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銀劍のダンピル ~人類軍のスパイとして吸血鬼学園に潜入しつつ、パワードスーツと対戦車ライフルと銀刀で任務を遂行します ※ヤンデレ妹に正体がバレそうです~  作者: ウトウ・ヤスタカ
第一章:戦場~入学準備

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第8話:受恩刻石

星曆(せいれき)一九〇七年(光分(こうぶん)四〇年)・二月:日乃本協和國(ひのもときょうわこく)/病院/時刻は昼


「テメェ……、有念無雙(うねんむそう)流か⁉ どこで修めた⁉」

「親切な人が教えてくれましてね」

「フン、強制收容所(サナトリウム)で”士道不覚悟”の鬼化復員兵(きかふくいんへい)にでも教えてもらったのか?」

「……さあね」


 ”士道不覚悟”とは協和國の兵士が好きな標語で、『吸血鬼ウィルスザルモクシス・ヴァイラスに感染したら自決しろ』という意味である。


 しかし、先ほどの応酬でこちらの手の内がバレてしまった。

 『刀の(背中)に左手を添える諸手(もろて)受け』は握忍勝機(あくにんしょうき)といって有念無雙(うねんむそう)流に特徴的な防御手段である。ヤシマ銀劍術(ぎんけんじゅつ)の覚えがあればすぐに分かるだろう。

 また、梃子(てこ)の原理を利用して敵の防御をこじ開ける所業無情(しょぎょうむじょう)や、球撞き(ビリヤード)プレイヤーのような姿勢で正確な突きを放つ穿刺蠻行(せんしばんこう)も見せてしまった。

 同じ技が通用するか分からない。


強制收容所(サナトリウム)で死ぬまで自給自足の生活をすることの何が不満だ? 殺されないだけでも感謝しようとは思わないのか?」

「……普通に殺されかけましたよ」

「そうかい。だがな、吸血鬼が強制收容所(サナトリウム)から出てきたら市民は恐怖で夜も眠れない。お前は生きているだけで他人を(おびや)かす存在だ。早く強制收容所(サナトリウム)に帰れ」

「嫌だね。そういうアンタこそ、市民を守りたいなら退役して警察官にでもなれよ」

殺鬼劍(せっきけん)とは(すなわ)活人劍(かつにんけん)(なり)! 吸血鬼を殺すことこそ市民の命を救うことと見つけたり!」

「……正義中毒の陽炎(かげろう)流には参ったね。アンタら全員、精神的麻薬中毒者だよ。正義の名のもとに他者を殺したいだけだ」


 あえて挑発するような言動で伍長から仕掛けるように誘う。なぜなら陽炎(かげろう)流は後の先(カウンター)狙いの技が多く、逆に言えば先の先(先手)を取る技が少ないからだ。

 先ほど見た後の先(カウンター)の技は完璧だった。あれだけの技量がある相手に打ち込みたくない。俺は確実に木刀を叩き落としたと思ったのに、受け流されて敵の反撃の助走に変換されていたのだから(たま)ったものではない。

 ”防御動作を反撃の起点とし、回避動作を攻撃とする”――、陽炎(かげろう)流の妙技である『戒定慧(かいじょうえ)』は頭で知っていても見たのは初めてだった。


 先ほどの挑発が効いたのか、伍長がジリジリと送り足で距離を詰めてくる。

 俺はお地蔵さまのごとくピタリと止まり、伍長の攻撃を待った。不動の状態となることで頭を揺らさず、徹底的に相手を観察して技の起こりを見切る。――有念無雙(うねんむそう)流、『念氣未象(ねんげみしょう)』である。


 来る――。


一殺多生(いっさつたしょ)オオオオオオッ!」


 右足を踏み込みつつ、右半身と右腕を完璧に連動して放たれた神速の袈裟斬り――。生半可な剣士ならこれにて終了だったであろう。もちろん技の起こりを見切って後方へと飛び退(すさ)り、袈裟斬りを回避する。

 よし、着地したら無防備に投げ出された伍長の右半身へと反撃を――。――そこで気付く。そう、これこそ陽炎(かげろう)流が編み出した必殺の勢法(わざ)だった。


 ――陽炎(かげろう)流奥義、『逆夢(ぎゃくゆめ)』。

 相手が無思慮に右半身への反撃を行ってきたならば、踏ん張りを残しておいた右足を蹴って右半身を急速に後方へと引き戻す。すると、右半身を引く動作により敵の反撃は自然と回避できる。

