が?」

「ああ。愚かな者達が私欲で滅ぼしたそうだ。方法は知らんが、胸くそ悪い話だ」


 先程までの柔らかい空気が一変、張り詰めたものに戻ってゆく。

 女から物凄い殺気を感じて、無意識に身体が震えてくる。

 チビりそうなのでお怒りをお収めください。


 それにしても不穏な話である。

 猿ボスの話からしても、この世界の人間というのは、色々ときな臭い。


 まあ、今の様子からして、この女は信用できそうだ。

 信用できるだけに、慎重に対応しないとな。

 不審人物認定されて、バッサリは嫌である。


 そんな俺の様子に気がついたのか、苦い顔をしていた女が殺気を抑えて謝ってくる。


「いや、すまんな。お前には関係のない話。彼此、二百年も前の話だ」

「そんなに昔の話なんですか。じゃあ、今は平気なんですか? その、人間とか」

「人間? ほう、良くその呼び名を知っていたな? 等の昔に忘れられた筈の言葉なのだが……」


 忘れられた? ビラトでは皆"人間"って言っていたが、どういうことだろうか。

 猿ボスに注意されて、気になっていた人間の情報が、知りたかったのだが、妙な方向に、話が転がったな。


 頭を捻って熟考してると、女が俺を見て何かに気付いた様相を発する。


「ん? そういえばお前も"はいじん"か? この辺では珍しいな」

「廃人? いえ、違います。ノーマルです」


 何を言われるかとドキドキしている矢先に廃人宣言。侮辱しているのだろうか。


 何故、その用語を知っているのか、気になるところではあるが、俺を指してオタクの極み"廃人"だと! 俺は違うぞ。


 確かにネットゲームに、かなり嵌っていた。その手の友人も幅広い。

 学校をサボって一日中、ゲームをしていた時もある。

 ……あれっ? 俺って……いや、違うぞ。断じて違う。

 私生活は、疎かにはしていない。学校をサボっていたのも偶に、だ。

 そう、俺はノーマルだ。


 俺の反応が余程変だったのだろう。

 女が訝しげな目で疑問を投げかけてくる。


「何を言っていって――おっ、戻ってきたか」


 女の話の途中で何かがやって来た。一羽の鳥である。


 鳥は女が上方に掲げた腕を枝木のようにして、優雅に降り立つ。

 ささやかな風が巻き起こり、この場に新たな空気を作り出した。


「アルジサマ、タダイマ、モドリマシタ」

「それで、どうだった?」

「コノアタリ、二、シュウラク、ハ、アリマセン」

「そうか。また野宿か」


 喋る鳥、オウムである。こういうのはいるのか。

 しかし、マヌケづらだな。

 俺は雄々しい鷹のような鳥が好きだ。かっこいいしな。


 俺が、一人鳥談義を脳内でしているうちに、女の視線が戻ってくる。

 先程、鳥が割り込んでくる前に、何かを言いかけていた。その事だろう。


「それでお前、その見た目。どう考えても"はいじん"じゃないか」

「いえ、だから違うんです。濡れ衣なんです」

「アルジサマ、ハイジン、デハナク、ハイビト、デス」

「ああ、そうか。今は"はいびと"と呼ぶんだったか。まあ、どちらでも変わらないだろう。それよりも今気になったのだが――」


 いえ、廃人の響きが嫌です。訂正して頂きたい、というか訂正しろ。


 この女結構適当だな。ヤキを入れたろか……無理ですね。返り討ちにされそうです。


 だがどうやら廃人疑惑は俺の被害妄想であったらしい。

 全く、紛らわしい言葉を吐くんじゃない。


 それよりも、何が気になったんだ?


