Another prologue 聖羅の始まり
プロローグの聖羅版といったところです。
サブタイトル少し修正しました。
とある学校の一室で、二人の少女がくつろぎながら、資料の整理をしていた。
手元にある資料は、どれも学校行事に必要なものであるため、雑に扱うことは許されない。
ここは生徒会室。
もうじき生徒会の交代の季節がやって来る。
引き継ぎの資料作成と合わせて、二人は今までの活動内容をまとめていたのだ。
周りから尊敬を一心に集める麗しき生徒会長様と、堅い印象で知られる鬼の風紀委員長殿が、仲良く談話しながら業務に励んでいた。
その場の空気は、普段の冷静沈着な二人の姿からは想像できないような、和気あいあいとしたものであった。
気さくな二人の間では当然、愚痴や不満などといった小言も湧いて出てくる。
三年連続で生徒会長に推薦、圧倒的指示で当選した聖羅。
彼女は今、その凛とした美貌からは考えられないくらい深い、溜息をついていた。
「はぁ、受験か~」
「何言ってんのさ? 学校一の才女が」
「そういう問題じゃないのよ。気持ちの問題。皆ピリピリしているじゃない? 気持ちに余裕が無いっていうか……」
「まあ大事な時期だからねぇ」
受験。学生の身分では欠かせない一大イベントである。
その如何によっては将来が左右されるのだ。
このシーズンの皆からは鬼気迫るものを感じる。
君子危うきに近寄らず、である。
流石の生徒会長様も、腫れ物に触るが如く、態度には気をつけている。
「何か、高校生活も終わりが近づいてきたんだなぁって思っちゃって……」
「ああ、分かる分かる。去年の先輩達もこんな雰囲気だったよね。カウントダウンが始まったって感じ?」
「この間まで文化祭やらで大騒ぎしていたのが嘘みたいだわ」
聖羅が遠い目をして感傷に浸る。
これまでの高校生活を振り返っているかのようであった。
その光景に、大親友でもある風紀委員長が、ニヤリとした顔で茶々を入れる。
「おうおう、もう感傷に浸っているのかぁ。聖羅にはもう一つ一大イベントが残っているじゃない?」
「何のこと?」
「へぇ、とぼけるのかなぁ?」
心の奥底まで見透かすような風紀委員長の目。
伊達に取り締まりを担当する風紀委員の長をやってはいない。
皆から"鬼"と呼ばれてきた、その風紀委員長の姿に、聖羅はたじろぐ。
「な、何をよ?」
「か・れ・の・こ・と♪」
「か、彼って誰のことよ?」
「ふ~ん、この大親友の私に嘘をつくとは良い度胸だね」
誰にも言っていない筈の事実に触れられて、聖羅はわざとらしくとぼける。
だが清廉潔白な生徒会長様は嘘が下手なようである。
あからさまな動揺を目撃して、風紀委員長はさらに聖羅を追い立てる。
「ちょ、ちょっと目が恐いわよ……」
「で、どうするの?」
「ど、どうするって、どうもしないわよ……」
「ふ~ん、それで良いの?」
もう隠し事はできない。
聖羅は、風紀委員長の刑事ばりの追求に観念したかのように返答をする。
それを聞いて、目を鋭くした風紀委員長は、急かすように煽ってくる。
面白がっている節も多々見られるが、殆どは親友への純粋な好意であった。
「良いも何もそんなことは……(ごにょごにょ)」
「はぁ、相変わらずね。肝心な所が臆病なんだから」
「い、いいのよ。ほら、終わったでしょ。帰るわよ!」
「まぁ~た、逃げる~。はぁ~あ、駄目ね、これは」
学校中の生徒から信頼を寄せられている生徒会長だが、肝心なところで臆病な聖羅。 そんな親友の姿を見て、風紀委員長は諦めの溜息をつく。
話しているうちに業務が滞りなく終了したため、あと一歩の段階で言い逃れされてしまう。
卒業まで時間はまだあるので、また今度で良いか、と風紀委員長は思っていた――この後の出来事が無ければその筈であった。
一緒に帰宅した二人。
帰宅方向が変わるために、途中の道で分かれることにした。
聖羅は、親友の風紀委員長の言葉が脳内に焼き付き、ここまでずっと悩んでいた。
その知恵熱のせいか、頭で考えていることを、知らずに口にしていたのである。
「はぁ~、私だって……でも……無理! 私には絶対に無理!」
恋愛をするには彼女は純過ぎた。
いや、妄想力が凄まじいと言うべきか。
でっかい壁が立ちふさがるかのように、一線を越えられない自分がいた。
聖羅は家まで、ボーッとしながら歩いていた。
そこで、ふと気配を感じて立ち止まる。
「そこにいるのは誰?」
「ほう、気づかれるとは思っていなかったよ」
車の陰から出てきたのは、怪しい雰囲気を持つ眼鏡の男。
本能からか、言葉の端々から不穏な気配を感じ取った。
聖羅は、警戒して身構えながら、用件を伺うことにする。
