第七話 同行と旅立ちと
新メンバー加わります。
加わるのはもちろんあの子。
慰霊祭の後半、食事会の最中に突如として起こった物凄い地響き。
それと共に地面が揺れ、辺りが騒然とする。
「な、何だ何だ? じ、地震!?」
「いや、違うね。これは西の火山が噴火した音さ」
「ふ、噴火!?」
日本人としては地震の方が馴染み深いが、噴火の恐ろしさも知らない訳ではない。
背筋が凍りつくのを感じる。
「これは……"火の崇拝事象"が怒っているね」
「火の崇拝事象?」
「ああ、豊穣のメルシン様のように恩寵を与えてくださる存在を"崇拝事象"って呼ぶのさ。メルシン様は"草の崇拝事象"だね」
「えっと、火に草?」
「そう、私らビラトの民が豊穣のメルシン様の恩寵を受ける"草の民"なら、あっちは別の恩寵を受ける"火の民"。何らかの"マットゥ"があるんだろうね」
「この噴火は"マットゥ"が引き起こしたってことですか?」
「そういうことだね。つまり西の山には"火の民"がいて、何かやらかしたって話だよ」
おいおい、その火の民とやらはどんだけ過激な連中なんだ?
しかも西、これから向かう所じゃないか。勘弁してくれ。
字面は違うが、こちとら日ノ本の民、日の民だ。
燦々と照りつける太陽のように、ポカポカと平和ボケした感性を舐めないで頂きたい。
「こ、ここは大丈夫なんですか?」
「あはは、こんな場所まで影響はないさ」
「そうか。はぁ、良かった」
「でも崇拝事象の怒りなんて、連中何したんだろうね。火の民は野蛮な連中が多いって聞くからね。アンタも行くんなら気をつけるんだよ」
行く前からプレッシャーをかけられる。
忠告はありがたいのですが、複雑な気持ちです。
だが聖羅先輩が行ったのであれば行かない訳にはいかない。
何故そちらに向かったのだ、先輩。大丈夫なのだろうか。
「そういえば、ジャニラちゃんは?」
「おやおや、泣き疲れて寝ちゃったようだね」
「この子も大変でしたね」
「なぁに、アタシらビラトの民はそんなにヤワじゃないよ。この子も気を張り続けていたからね。それが一気に解けて疲れが襲ってきたんだろうね」
先程の地響きでもピクリとも起きなかった。かなり熟睡しているようだ。
おばちゃんの腕の中でスヤスヤと穏やかに眠っていた。
こうして最後を締める花火のような一幕がありながら、静かに慰霊祭は幕を閉じていった。
日は明けて翌日。
夜遅くまで騒いでいたせいか、皆遅くまで寝ていた。
俺は朝のんびりと起きて、昼近くまでかけてゆっくりと準備を終えていた。
いよいよ西へと出発だ。
昨日はおばちゃん家に泊めさせてもらった。
ちなみに猿ボスは長老の家に泊まったそうである。
お見送りはピーラおばちゃん、いちゃもんオヤジ、ジャニラちゃんの三人であった。
「じゃあ、行くか! おばちゃん、世話になったな」
「食料はそれだけで良いのかい?」
「ああ、少しで良いよ。後は何とかする。気持ちだけ受け取っておくよ」
「変わった子だねぇ。まあ無理強いはしないよ」
困った時には万能球がある。よくよく考えれば便利すぎるな、この黒い球。
そういえば、聖羅先輩は万能球を使えないのだろうか。
食料をたんまり持っていくってことは、そういうことも考えられる。
ここの人達も黒い球なんて見たことないって言ってたしな。
だとすると、俺ラッキー? いや、能力に気付いていないだけかもしれない。
どちらにしても早めに合流した方が良い。
「そういえばアンタ、モンスターには気をつけるんだよ」
「モ、モンスターですか?」
「そうだよ。人に飼われていない野良の獣。恩寵を持たない代わりに身体能力がずば抜けて高いって話さ」
「それは……外には良くいるんですか?」
「そうだね。そこら辺に稀にいるよ。まあ、あの猿共がいい例だね。今はあの猿ボスに飼われているような形だから平気だけど、本来であれば危険な連中さ。そういう意味では人間もそうなんだけどね」
いつの間にかあの男の名前は、猿ボスで落ち着いたようである。
自分のせいだとは言わない。断じて違う。
なるべくしてそうなったのだ。
「人間もですか?」
「恩寵を持たない者は生き残るための何らかの力が生まれるものさ。人間の場合は悪賢さかね。魔兵器なんてものがあるぐらいだからね」