「その"りょくじん"の子供はどうした? まさか……」


 俺を誘拐犯扱いして、ギンッと強い眼力で睨んでくる女。

 怖いですよ。俺は優しい女性が大好きです。


 一方、女の剣幕に、ギュッと俺の服を握ってくるジャニラちゃん。

 それを見た女は、緊張を解いて柔らかい表情に戻る。


「いや、私の勘違いだった。"はいじん"が一人でこんな辺境にいるのが、腑に落ちなくてな。"りょくじん"もこの辺では珍しいし、誘拐かと勘違いした」

「はぁ、左様ですか」

「アルジサマ、リョクジン、デハナク、ミドリビト、デス」

「まあ、細かい事は気にするな。それにしても人間と"りょくじん"の子供とは珍しい組み合わせだな」


 女のいい加減さは置いておくとして、"みどりびと"――恐らくジャニラちゃんの事だろう、が珍しいってどういうことだ。

 森に、うじゃうじゃといたんだが、ビラトは隠れ里か何かだったんであろうか。


 まあ、それはどうでも良いとして――


「あの、"はいびと"に"みどりびと"って何ですか?」

「何だ、知らないのか?」

「はい」


 女は無知な俺を憐れむように丁寧に教えてくれる。


「お前のような種族――昔は人間と呼んでいたがな、それを最近では"はいじん"、いや失敬、灰人(はいびと)と呼ぶんだ」

「人間が"灰人"ですか?」

「そうだ。そして、その子のような"草の民"を"緑人(みどりびと)"と呼ぶ」

「成程。とすると、俺にも何とかの民ってのがあるんですか?」

「ああ、そうだ。良く分かったな。草の民は緑人、お前ら灰人は"鉄の民"って訳だ」


 緑人は"人間"みたいな大枠で、草の民は"日本人"みたいな中枠、ビラトの民ってのが"東京都の住人"を表す小枠ってところか。ややこしいな。


 どうも話す度に本題が逸れていく。当然だけど知らない事が多すぎだ。

 何の話をしていたっけ……そうだ、人間の事を聞いてたんだった。


「それで、人間、いや灰人の情報が欲しいんですけど……」

「ああ、そうだな。灰人は西に大きい国が一つあるな。後は知らん」

「えっ、一つだけ? アレっ? じゃあ、南のガラサウナ王国とかは?」

「何だ、それは? いや、待て。どこかで聞いたことがあるような……」


 女が何かを思い出そうと、頭を傾げる。

 ガラサウナ王国を知らないってどういうことだ。猿ボスの話は何だったのだ。

 ……でもそんなにおかしな話でもないか。

 世界は広いんだ。知らない事があっても不思議じゃない。


 この話はこれで終わりにしよう。


「知らないならいいです。機会があったら自分の目で確かめます」

「う、うむ、そうか。なら良いが」

「それで、貴方も灰人の方ですよね?」

「灰人?……そ、そうだな。うむ。灰人だ」


 何か言動が怪しいような気がするが、そこはスルーしよう。関係ない話である。


 この女が灰人ならば人間の形は地球と変わらない、と思ってもよさそうだ。

 可能性を広げて、もう少し踏み込んでみるか。


「に、日本人ってことはないでしょうか?」

「何だそれは?」


 はい、違いました。拉致被害者もしくは関係者と思ったが、違ったようだ。

 であれば現地の人間だろう。


 聞きたいことは終わった。ここいらが潮時か。

 何かを忘れているような――


「ところで、もう落ち着いたか? 繰り返すが、最初の返答をくれ」


 最初……そうか、確か万能球の事で、どこで手に入れたか、という話だった。


「あ、はい、この球の事ですか? 正体不明の連中に、何やら怪しい実験を行われまして、気がついたらこうなっていました」

「……。それを与えた者達はどこへ行った?」

「いやっ、それが俺にもさっぱりでして、殆ど知らないんですよ。煙のように消えたというか……」

「くそっ、また収穫なしか」


 何の収穫なのかは気になるが、あまり質問をしてバッサリといかれるのも嫌である。

 適当なタイミングでさよならを敢行するのが妥当だ。


 女は、白髪が目に当たり、視界を邪魔されるのを嫌うかのように、首を振って、風になびかせている。

 いつぞやのコマーシャルを思い出す。


 よし、撤退準備だ。

 セールスマンのように、ヨイショして、持ち上げていこう。

 こう見えて社交辞令は得意である。


「それにしても、美しい方で、吃驚しましたよ」

「ふふふ。当然だな。私は誰よりも強く、そして美しい」

「アルジサマ、イチバン、ウツクシイ」

「ふふ。そう褒めるな、ピーコックよ」


 あれ? 以外と、ナルシストの方ですか?

 段々と、残念な人にしか見えなくなってきた。

 最初の印象はかっこよかったのに、もったいない。


「それと、あの、先程は助けていただいて有難うございました」

「ありがとうございました」

「ふむ。礼儀正しいな。気に入ったぞ」


 ペコリと頭を下げて御礼を言う。

 隣では、ジャニラちゃんも俺に倣ってお辞儀をしている。


 それに対して女は機嫌がよさそうになる。


 よし、撤収!


「それでは、失礼します」

「待て!」


 間髪入れずに拒絶されました。

 何でしょうか? 冷や汗が止まりません。


「な、何か?」

「お前、先程死にかけたのを忘れていないか?」

「そ、そうですね」

「時間を取らせたお詫びに、少しだけボディーガードをしてやろう」

「へ?」

「お前の行き先はどこだ?」

「え、あの、西です」

「西は……火山、ザンダルの山か。今、あそこは……まあ、近くまでなら良いか。ついでに鍛えてやる」

「キタエテヤル、カンシャ、シロ」


 ニヤッとした顔で、嬉しくない提案をなさる女の御仁。

 何故か、心の中を全て見透かされているような気分だ。

 ムカツクことに鳥まで同じ言葉を発する。


 遠慮したら笑顔で真っ二つにされそうなこの空気。拒否は許されないのですね。

 退路がない今の状況に、渋々受け入れることにした。


 それに確かに旅のノウハウは必要だ。この際、利用させてもらおう。


「りょ、了解であります」


 こうして一時的に一人プラス一羽が旅に加わった。


彼女は師匠的な意味合いも込めて登場させました。

もちろんそれだけではないですが、それは物語の後半。

今回はあくまで一時的です。

ちなみにハーレム予定は今のところありません。


チグハグした内容も含まれているかと思いますが、伏線を幾つか入れています。

そういうものと思ってください。


次回、モンスターとの戦いありの旅。

火の山編はあと三話以降になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