 それどころか、一度は空を斬ったはずの刀が右腕に引かれながら高速で反転して跳ね上がり、反撃してきた敵の腕を下から斬り飛ばすのだ。


 見事――。

 ならば俺も()せねば無作法だろう、有念無雙(うねんむそう)流の奥義を。

 飛び退(すさ)った際の慣性を両腕に流し込んで一気に木刀を頭上へと持ち上げる。背筋をピンと伸ばし、腕をまっすぐ上方へ突き出し、木刀を垂直に立てる。その姿はまるで天高く(そび)え立つ摩天楼(まてんろう)であった。

 ――有念無雙(うねんむそう)流、『劍上流水(けんじょうりゅうすい)(くらい)』。


 伍長が目を見張った。せっかく布石としてまいた奥義を発することもなく身を引こうとする。

 しかし、もう遅い――。


 そのまま、呼吸を整えて臍下丹田(せいかたんでん)に力を込める。内功を()って、足と腰と背と肩と腕と手首のクラッチを擦り合わせる。

 左足で地面を蹴りだしつつ、さらに前方へ倒れこむようにして初速を稼ぐ。

 頭上に掲げられていた木刀が急降下を開始。高度として蓄えられていた位置エネルギーが重力という触媒と爆発的に反応し、速度エネルギーに換わりながら急速に加速する。

 水が(ひく)きに流れるが如く、人が(やす)きに流れるが如く、(つるぎ)も地へと突き立つのが世の(ことわり)だ。


 閃――。


 強烈な剣速による風切り音が嵐のような(うな)り声を上げ、(いかづち)の如き上段からの一閃が宙を斬って地を(つらぬ)く。

 伍長の握っていた下方に垂れたままの木刀が、その(たなごころ)から叩き墜とされた。


 ”全身を連動させて上段から振り下ろす、理論上最速の唐竹割”――有念無雙(うねんむそう)流奥義、『呪怨哭責(じゅおんこくせき)』。

 久々にやってみたが、どうやら腕は(にぶ)っていないようだ。


 煙草(タバコ)を吸いながら観戦していた得上(えがみ)軍曹がピュウと口笛を吹く。口から紫煙(しえん)が噴き出て雲のように宙へと伸びた。

 試合の趨勢(すうせい)を見守っていた少尉がパチパチと拍手しながら近づいてくる。気持ち悪いくらいにニコニコしていた。


「いやぁ、お見事。予想していたより数段良かった。これで安心してお前を頭数に入れられる」

「どうも」

「チッ……」


 悪態をつく隆満(たかみつ)伍長を見かねた得上(えがみ)軍曹が近づいてきて、伍長の首の後ろの襟を掴んで引っ張り上げた。


「すいません少尉。コイツまだ書類仕事終わってないんで先に帰ります」

「フフッ、了解した。ついでに、なんか美味いモンでも食わせといてくれ。経費で落としておく」

「了解です」


 母猫に首元を咥えられた子猫のごとく、隆満(たかみつ)伍長が軍曹に引っ張られていく。


「実戦だったら手加減して()えからな! これで勝ったと思うなよ!」

「……実戦だったら銃撃戦で勝敗が決まってると思いますがね」


 なんだか先が思いやられるな……。戦場で後ろに立たせたくないわ。


「シン、お前もこれで晴れて俺たち牙白支隊(きばしろしたい)の仲間入りだ。隆満(たかみつ)伍長については黙らせなくて悪かったな。あとで俺からも叱っておく。……あいつは吸血鬼に親族を皆殺しにされて天涯孤独の身だ。吸血鬼という存在の否定だけがあいつの生きる意味なのさ」

「その話、先に聞きたかったですね。普通に不快でした」

「ハハッ、まあ許せ。今日はもう休んでいい。ただし、明日には退院して軍学校に異動だ。そこで徹底的にスパイとしての教育をしてやる。遅くとも一か月後には協和國とお別れだ。……狩兵具足(しゅへいぐそく)の操法も教えてやる。嬉しいだろ?」

「はい」

「よし、詳細な任務内容は出発前に説明する。……ああ、そうだ。療化隊(りょうかたい)の兵舎に寄って行くか?」


 そう聞かれた俺は置いてある私物があったかどうか思い出そうとした。それと、同じ隊の連中の顔も思い出してみる。

 そして、五秒も経たずに返答した。


「いえ、何もないので結構です。……本当に」


 私物は何もなかったし、同じ隊の連中は不快なやつばかりだった。

 お別れを言いたい仲間は誰もいない。みんな死んでしまったから。

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