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拉致・のち、放置&放浪記  作者: 七草 折紙
『豊穣の森』編
11/30

Another prologue 聖羅の始まり

プロローグの聖羅版といったところです。

サブタイトル少し修正しました。

 とある学校の一室で、二人の少女がくつろぎながら、資料の整理をしていた。

 手元にある資料は、どれも学校行事に必要なものであるため、雑に扱うことは許されない。


 ここは生徒会室。

 もうじき生徒会の交代の季節がやって来る。

 引き継ぎの資料作成と合わせて、二人は今までの活動内容をまとめていたのだ。


 周りから尊敬を一心に集める麗しき生徒会長様と、堅い印象で知られる鬼の風紀委員長殿が、仲良く談話しながら業務に励んでいた。


 その場の空気は、普段の冷静沈着な二人の姿からは想像できないような、和気あいあいとしたものであった。

 気さくな二人の間では当然、愚痴や不満などといった小言も湧いて出てくる。


 三年連続で生徒会長に推薦、圧倒的指示で当選した聖羅。

 彼女は今、その凛とした美貌からは考えられないくらい深い、溜息をついていた。


「はぁ、受験か~」

「何言ってんのさ? 学校一の才女が」

「そういう問題じゃないのよ。気持ちの問題。皆ピリピリしているじゃない? 気持ちに余裕が無いっていうか……」

「まあ大事な時期だからねぇ」


 受験。学生の身分では欠かせない一大イベントである。

 その如何(いかん)によっては将来が左右されるのだ。

 このシーズンの皆からは鬼気迫るものを感じる。


 君子危うきに近寄らず、である。

 流石の生徒会長様も、腫れ物に触るが如く、態度には気をつけている。


「何か、高校生活も終わりが近づいてきたんだなぁって思っちゃって……」

「ああ、分かる分かる。去年の先輩達もこんな雰囲気だったよね。カウントダウンが始まったって感じ?」

「この間まで文化祭やらで大騒ぎしていたのが嘘みたいだわ」


 聖羅が遠い目をして感傷に浸る。

 これまでの高校生活を振り返っているかのようであった。


 その光景に、大親友でもある風紀委員長が、ニヤリとした顔で茶々を入れる。


「おうおう、もう感傷に浸っているのかぁ。聖羅にはもう一つ一大イベントが残っているじゃない?」

「何のこと?」

「へぇ、とぼけるのかなぁ?」


 心の奥底まで見透かすような風紀委員長の目。

 伊達に取り締まりを担当する風紀委員の長をやってはいない。


 皆から"鬼"と呼ばれてきた、その風紀委員長の姿に、聖羅はたじろぐ。


「な、何をよ?」

「か・れ・の・こ・と♪」

「か、彼って誰のことよ?」

「ふ~ん、この大親友の私に嘘をつくとは良い度胸だね」


 誰にも言っていない筈の事実に触れられて、聖羅はわざとらしくとぼける。


 だが清廉潔白な生徒会長様は嘘が下手なようである。

 あからさまな動揺を目撃して、風紀委員長はさらに聖羅を追い立てる。


「ちょ、ちょっと目が恐いわよ……」

「で、どうするの?」

「ど、どうするって、どうもしないわよ……」

「ふ~ん、それで良いの?」


 もう隠し事はできない。

 聖羅は、風紀委員長の刑事ばりの追求に観念したかのように返答をする。


 それを聞いて、目を鋭くした風紀委員長は、急かすように煽ってくる。

 面白がっている節も多々見られるが、殆どは親友への純粋な好意であった。


「良いも何もそんなことは……(ごにょごにょ)」

「はぁ、相変わらずね。肝心な所が臆病なんだから」

「い、いいのよ。ほら、終わったでしょ。帰るわよ!」

「まぁ~た、逃げる~。はぁ~あ、駄目ね、これは」


 学校中の生徒から信頼を寄せられている生徒会長だが、肝心なところで臆病な聖羅。 そんな親友の姿を見て、風紀委員長は諦めの溜息をつく。


 話しているうちに業務が滞りなく終了したため、あと一歩の段階で言い逃れされてしまう。

 卒業まで時間はまだあるので、また今度で良いか、と風紀委員長は思っていた――この後の出来事が無ければその筈であった。


 一緒に帰宅した二人。

 帰宅方向が変わるために、途中の道で分かれることにした。


 聖羅は、親友の風紀委員長の言葉が脳内に焼き付き、ここまでずっと悩んでいた。

 その知恵熱のせいか、頭で考えていることを、知らずに口にしていたのである。


「はぁ~、私だって……でも……無理! 私には絶対に無理!」


 恋愛をするには彼女は純過ぎた。

 いや、妄想力が凄まじいと言うべきか。

 でっかい壁が立ちふさがるかのように、一線を越えられない自分がいた。


 聖羅は家まで、ボーッとしながら歩いていた。

 そこで、ふと気配を感じて立ち止まる。


「そこにいるのは誰?」

「ほう、気づかれるとは思っていなかったよ」


 車の陰から出てきたのは、怪しい雰囲気を持つ眼鏡の男。

 本能からか、言葉の端々から不穏な気配を感じ取った。

 聖羅は、警戒して身構えながら、用件を伺うことにする。


「毎度おなじみの告白……って訳ではなさそうね。私に何の用かしら?」

「君、睦月聖羅さんだよね」

「ええ、そうです。私に何かっ――」


 その時、不意に鈍い音がして気が遠くなる。

 眼鏡の男と話している隙に、背後から叩かれたようである。


 気を失いながらも、最後に叩いたその女の姿を確認した。


(これはまさか誘拐? 私、貞操の危機? 助けて……楽世君……)


