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拉致・のち、放置&放浪記  作者: 七草 折紙
『放浪開始』編
1/30

Prologue 始まりの放置

練習作です。

ノリ重視で書いていきたいと思います。

※4/11 文章修正しました。

「君、もう帰って良いよ」


 ある日、突然そんなことを言われる。


「はっ?」


 学校の帰り道にいきなり拉致され、連れて来られて、早一ヶ月。

 それから散々、訳の分からない人体実験をさせられていたのだ。


 その結果、帰って良いよ。理不尽にも程がある。


「は、はぁ、失礼します」


 そんな状況だったにも関わらず、何故かペコリと頭を下げて出ていこうとする少年。


 少年は、一ヶ月程度はちょっとした長期休暇としか思っていなかった。

 逆に勉強せずにボケッとできて幸せ。そんな始末である。


 そんな少年の前には、ここに来てからの唯一の人間である、研究生のような男。

 同じ日本人であることを示す黒眼黒髪は、見慣れたものである。


 男の格好で際立つのは二種類。眼鏡と白衣だ。

 眼鏡は仕事中であることを顕著に示しており、白衣は実験中と云うことを強調していた。


 その男が少年の態度に興味を示す。


「ふふ。君は面白いね。無理やり連れて来られた割には落ち着いている」

「まあ実験って言っても痛かったりした訳ではないですし」

「他の人達は泣くか喚くか怒るか逃げ出すか暴力を振るってくるかなんだけどね」

「でも帰れるんですよね? なら問題はないです」


 結果良ければ全て良し。少年はそんな人種であった。

 嫌味を含むことなく、淡々と事実のみを告げていく。


 それを見て、男はより一層笑みを深める。


「ふふふ。君は面白いね」

「はぁ」

「そんな君に御褒美にこれをあげよう」

「何ですか、これ?」

「只の飴玉だよ。お腹が減っただろう?」

「は、はぁ、頂きます」


 御褒美と言われて出てきたのは、たった一粒の飴玉。何の変哲もない、駄菓子屋にでも普通に売ってそうな只の飴である。


 お腹が空いていたのは事実なので、早速頂くことにする。

 男の真意を疑うことなく、口の中に投げ込み、口内で転がす。

 飴玉一個でも腹の足しになるであろう。しかし――


「……まずくはないですが、不思議な味ですね」

「ふふ。それで(・・・)食べ物の問題、いやあらゆる問題が解決すると思うよ」

「?」

「それからそれは僕からのサービスなんだ。他の人達には内緒にね。言っちゃうと君の身体が爆発しちゃうからね」

「ば、爆発!?」


 不穏な単語を耳にして怯える少年。

 先程までの気楽さが一転、顔が引き攣ってゆく。


 あからさまな脅迫であるが、万が一のこともある。人体実験で何をされたかは分かっていないのだ。

 忠告には素直に従おう。そう思うのであった。


「そ、それでは失礼します」

「うん。元気でね」


 その言葉を最後に少年は振り返り、扉を開けた。

 開けたのだが――


「……」


 何も無い。人がいないとかではない。文字通り、何も無いのだ。

 見渡す限りが荒野の連続。土、土、土。草一本生えていない。


「あのぅ、ここはどこですか?」


 振り返りながら問い掛けるが、そこには誰もいなかった。無論先程の男の姿もない。

 自然と間の抜けた声が出る。


「ハッ?」


 部屋は完全な密室。出て行く足音すら聞こえなかった。そもそも扉はこれ一つ。

 ミステリー小説でもあるまいし、隠し扉を使って出て行ったのであろうか。

 少年は都合のよい解釈をして、疑問に終止符を打つ。


 いや、それ以前に部屋を出た先に荒野しかないのはおかしい。今いる部屋以外には何もない荒野なのである。四方を見渡すが全て荒野。日本国にそんな場所があっただろうか。

 自分が知らないだけかも知れないがここで一つの在ってはならない仮説が生まれる。


「ははっ……外国? どうやって帰るの?」


 英語など喋れない。帰国子女などと云うこともなく、成績優秀という訳でもない。

 日本生まれの日本育ち、海外経験無しの、生粋の純日本人である。語学力は皆無であった。


 そもそも、ここはどこなのだ。連れて来られた経緯も道順も、気絶していたので憶えている筈がない。

 居場所を特定するための材料は、見渡す限りの荒野と、ベッドや机以外は何もない閑散とした部屋。

 改めて見ると、こんな場所に一ヶ月もいたのか、というそっけない余韻のみが残る。


 先程までは、いつも通りに只寝ていただけ。食事も男が用意し、拉致犯ではあるが、一人ではなかった。


 だが、数分の間に事態は急変。一人ぼっちで、宛てもない。


――不安が募っていく。


「どうしよう……」


 何をしていいか分からない今の事態に、少年は泣きたくなった。

 確認する限りでは、近辺には人っ子一人いない。


 こういう時にすべきことは……人を探して何とか意思疎通を図ること。

 その前に――


「取り敢えず食料を何とかしないと……」


 お腹が空いてきた。飴玉一個では腹の足しにもならなかった。


「ない。何もないっ!」


 部屋の中を含め辺り一帯を隈無く探すが、食料らしきものは皆無であった。

 サバイバル開始である。


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