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第三話 盗賊の街ハサンドルク

「まさか『不帰の森』にドラゴンでも住み着いたのか?」

「冗談だろ? ヤバそうな魔物は全部あの方が掃討して結界を張ってくれた筈だろ。まさかあの方に何かあったとか……」

「演技でもないこと言うなよ! 殺しても死にそうにない最強のあの人が死ぬとか有り得ねぇだろ!」

「……ないとは思うが、討伐隊が組まれたとか?」

「いやいや、この国にそんな気概のあるやつも、まじめなやつもいねーだろ。上から下まで腐り切ってんだからよ」

「だいたい、ここは限られた者しか知らない辺境だぞ。魔物ならともかく人間が来るわきゃない」

「魔物でも十分ヤバイだろ! ふざけんな!!」

「『総帥ボス』が不在の時にこんな事が起きようとは……」

「やべぇよ、やべぇよ。いったい何が起こってんだよ、畜生! ボスはいるだけで恐いが、こんな時にいないとなると不安しかないぜ。ああ、くそっ、早く帰ってきて下せぇ!!」

 盗賊や強盗など指名手配された犯罪者達やはぐれ者、迫害されて他の町や村では生きていけない者達──しかし、ある程度自衛できる戦闘力を持つ──が住む町、ハサンドルクの住人達は不安と混乱に陥っていた。

 原因は数日前から魔境の森──別名、不帰の森──から聞こえてくる破壊音と魔物の鳴き声である。

 その音から推測するならばドラゴン、もしくはドラゴン級の何か──おそらく魔物。魔族や邪神・亜神の類ではない──が森を破壊し、ハサンドルクでも有数の強者でなくば倒せない魔物を殺戮しながら、徐々に近付いて来ているという事実である。

「どうするんだ? ボスも副長も『堕落した黒翼の刃』の連中も不在で、ドラゴン級のやつに対処・防衛できるのか!? ちょうど『狩り』の時期に来るなんて最悪だ!!」

 この町唯一の酒場は、緊急時には避難所や集会場、会議室としても使われている。

そこは喧騒と怒号が飛び交い、走り回る者や悲鳴を上げて床に四つん這いになって泣く者までいる始末。

バタンと音を立てて両開きの扉が開け放たれ、一人の年若い見習い魔術師風の青色のローブを着た青年が入って来る。

「さっき僕が副長に、念話の魔道具で報告と救援要請した。けど、どう考えても間に合わない。

ここにいるやつらだけでできる対策をなにか練らないと最悪全滅・壊滅の危機だ」

「リグール!! お前なら何か策があるんだろ!?」

「バカ言うな。確かに僕は『黒の魔術師あのかた』の不肖の弟子だが、いまだ中級魔術しか使えない落ちこぼれだ。

おかげで弟子達の中唯一『狩り』のメンバーに加えて貰えず居残りなんだぞ。そんな僕が戦力になるなんて期待するな」

「酒樽一つ持てない非力なお前を戦力として期待したりしねえよ!! そこまでバカじゃねぇし!!

俺が期待してんのは、常に冷静沈着なオツムの出来だけだ。

センリャクたらセンジュツたらは期待できるだろ。他にそんな事できる頭良いやついねーだろ。力自慢のバカはいても」

「ドラゴン級相手に十人でも戦力になるやつがいるとか、戦略的魔道具があるとか、戦闘に使える古代遺物アーティファクトがあるとかならともかく、現状で使える策などない。

ただ、戻ってくる『狩り』のメンバーのためにできる事があるとするなら、犠牲覚悟で念話の魔道具持ってあれを偵察して報告する事くらいだな」

「それでどうにかなんのか?」

「僕達留守番組は、最悪全滅、町は壊滅するだろうが、情報は残せる」

「全然ダメじゃねぇか!!」

「は? 何を期待してるんだ、この僕に。だいたい戦力になるやつがいたら留守番にはなってないだろうが。

本来なら結界があるおかげで、ここには魔物・魔族は勿論、光神教の連中も近付けないんだ。

一昨日夜までは迷走してたあれが、第五・第四結界を破壊した後は一直線にこちらへ向かってるんだ。

この状況で『黒の魔術師あのかた』が救援に来ないという事は既にやられたか、感知できない場所にいるかだ

『狩り』に行く時に防衛用の人間残してないのは、この町の創立者の一人であり最大の功労者であるあの方を当てにしてるからで、それが期待できないとなれば他に対策なんてあるはずがない」

