表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/44

第36話:意馬心猿

星曆(せいれき)一九〇七年(光分(こうぶん)四〇年)・六月:月輪皇國(がちりんこうこく)石橸(いしだる)子爵領/雨江市場(うこうしじょう)の加工場/時刻は午後


「ギャッハァ!」


 垉六カズハ(バター・フェイス)が左脚で足場を蹴り飛ばし、刺突剣(レイピア)状の血劍(サビエ・デ・スンジェ)を構えて空中を突進してくる。

 一般的な刺突剣(レイピア)術が突く瞬間に腕を伸ばすのと違い、アリコーン型血劍術スティルル・アリコルヌルイの基本に(のっと)り右腕二本をピンと伸ばして腕全体を固定していた。

 さながら馬上槍(ランス)による突進と見紛(みまご)う猛烈な一撃が迫りくる――。


 一方の俺は霞の構えを崩さなかった。

 右肩を前にして右半身(みぎはんみ)になることで前面投影面積を最小化する。切っ先を前方に向けた振銀刀をしっかりと握り、分厚い右肩部防盾(ぼうじゅん)を前方へ突き出すと、さながら槍と盾を同時に構えた重装歩兵(ホプリテス)のごとき出で立ちとなった。

 具足を着た(介者)状態ではさらに防御力が上がる構えだ。

 ――まずは相手のお手並み拝見といこう。


 一合目。カズハの突進を闘牛士のごとき足さばきで左斜め前へと()り抜ける。

 俺の両脚の筋電位を読み取った具足が再點火器(リイグナイター)を起動。二行程發動機(2ストロークエンジン)が噴き出す未燃焼ガスに点火し、水平方向の跳躍を推力でアシストする。

 カズハの突進を悠々と回避しつつ、俺はガラ空きとなっていた右翅に突きを入れた。


 そのまま二合、三合、四合と一撃離脱を繰り返すカズハと交差するも、カズハの攻撃はすべて俺の具足が噴き出した黒煙と陽炎を貫くだけに終わる。

 逆に俺は斜め前方へと回避し、すれ違いざまに肉翼(アリパ・デ・カルネ)へ攻撃を加えていた。

 すでにカズハの肉翼(アリパ・デ・カルネ)はボロボロになっている。

 振銀刀の銀イオンによって再生が阻害されているからだ。

 ……しかしカズハがそれを意に介する様子はない。

 まさか”銀劍士と戦うときは少しの傷も付けられないように注意する”という吸血鬼側のセオリーすら知らないのか?


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ! いいかげん死ねよやァッ!」


 何度も避けられて頭に血が上ったのか、大広間(ホール)の壁を両足で蹴りだして砲弾のごとく突っ込んでくる。蹴られた壁に大きなヒビが入る。とんでもない速度の突進だ。

 ……だが何度か打ち合って(わか)った。コイツ、素人に毛が生えた程度の実力しかないではないか。


 振銀刀を中段に構える。

 被甲(マスク)給水罐(ボトル)に入れていた人血(アパ・ヴィエ)をストローから(すす)り、臍下丹田(せいかたんでん)に力を込めて吸血鬼としての能力を開放――。自身の大腿部(だいたいぶ)に生成された電気器官で一気に発電を開始する。

 ――俺の成體變化身(イマーゴ)は”デンキウナギ”。HULTO(ハルト)コードネームは『サンダー・サイズ』だ。


 カズハが迫りくる。俺は真正面から迎え撃つ。


 ――交差!