「毎度おなじみの告白……って訳ではなさそうね。私に何の用かしら?」
「君、睦月聖羅さんだよね」
「ええ、そうです。私に何かっ――」
その時、不意に鈍い音がして気が遠くなる。
眼鏡の男と話している隙に、背後から叩かれたようである。
気を失いながらも、最後に叩いたその女の姿を確認した。
(これはまさか誘拐? 私、貞操の危機? 助けて……楽世君……)
…………
……
気がつくと、どこかの部屋で寝ていた。
聖羅は、素早く状況を判断して、バッと飛び起きる。
追従するかのように、周りも確認する。
見覚えのないどこか異質な部屋であった。
部屋を見渡している途中、一人の女性の姿が目に入る。
気を失う瞬間、背後から叩いてきた女であった。
自然と怒りで目尻がつり上がってくる。
そんな聖羅を見て、その女が親しげに声をかけてきた。
「やぁ、こんにちは」
「誰なの、貴方!」
親しげな口調だが、誘拐犯の一味と思われる。気を許せる筈もない。
だが、そんな聖羅の態度にも臆した様子は見せずに、女は場にそぐわぬ緩い口調で本題を告げてくる。
「やぁ~ねぇ。そんなに睨まないでよ。ちょっと実験に付き合ってもらいたいの」
「じ、実験って何よ。私に変なことをするつもりじゃないでしょうね?」
交渉を有利に進めるためにも、気弱な態度は見せられない。
なるべく隙をさらさないように、冷静を努めながら、会話を進めていく。
「ふふ。気丈なお嬢さんね。好きよ、そういう子」
「ちょ、ちょっと、私、そっちの趣味はないわよ」
女の怪しい目付きに身の危険を感じて、きっぱりと断言、牽制する。
「心配しないで良いわよ。貴方の貞操を奪うつもりなんてないわ。言ったでしょ、実験に付き合ってもらうだけだって」
「な、何をする気?」
「少し、薬を投与して経過を観察するだけよ」
「く、薬!?」
薬という単語だけ聞くと、麻薬などの違法薬物が真っ先に浮かんでくる。
麻薬漬け、売り飛ばされる、おもちゃにされる、死亡、という負の連鎖が嫌でも襲ってくる。
涙を必死にこらえて冷静を貫くが、頬が引き攣るのは止められなかった。
それを察して、女は安心させるように、言葉を紡ぐ。
「そっちの薬じゃないわよ。百パーセントの保証はできないけど、薬物中毒になるようなことはないわ」
「……今、不穏な言葉を聞きました。お断りします」
「貴方に拒否権はないのよ」
「――っ!」
女の真剣な目に貫かれて、聖羅は自分の未来を悟る。
こうして、人体実験という名の非道な実験の日々が始まった。
一ヵ月後。
突然、女に意味不明な事を宣告された。
「帰って良いわよ」
「ふざけないでよ! 一ヶ月も軟禁しておいて、私に何をしたの? 警察に訴えるわよ!」
貴重な高校生活の一ヶ月を軟禁され、強制的に怪しい実験の被験者にされたのだ。
等の昔に、怒りは飽和状態を迎えた。罵詈雑言は当たり前である。
だが、そんな聖羅の叫びを意に介さず、女は顔色一つ変えずにあしらう。
「お好きなように」
「ふん、覚えていなさいよ」
聖羅は最後に捨て台詞を吐きながら、扉を開いた――開いたのだが、そこには何もなかった。
360度眺望しても、見渡す限りが草一本ない荒野。
「な、何これ!? どういうこと? ちょっと、ここどこなのよ!」
数秒間唖然としていた聖羅だが、ハッと我に返ると、女に問い詰めるべく後ろを振り返ったが――
振り向いた先には既に誰もいなかった。
「えっ? あれっ? 何で?」
流石の優秀な生徒会長様も、一ヶ月軟禁された挙句この状況。
判断がつかなかった。
テンパって不安を押し出すかのように喚き出す。
「ちょっと! どこに隠れたのよ! 出てきなさい!」
幾ら喚いたところで、誰もいない。女はどうやってこの場を去ったのか。
それも疑問であったが、一番の問題は、荒野の中にポツンと建てられた部屋に、取り残されたという今の状況。
最後には縋るように呟くようになる。
「お願い……出てきてよぉ」
力が抜けて、ぺたん、と床に座り込む聖羅。
立て続けの展開に訳が分からなくなっていた。
「何がどうなっているの?」
幸い、食料は部屋の中に少しだけ置いてあった。
それは女からのささやかな贈り物であった。
だが女一人にこれからどうしろというのか。
好意が皮肉にも受け取れる食料の数々を見て、呆然とするのであった。
この日を境に聖羅のサバイバル生活が始まった。
聖羅も楽世と似たようなものでした。理不尽な仕打ちですね。
これで複数犯が確定しました。彼らの目的は何なのか。
それは話が進むにつれて明らかになっていく……予定です。
次回からは楽世視点での新展開に移行します。
※お気に入り登録してくれた皆さん、有難う御座います。
徐々にポイントが上がっていくとやる気が出てきますね。