「リグール!! てめぇなんでそれで涼しい顔してやがるんだ!!」

「焦って脅えても何も解決しないからな。無駄な事はしない主義だ」

「今ほどお前の細っ首を絞めてやりたいと思った事はねえよ!!」

「やめてくれ。僕の首は一つしかないんだ。代わりはないからゲイルの力で絞められたらさすがに死ぬ」

「首が二つも三つもあってたまるか!! ああムカつく!! 一瞬でもこの頭でっかちヘタレ野郎を頼りにしようとした自分にもムカつく!!」

「ひどい言い様だな」

「ひどいのはお前だ、リグール!! マジでぶっ殺してぇ!!」

「そう簡単に殺されてたまるか、この単細胞の脳筋野郎。とにかく情報が足りなさ過ぎる。

何をどうするにしても、最初の犠牲者になる確率が高くても、斥候は出すべきだ」

「そんなこと言われて誰がやるんだよ、お前か?」

「常識的に考えてできる筈がないだろう。なにせこの町で一番体力も筋力もないのがこの僕なんだから」

 と胸を張ってきっぱり言うリグールに、ゲイルは吼えた。

「あぁーっ!! ムカつく!! 本当ムカつく!! なんでそんなムダに偉そうなんだよ、糞が!! 死ねば良いのに!! なぶり殺してぇ!!」

「本当に野蛮なやつだな、親の顔が見たい」

「てめぇにだけは言われたくねぇよ!!」

 怒鳴り合う二人を、周りの男達はまたかといったような生温い目で見ている。

「おいゲイル、騒いでないでこれでも飲め」

 酒場の店主が顔を真っ赤に染めて怒鳴るゲイルに、生ぬるいエールの入ったマグを握らせる。

「で、どうすんだよ、リグール」

 言われた通りエールを飲むゲイルを横目に見つつ、店主がリグールに尋ねる。

「さっき言ったように偵察するための斥候を出すべきだと思う。何をするにしても情報が足りない。

このまま静観していれば、何の手段も情報も得ることなく全滅しかねないからな」

「で、誰がそれをやるんだよ?」

 店主の言葉に、リグールは首をひねる。

「ふむ。考えてみれば、斥候をやれそうなやつは皆『狩り』に出てるな。残ってるのは脳筋か戦力になり得ない弱者か文人のみ。……という事は」

「という事は?」

「潔く死ぬしかないな」

 うむ、と頷くリグールの後頭部を、エールを飲み干したゲイルが、銅製のマグで殴る。

「イタッ! 何するんだ、ゲイル!!」

「気持ちはわかるが、酒場うちの備品を使うな、ゲイル」

 店主の言葉に、リグールは涙目で批難の目を向けるが、誰も彼に同情しない。

「大丈夫だ、オルス。いくらリグールが石頭とはいえ、銅のマグが壊れるほどじゃない」

「お前の馬鹿力じゃ歪んだりへこんだりしかねないだろ。とりあえず、お前らちょっと様子見に行って来い」

 店主オルスの言葉に、ゲイルとリグールの目が大きく見開かれる。

「「は? ……何だって!?」」

 二人の声が揃った。

「念話の魔道具持って、お前ら二人で偵察行って来い。どうせ今いるメンツじゃ誰が行っても同じだ。

だったら言い出しっぺと、脳筋バカでも腕力と頑丈さだけはあるゲイルが行くのが一番マシだろう」

「……なっ……」

 絶句するリグールと、

「ひでぇ!」

 叫ぶゲイル。店主の言葉に、周りの連中はうんうんと頷いている。

「それがいい、それでいいよな、みんな!」

 誰かが言った言葉に、口々に同意・賛成の言葉が漏れる。反対意見は皆無のようである。

 店主はにやりと笑って、ぷるぷる震えるリグールと、辺りを見回すゲイルの肩を叩く。

「じゃ、頑張れ。なるべく死ぬなよ?」

 決定事項だった。

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