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銀劍のダンピル ~人類軍のスパイとして吸血鬼学園に潜入しつつ、パワードスーツと対戦車ライフルと銀刀で任務を遂行します ※ヤンデレ妹に正体がバレそうです~  作者: ウトウ・ヤスタカ
第一章:戦場~入学準備

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第9話:吉江丸

星曆(せいれき)一九〇七年(光分(こうぶん)四〇年)・三月:日乃本協和國(ひのもときょうわこく)の軍学校/時刻は夕方


 薄暗い執務室の中で、俺は牙白(きばしろ)少尉を待っていた。

 待つのは苦ではなかった。というのも、窓の外では夕暮れが空を美しいオレンジ色に染め上げていたからだった。刻一刻(こくいっこく)と寒色の青空が暖色の夕焼けに塗りつぶされていく。その色合いの潮流は、見ていて飽きることがなかった。

 まるで、青い血が赤い血に変わっていくようじゃないか。縁起がいいね――。沈みゆく夕日を眺めながら、俺は『人間化手術レネゲイド・プロトコル』に思いをはせた。

 『人間化手術レネゲイド・プロトコル』は患者の脳を一時的に仮死状態にし、その間に強力な殺菌薬を大量に投与するというプロセスを経る。このプロセスに使用する機器や薬が高価かつ取り合いになっているため、最低でも五千万(もんめ)はかかるというわけだ。


 俺は病院を退院して軍学校に移ると、そこから三週間にわたりスパイとしての技能と狩兵具足(しゅへいぐそく)操法を学んだ。

 正直なところ、そこまで苦痛ではなかった。療化隊(りょうかたい)にいたころと比べれば寝床も飯も十倍良かった。配給血液も”低質な黄色い血”は一切出ず、”新鮮な赤い血”しか出なかったので、吸血鬼としての”能力”もずいぶん回復した。


 残念ながらあまり待たされることもなく、執務室に少尉が入ってきた。

 俺はすぐに立ち上がり敬礼した。


「ご苦労。軍学校はなかなか楽しかっただろ?」

「はい」


 そこそこ楽しめたので、冗談と受け取るべきなのか迷った。


「よろしい。まあ、座れ」


 少尉は手で座れと合図しながらカーテンを閉め切って電灯をつける。沈みゆく夕日は見えなくなった。

 執務室の中で、二人は机を挟んで椅子に座り込んだ。

 机の上にドサッと資料の山が置かれる。少尉がその山を手でサッとスライドさせると、まるでトランプのカードのごとく綺麗な扇状へと広がった。少尉は退役したらカジノのディーラーにでもなったほうがいい。


「出発の直前になってから作戦概要の説明というのも悪かったな。上層部が機密保護だのなんだのと(うるさ)くてかなわん」

「いえ、問題ありません」


 そりゃ、実働前の吸血鬼にスパイ作戦の詳細なんて教えないだろう。俺が人間でもそうする。


「よし、本題に入ろう。お前にやってもらう仕事は人探しだ」

「人探し……?」


 少尉は広げた資料の中から一枚の白黒(モノクロ)写真を選ぶと、俺の目の前まで人差し指で押し出した。ずいぶん指が長いなと思った。

 写真にはセーラー服を着た若々しい女学生たちがズラリと並んでいる。おそらく、女学校(じょがっこう)の集合写真だろう。


「最近になって吸血鬼たちが人間の拉致を活発化させた理由は知ってるな?」

「イシャファン病によるものかと。去年の流行で人血畜(シェルプ)が大量に死んだのだと思います」


 イシャファン病とは感染力の強い熱病である。協和國ですら猛威を振るっていたのだから、医療技術の劣る皇國ではさらに多数の死者を出しただろう。


「その通り。ヤツらは死んだ分の人血畜(シェルプ)を補充したがっている。お前も皇國にいたんだから、その気持ちは理解できるだろ?」

「ええ。人血畜(シェルプ)が急激に減れば封建制度を支える血救規則(けっきゅうきそく)が維持できない。早急(さっきゅう)に対応しなければ皇國の崩壊を招きます」


 月輪皇國(がちりんこうこく)には『本家と分家』という制度がある。本家と分家の関係は、貴族と準貴族のようなものだ。

 爵位を持つ各名家は、爵位に応じた広さの領地と人間牧場(ヴィエ)をもっている。しかし、子孫に領地を分割して相続してしまうと、領地はどんどん小さくなるし、管理も大変だ。そのため、”本家”のみが領地全体を継承していく。

 ”分家”は血救規則(けっきゅうきそく)により、領地内で徴血(ちょうけつ)された人血(アパ・ヴィエ)を本家から配給血液として受け取ることができる。

 人血(アパ・ヴィエ)を満足に配給できなくなったら、本家に成り代わろうとする分家が出てきてもおかしくない。

 そして行き着く先は――内戦だ。


「よく分かってるな。まあ当然ヤツらもそんなことは重々承知(じゅうじゅうしょうち)だから、なりふり構ってられないワケだ」

「ヴァラヒア帝國から人血畜(シェルプ)を輸入すればよいのでは?」

「いや、ヴァラヒアの人血畜(シェルプ)もイシャファン病で大量に死んだらしい。輸入しようにもモノがないのさ」


 協和國と皇國を抱えるのがヤシマ列島。その西側に位置しているのがガイア大陸だ。そしてガイア大陸の大部分を治めているのが、吸血鬼の超大国であるヴァラヒア帝國だった。

 帝國ですら人血畜(シェルプ)が足りないというのは異常事態といえた。


 人間という動物は発育が遅いから家畜としては三流だ。人血畜(シェルプ)人血畜(シェルプ)を産ませても、労働させられるようになるまで十年近く負債になる。だからこそ、『人間の国家から人間を拉致してくる』という手段を選んだのだろう。


「そしてヤツらは、とんでもない面倒ごとを起こしてくれた。――『吉江丸(きちえまる)』って知ってるか?」

「二ヶ月くらい前に新聞で読みました。豪華客船が台風の影響で沈没したと」

「そう、表向きはな。……しかし、実態は吸血鬼による船のハイジャックと、それに伴う集団拉致事件だった」


 少尉が指で押し出した白黒(モノクロ)写真には吉江丸(きちえまる)と思われる巨大な豪華客船が写っていた。


「皇國の港湾に停泊させて乗員を降ろしたあと、沖で自沈処分したようだ」


 写真を手に取って見てみる。確かに台風程度で沈むような船体ではない。


「……つまり、拉致された人間を探し出して連れて帰れと?」

「そういうことだ。吉江丸(きちえまる)は修学旅行中の女学生を大量に乗せていた。写真の女どもは全員がいいところのお嬢様だ」


 なるほどね。どうりで全員が美人なわけだ。権力者ほど美人の嫁が手に入る。その子供に美貌が遺伝するのも当然か。


「もう分かってきたと思うが、その中には政財界の大物の娘が大量に含まれている。もちろん現役将校の娘もいる。そいつらによる協和國政府への突き上げがマジで洒落(シャレ)にならない状況だ。……早く開戦しろってな」


 ……ん?

 なんかもう、俺の手に負える話じゃなくなってきてないか?

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