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ギャンブル狂いの王子は、婚約破棄する私の反応を賭け事の対象にしていたようで

掲載日:2026/05/09

 私の婚約者であるジャック第一王子は無類のギャンブル好きだ。取り巻きと共に、ありとあらゆる賭け事を繰り返している。ある日は我が国では違法な奴隷を購入し、奴隷同士の殴り合いを賭け事の対象にしたり、ある日は従者の髪の本数を事前に予想し、一本一本引き抜いて正解を確認したりと、やりたい放題。


 そんな狂ったわがままが許されているのは、実質的に次の王となり得る存在が、ジャック第一王子しかいないからだ。現国王は子供に恵まれず、現在、王家の血を継いでいるのはジャック第一王子、レイト第二王子の二名のみ。そしてレイト第二王子は、現在二歳の誕生日を迎えたばかりの幼子である。そのため貴族も皆、彼のやることに口出しできないのだ。

 国王も国王で、数少ない我が子が可愛いらしく、あらゆるわがままを許している。そのせいで、こんな化物(モンスター)が誕生したのだから、目も当てられない。


 婚約者である私が言うのもなんだが、ジャック王子が国王となった暁には国が滅びるだろう。ジャックという男は、それほど狂っているのだ。

 ……この国のためにも、民のためにも、そして私の安寧な生活のためにも、彼が国王になることは、何とか阻止しなくてはならないのだ。


******


「リンドール!お前との婚約も破棄だ!」


 ジャック王子十八歳の誕生日。盛大に開かれたパーティ会場で、いつもの取り巻きと下品に笑い合いながら王子はそう宣言した。別に驚くことでも何でもない。現に来賓として訪れている貴族の方々に動揺は一切見られない。そう、彼が婚約破棄するのは累計五回目。私は五人目の婚約者なのだ。

 正直清々する。胸くその悪いギャンブルを隣で延々とされるのは、かなり心疲れする物があった。


「承知いたしました。今までありがとうございました」


 私がそう言うと、王子は取り巻き達と顔をニヤニヤ見合わせる。


「第一声は『承知いたしました』だ!どうやら俺の勝ちのようだな!レイブン、グロウェル!百ゴールドだ!ギャンブラーに二言はねぇよな!」

「くっそー!『冗談ですよね!?』だと思ったんだけどなぁ」

「『何でもしますので、側にいさせてください!』って上目遣いで言わなかったかぁ」

「グロウェル、あいつの性格的にそれはねーだろ。――色気なんてゼロなんだからさ!」


 再びの下品な笑い。

 レイブン、グロウェルと呼ばれた取り巻き二人は、懐から百ゴールドを取り出しジャック王子に渡した。ジャックはそれをズボンのポケットに突っ込む。どうやら、私の第一声が賭けの対象にされていたらしい。どこまでも救えない連中だ。


「おいおい、そんな睨んだ目で見るなよ。ただの遊びじゃないか?楽しく行こーぜ?――お前もギャンブルをやればわかるさ。何なら今からやるか?さすがに初心者には手加減してやんよ」


 ジャック王子はそう言ってゲラゲラと小馬鹿にしたように笑い、「そんな度胸ねーか」と再び笑った。


「いいですわねギャンブル」

「お!お嬢様が乗り気だぞ!」


 ジャック王子の言葉に、取り巻きが「フー!」ともり立てる。会場にいる貴族達も、横目でチラチラと事の成り行きを伺っているのがわかる。


「初心者だからな、少しぐらい要望聞いてやってもいいぜ」

「――でしたら一つ。賭ける物は私が決めても良いでしょうか?」

「俺が納得できる物だったら何でも良いぜ」


 その言葉を聞き、私はツカツカと王子に歩み寄る。「キスでも要求されるんじゃねーですか!?」なんて野次をガン無視して、王子の目の前に立ち、彼を睨みつける。


「私は、私の持ちうる全てを賭けます。財産もこの体も全てです。――その代わり、ジャック王子。あなたは王位継承権をお賭けください」

「……は!何を下らんことを言うかと思ったら。そんな戯れ言に付き合う時間など無いわ!」


 王子は一瞬フリーズした後、いつもの調子を取り戻す。

 ここまでは予想通り。ジャック王子はギャンブル好きだが、意外と小心者だ。単純に提案するだけでは条件を飲んでくれないだろう。だが付けいる隙はある。――ジャック王子はプライドが異常なまでに高いのだ。


「そうですか――まさか、初心者相手に怖じ気づいているのですか?」

「そ、そういうわけではないわ!だが、お前が有利なゲームを提案しては公平な勝負とはいかんだろ?――ギャンブルは公平さが大切なのだ」

「でしたら勝負内容は公平になるよう、王子が決めてくだされば良いではありませんか?例えば――」


 私は右手の指を王子の胸ポケットに絡ませ、襟首を閉めるようにギュッとつかむ。突然の事に王子は反応出来ない。


「殴り合いをしても構いませんわよ?」


 王子が苦しそうにもがき、締め付けている私の右手をどかそうと両手でしがみつく。王子の横暴になれている貴族達ですら、ザワザワと動揺するのがわかる。

 一拍おいてから、取り巻き達が正気を取り戻したかのようにこちらに駆け寄ろうとするのが見える。

 私はパッと手を胸元から離す。


「なんて、冗談ですけどね。――先ほど婚約破棄された際、ジャック様も言われていたでしょう?ただの遊びだと。ねぇジャック様?まさかこれは遊びじゃない、なんて情けないことは言いませんよね?」