 地面を蹴り飛ばした左足をカクンと折り敷き、右足を左斜め前に踏み出す。

 左膝を突きつつ、振銀刀を右肩へと担ぐように振りかぶる。

 莫大(ばくだい)な電力を腕部驅動筋管(マッスルユニット)に無理やり流し込むと、駆動系が紫電を撒き散らしながら過負荷運転(オーバーロード)して規格外のトルクを発生させる。

 俺はそこに体の(ひね)りを乗せ、神速の袈裟斬りを放った。


 師匠が言っていた。”天国は地獄のさらに下にある”と。

 斬り結ぶ 太刀の下こそ 地獄なれ 踏み込み入れば あとは極楽

 ――有念無雙(うねんむそう)流奥義、『入場深淵(いばしんえん)


 俺が(かが)んだことで、カズハの血劍(サビエ・デ・スンジェ)は頭上をかすめて空を斬る。

 それとは対照的に俺の振銀刀はカズハの右肩へ食い込む。

 刹那(せつな)、熱したナイフがバターを()()くような感覚が俺の両手に伝わり、銀の刃がカズハの右腕二本と右翅を一刀両断した。


 ”回避と斬撃の完璧な融合”――。それが『入場深淵(いばしんえん)』の神髄(なり)


 肉翼(アリパ・デ・カルネ)を斬り落とされたカズハが墜落する。

 飛行の勢いそのままに地表へ激突してゴロゴロと転がり、大広間(ホール)の壁に叩きつけられて停止した。


「ウザいウザいウザいウザいウザい!」


 カズハは肉蛹クリザリダ・デ・カルネの爆発時に吹き飛ばされていた人間の屠体(とたい)に噛り付く。

 しかし、右腕や右翅が再生することはない。

 後方からパンパンパン!という爆音が近づいてきたため、カズハは振り向くと同時に長い舌で横薙ぎに払う。

 しかし、そこに狩兵(しゅへい)はいない。


 ――俺は左腕の索投擲機(ワイヤースロワー)を使用し、大広間(ホール)(はり)に上がっていた。

 再點火器(リイグナイター)が発生させた推力に背中を押されつつ、一気に(はり)を駆け抜けてカズハの頭上まで接近する。

 (はり)から飛び降りる勢いを乗せて左翅を斬り落とし、返す刀で長く伸びた青い舌を斬り飛ばした。

 ほとんどの吸血鬼は水平方向の眼球振盪(がんきゅうしんとう)(わずら)っているため縦方向の動きには対応が(にぶ)る。皇國の文が横書きで、協和國の文が縦書きなのもそういう理屈だ。


 そのまま頭を叩き割ってやろうと振銀刀を振り上げるも、カズハは目から血淚彈ラクリミ・デ・スンジェを乱射した。驟雨(にわか雨)のごとき青い血の涙が装甲板に(はじ)かれ、軽い連打音を響かせる。

 腕に血淚彈ラクリミ・デ・スンジェが当たって斬撃の軌道がブレる。カズハはモゾモゾと高速で地面を()いずって、ブレた斬撃を避けつつ距離をとる。

 どうやら胸脚と腹脚(イモムシの足)は無駄ではなかったらしい。


 血淚彈ラクリミ・デ・スンジェはサバクツノトカゲの生体機能を模倣した攻撃方法だが、拳銃よりずっと威力が低い。当然こちらは無傷だった。

 牽制にしかならないくせに使用する血液量が多いため、あまり使われない技だ。


「ぜェ、ぜェ……。ふざけんな、精神病(ドラペトマニア)人間(サル)分際(ぶんざい)で……」


 カズハは二本足で立ち上がるも、右腕二本と肉翼(アリパ・デ・カルネ)の両翼が斬り落とされており、すでに満身創痍だった。

 残った左腕二本のうち、一本の人差し指を噛みちぎり血劍(サビエ・デ・スンジェ)を生成する。そして残ったもう一本の左腕を頭上に掲げて位置エネルギーを保持したバランサーウェイトとした。

 その闘争心は褒めたいところだ。


 振銀刀を中段に構えて送り足でジリジリと近づいていくと、カズハは無様(ブザマ)なV字防御を始めた。

 V字防御とは剣の切っ先を左右に振って敵の攻撃を打ち払う悪手(あくしゅ)である。これでは切っ先が敵に向けられず反撃できないし、敵の攻撃が内側に滑ってそのまま自分に当たる可能性もある。


 ――もう終わらせよう。

 俺は送り足から歩み足へと足さばきを変更し、一気に距離を詰めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