猿ボスにも、人間には気をつけろ、と言われていたので、そこは注意しよう。
後はモンスターか。何か、ゲームっぽくなってきたな。
俺は自慢じゃないが、喧嘩は弱い。
不意打ちをくらったら、あっけなく「はい、さよなら」である。
やばい、欝になりそうだ。
つんつん
「ん? 誰か触りましたか?」
「いんや、触ってないよ」
「気のせいじゃねぇか?」
つんつん
「……ジャニラちゃん?」
コクン
「えっと、どうしたの?」
「……わたしも、いく」
「えっと、一緒に来たいってこと?」
再びコクンと無言で頷くジャニラちゃん。
かわゆいぞぉ。いや、そうではない。何を言い出すのだ、この子は。
冒険したいお年頃なのは分かるが、それは頂けない。
「いや、でもね?」
「連れていってくれないかい?」
「おばちゃん!」
「この子はもう天涯孤独。俺達が養っても良いけど、この子はお前を選んだんだ。
ビラトの掟に本人の意思を尊重する"自由な心"ってのがあってな。
それに従うのがビラトの生き方なんだ」
「オヤジまで!……ですが、この集落を出ても良いんですか? 危険なんじゃ……」
「なぁに、この子が初めてじゃないさ。今までも若い連中が何人か出て行ったもんだよ。それと危険かい? それについては良いものがあるんだよ」
引き止めるとばかり思っていたおばちゃん達が、ジャニラちゃんの愚行を後押しし始めた。
柔らかく、連れて行くのはまずいよ、と訴えるのだが、状況が連れて行く方向で動き始める。
それでいいのか、大人。いや、これも異世界常識なのかもしれない。
だがこの先安全とは限らない。
そこが不安であったのだが、おばちゃんに良い考えがあるらしい。
「この苗を持っておゆき」
「これは?」
「メルシン様の恩寵の一部さ。まあ、ここに比べたら微々たるもんだけどね。それでもジャニラちゃんを護ってくれるものさ」
「へぇ、恩寵って持っていけるんですね」
「言っただろう? 全ては世界で繋がっているんだよ。"マットゥ"とそれに選ばれた民さえいれば、どこででも生きていけるのさ」
「何だか凄いですね」
「まあ、この森もアタシらのご先祖様が持ってきた"マットゥ"からもたらされたと言われているからね。昔はここも荒野だったそうだよ」
恩寵、そしてそれをもたらす"マットゥ"。
これらはこの世界にとって重要なものらしい。
草一本なかったあの拉致現場周辺の荒野も、それさえあれば変わるのだろうか。
「アタシらは運が良い方だよ。土地そのものが"マットゥ"って場合もあるらしいからね。持っていけるなんてのは希少な方さ」
ふむ。大概は土地に固定されているという訳か。
マットゥにも色々なタイプがあるらしい。
「ふむ。やはりこうなったか」
おばちゃん達と話していると、いつの間にか長老を含めて集落の者達が集まってきていた。
ジャニラちゃんのお見送りであろうか。いつの間に知れ渡ったのだ。
「前々から人間に興味を持っていたのは気づいていたが、こんなに早く旅立つとはな」
「ジャニラちゃん、行っちゃうの?」
「うん。また、くる」
長老の孫のティンクリアとジャニラちゃんが抱き合っている。
お別れの挨拶である。
俺は俺で、おばちゃん達と最後の挨拶を交わす。
「おばちゃんには本当にお世話になったよ」
「ふふふ。若いもんが何を言ってるんだい。若いもんを世話するのも年寄りの生き甲斐なんだよ」
「この道が整備されているから、ここを行くと良い。外は危険だからな。気をつけるんだぞ」
「おう。オヤジにも世話になったな。今度訪れる時は何か土産でも持参してくるよ。どこかの地酒にでもするかな」
「楽しみにしてるぜ」
最後に二カッと笑いかけて言葉を締める。
見ると、ジャニラちゃんの方のお別れは済んだようである。
皆、名残惜しそうだがいつまでもこうしている訳にもいかない。
ジャニラちゃんの手を握り、確認の意味を込めて軽く引っ張る。
「行ってくる!」
人見知りの筈のジャニラちゃんが手を振りながら一際大きな声で別れの挨拶を放つ。
その顔には屈託のない笑みが浮かんでいた。
ここで一区切りです。
基本ほのぼのですが、徐々に戦闘描写も書いていく所存です。
次回、閑話を一話挟んで新展開にいきたいと思います。
※毎日更新が厳しくなってきました。基本は不定期更新でお願いします。