「ゴホッ!ゴホッ!……確かにこれは遊びだ。よしわかった。――リンドール、ギャンブルをやろうか。終わったら覚悟しとけよ」


 ジャック王子の言葉に、私はにっこりと満面の笑みを浮かべて、おしとやかに頷く。王子はその顔を、気味が悪い物でも見るかのように、目を細めて睨みつけた。


「ゴホン!――では勝負は金貨の表裏を当てるというものでいこう。数字が刻印されている方を表、逆に王の横顔が刻印されている方が裏だ。俺から表裏の宣言をする、で構わないな?賭けている物の大きさが違うんだ。これくらい公平だろう?」


 ジャック王子は、大きな物を賭けるときは決まってこのゲームを提案する。単純に考えれば50%で勝てるこのゲームだが、私の知っている範囲では、王子はこのゲームに負けたことがない。


「えぇ、全く構いません」


 私がそう言うと、王子は私を睨みつけながら、胸ポケットから一枚の金貨を素早く取り出し、手元を見ずに左手で金貨をはじいた。金貨はクルクルと一定のリズムで回り、放物線を描く。それを王子は左手の甲と右手のひらで挟み込んだ。


「さぁ表か裏か、どっちにしようかなぁ――決めた。表だ」

「私は裏ですね。では開けてくださいませんか?」


 私がそう言うと、王子は急に吹き出して笑い始めた。


「ヒャッハッハッ!まさか本気でこんな勝負に乗るとはな!約束は絶対だからなリンドール!」

「はい。――ですが、それはジャック様もですよ。裏が出たら王位継承権を放棄してくださいね」

「いいぜ裏が出たら本当に王位継承権を放棄してやる。裏の王の横顔が本当に出たらな!」

「……それはどういう意味でしょうか?」

「まあいいか。種明かししてやろう。そろそろ潮時だしな。――俺がさっき投げた金貨は、どちらの面にも表の数字しか刻印されていないんだ!つまり、裏が出る可能性はゼロ!お前の負けは手をどける前に確定したんだよ!」

「――それは不正ではないでしょうか?」

「不正じゃねーよ!俺は金貨を使うとしか言っていない。別に王国共通金貨なんて一言も言ってないからな!確認しなかったお前が悪いんだ!」


 王子が嘲るようにそう言う。周りの取り巻きも、勝ちを確信したのか、ニヤニヤと私の顔をのぞき込んでくる。本当に気持ちが悪い奴らだ。


「さぁお前でどうやって遊ぼうかな!?あぁ、想像するだけで笑えてくる!」

「まだ終わっていませんよ。早く、右手をどかしてください」

「いいぜ?まあ、結果は目に見えてるんだがな。……ってはぁ!?」

「――あれ?私の目がおかしいのでしょうか?私の目には国王の横顔、裏の面が見えているのですが?」


 王子の左手の甲に乗っている金貨は、間違いなく裏面であった。


「ど、どうなってやがる!」


 王子は金貨をひっくり返してもう片方の面も確認する。金貨は、そちら側も国王の横顔が刻印されていた。


「な、なぜ両側裏面になっているんだ……」

「さぁ?――ただ、もしかしたら、どこかの誰かが胸ぐらをつかんだ時、コインが入れ替わったのかも知れませんね?」

「き、貴様!これは不正だぞ!」

「なぜ?先ほど自身で言われたではありませんか?『確認しなかったお前が悪い』のだと。それも金貨なのですから、何も不正にはなりません」


 私がそう言うと王子は言葉に詰まったのか黙り込む。


「では約束通り、王位継承権の放棄、よろしくお願いいたします。――ギャンブラーに二言はないのですものね」


******


 その後ジャック王子は王位継承権を放棄した。今回の件を無視する選択肢もあったのだろうが、プライドがそれを許さなかったらしい。さすがプライドだけは無駄に高い男だ。

 王になる道が閉ざされた狂った男を支持する者などいるはずも無く、取り巻きもいなくなり、以前のような横暴も出来なくなるだろう。

 ジャック王子が王位継承権を放棄したことで、次期国王は自動的にレイト第二王子となる。まだまだ歩きたての彼にとっては、想像も出来ない重圧を課してしまった。そこは少し反省している。

 レイト王子には、これからしっかりと教育を受けてもらい、王として恥じるとこのない人間に成長して欲しいと切に願うばかりである。

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― 新着の感想 ―
面白い。 いっそのこと断種までさせちゃえばと思っちゃいました。
親がしっかり廃嫡しとけよ。国費領地をギャンブルのたねにされてからじゃ遅いんだよ。
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