…………

……


 気がつくと、どこかの部屋で寝ていた。


 聖羅は、素早く状況を判断して、バッと飛び起きる。

 追従するかのように、周りも確認する。

 見覚えのないどこか異質な部屋であった。


 部屋を見渡している途中、一人の女性の姿が目に入る。

 気を失う瞬間、背後から叩いてきた女であった。


 自然と怒りで目尻がつり上がってくる。

 そんな聖羅を見て、その女が親しげに声をかけてきた。


「やぁ、こんにちは」

「誰なの、貴方!」


 親しげな口調だが、誘拐犯の一味と思われる。気を許せる筈もない。


 だが、そんな聖羅の態度にも臆した様子は見せずに、女は場にそぐわぬ緩い口調で本題を告げてくる。


「やぁ~ねぇ。そんなに睨まないでよ。ちょっと実験に付き合ってもらいたいの」

「じ、実験って何よ。私に変なことをするつもりじゃないでしょうね?」


 交渉を有利に進めるためにも、気弱な態度は見せられない。

 なるべく隙をさらさないように、冷静を努めながら、会話を進めていく。


「ふふ。気丈なお嬢さんね。好きよ、そういう子」

「ちょ、ちょっと、私、そっちの趣味はないわよ」


 女の怪しい目付きに身の危険を感じて、きっぱりと断言、牽制する。


「心配しないで良いわよ。貴方の貞操を奪うつもりなんてないわ。言ったでしょ、実験に付き合ってもらうだけだって」

「な、何をする気?」

「少し、薬を投与して経過を観察するだけよ」

「く、薬!?」


 薬という単語だけ聞くと、麻薬などの違法薬物が真っ先に浮かんでくる。

 麻薬漬け、売り飛ばされる、おもちゃにされる、死亡、という負の連鎖が嫌でも襲ってくる。


 涙を必死にこらえて冷静を貫くが、頬が引き攣るのは止められなかった。

 それを察して、女は安心させるように、言葉を紡ぐ。


「そっちの薬じゃないわよ。百パーセントの保証はできないけど、薬物中毒になるようなことはないわ」

「……今、不穏な言葉を聞きました。お断りします」

「貴方に拒否権はないのよ」

「――っ!」


 女の真剣な目に貫かれて、聖羅は自分の未来を悟る。


 こうして、人体実験という名の非道な実験の日々が始まった。






 一ヵ月後。

 突然、女に意味不明な事を宣告された。


「帰って良いわよ」

「ふざけないでよ! 一ヶ月も軟禁しておいて、私に何をしたの? 警察に訴えるわよ!」


 貴重な高校生活の一ヶ月を軟禁され、強制的に怪しい実験の被験者にされたのだ。

 等の昔に、怒りは飽和状態を迎えた。罵詈雑言は当たり前である。


 だが、そんな聖羅の叫びを意に介さず、女は顔色一つ変えずにあしらう。


「お好きなように」

「ふん、覚えていなさいよ」


 聖羅は最後に捨て台詞を吐きながら、扉を開いた――開いたのだが、そこには何もなかった。

 360度眺望しても、見渡す限りが草一本ない荒野。


「な、何これ!? どういうこと? ちょっと、ここどこなのよ!」


 数秒間唖然としていた聖羅だが、ハッと我に返ると、女に問い詰めるべく後ろを振り返ったが――


 振り向いた先には既に誰もいなかった。


「えっ? あれっ? 何で?」


 流石の優秀な生徒会長様も、一ヶ月軟禁された挙句この状況。

 判断がつかなかった。


 テンパって不安を押し出すかのように喚き出す。


「ちょっと! どこに隠れたのよ! 出てきなさい!」


 幾ら喚いたところで、誰もいない。女はどうやってこの場を去ったのか。

 それも疑問であったが、一番の問題は、荒野の中にポツンと建てられた部屋に、取り残されたという今の状況。


 最後には縋るように呟くようになる。


「お願い……出てきてよぉ」


 力が抜けて、ぺたん、と床に座り込む聖羅。

 立て続けの展開に訳が分からなくなっていた。


「何がどうなっているの?」


 幸い、食料は部屋の中に少しだけ置いてあった。

 それは女からのささやかな贈り物であった。


 だが女一人にこれからどうしろというのか。

 好意が皮肉にも受け取れる食料の数々を見て、呆然とするのであった。


 この日を境に聖羅のサバイバル生活が始まった。


聖羅も楽世と似たようなものでした。理不尽な仕打ちですね。

これで複数犯が確定しました。彼らの目的は何なのか。

それは話が進むにつれて明らかになっていく……予定です。


次回からは楽世視点での新展開に移行します。

※お気に入り登録してくれた皆さん、有難う御座います。

徐々にポイントが上がっていくとやる気が出てきますね。

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