表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/38

第33話:振銀刀

星曆(せいれき)一九〇七年(光分(こうぶん)四〇年)・六月:月輪皇國(がちりんこうこく)石橸(いしだる)子爵領/雨江灣(うこうわん)に続く道路/時刻は午後


 薄暗い照明に照らし出された四領の狩兵具足(しゅへいぐそく)がカタカタと震えている。ここが走行中のトラック内でなければ、武者鎧に怨霊が取り憑いたと勘違いしてもおかしくない。


 俺は自身に与えられた狩兵具足(しゅへいぐそく)の点検をしていた。

 その具足は前衛向けの《卅二式狩兵具足さんじゅうにしきしゅへいぐそく針口(しんく)』》だった。

 後衛向けの《卅三式狩兵具足さんじゅうさんしきしゅへいぐそく孃矩吒(ひくた)』》とは部品の大部分を共有する関係にある。

 そして、どちらも龍角重工業りゅうかくじゅうこうぎょう製だった。


 第1世代狩兵具足(ハンターアーマー)である《Mk.I(ヘルシンガー)》は、個人が吸血鬼獵銃(ヴァンピアブクセ)近赤外線受像(NIRビジョン)眼鏡(スコープ)を同時に扱うために産まれた。

 第1世代騎は一騎で完結しているのに対して、その発展型である第2世代騎は『猟犬と猟師(ハンターキラー)戦術』で運用することを前提に設計されているものが多い。

 機動力に優れた前衛(ハンター)が吸血鬼の注意を引き付け、積載量に余裕のある後衛(キラー)が強力な吸血鬼獵銃(ヴァンピアブクセ)でトドメを刺すのだ。

 次世代型である第3世代騎は機動力も積載量も十全なマルチロール騎だと聞いたことがあるが……、現状ではアージェンティアですら最新鋭騎である《Mk.VIIII(ヘルカイト)》の配備を始めたばかりだ。そんなものを羨ましがっても仕方ない。


 療化隊(りょうかたい)にいた頃は選抜射手(マークスマン)として吸血鬼獵銃(ヴァンピアブクセ)を持っていたのだが、牙白(きばしろ)支隊では吸血鬼としての耐久力を活かすため前衛に転換することとなった。

 ……正直なところ、クソデカい吸血鬼獵銃(ヴァンピアブクセ)を持たずにすんでラッキーだと思っている。

 ただし今回の作戦では屋内戦闘がメインとなるため、邪魔になる吸血鬼獵銃(ヴァンピアブクセ)は持っていかないらしい。


 背部を確認すると、主機として空冷水平対向二気筒の二行程發動機(2ストロークエンジン)(あっぱれ)》が搭載されていた。

 どうやら最新バージョンらしく、氣化器(カーブレーター)には三次元機動用のマイナスG弁・ゼロG弁・プラスG弁がすべて取り付けてある。

 しかも、ありがたいことにソレノイド弁によるオートチョーク機能まで付いていた。これなら冷間始動時でもチョーク操作と初爆確認が不要だ。


 《針口(しんく)》に装備された主武装(メインアーム)は《廿五式機關雷銃にじゅうごしききかんらいじゅう》(銃剣付き)、副武装(サイドアーム)は《卅一式機關短銃さんじゅういっしききかんたんじゅう》だった。前衛(ハンター)役としては一般的なものだ。


 ……しかし、銃剣が銀合金製で無いのが残念だな。それなら近接武装(メレーウェポン)として銀杭打機(シルバーアロイ・キャプティブステイクガン)か振銀刀(シルバーアロイ・ヴァイブロブレード)を付けてくれても良かったんじゃないか?


 すると、牙白(きばしろ)少尉がニヤニヤと笑いながら話しかけてきた。


「まさか本当に実妹と付き合うとはな。見直したぞ」


 少尉は以前と同じく、赤いアロハシャツの上から黒い背広(スーツ)を羽織っていた。もちろん俺も同じような格好をしている。


「笑い事じゃないですよ……」


 しかも戸籍上の妹(サオリ)に『サユリと付き合うことになった』と報告したら、それ以降メチャクチャ機嫌が悪い。

 報告したときは『へー。お兄ちゃん、お幸せに(bucoros)ね』と言ってくれたのに、なんで……。


「バカにしてるワケじゃねぇ、勘違いするな。俺はお前の評価を上方修正したんだからな」


 そういうと、少尉は俺に《卅五式振銀刀さんじゅうごしきしんぎんとう》を差し出した。


「お前の覚悟はよく分かった。正直、お前にコイツを持たせるかどうかは悩んだが、任せることにする」

「……ありがとうございます」


 振銀刀シルバーアロイ・ヴァイブロブレードは銀合金製の刀身を高周波で振動させる近接武装(メレーウェポン)だ。蜃氣樓の盾スクート・デ・ミラジュ肉襦袢(アルムラ・デ・カルネ)を使用するような上級吸血鬼と対峙するなら心強い得物となる。

 吸血鬼が銀の武器を装備すると、体に(まと)わせた靑血球(せいけっきゅう)のエアロゾルである蜃氣樓の盾スクート・デ・ミラジュが弱体化してしまう。

 しかし、俺は蜃氣樓の盾スクート・デ・ミラジュを安定して展開できるほどの上級吸血鬼でもないので、そんなことを心配する必要はなかった。


 俺は差し出された二尺八寸(約85cm)の《卅五式振銀刀さんじゅうごしきしんぎんとう》を両手で受け取り、鑑賞を開始した。

 駐爪(ちゅうそう)を押してロックを解除し、刃を上にして鞘から刀身を引き抜くと、氷のように冷たい白銀(しろがね)の刀身がまろび出る。手元のウエスで丁子油(サビ止め)(ぬぐ)い、薄暗い照明の下に刀身を(さら)すと、地鉄(じがね)刃文(はもん)がゆらりと立ちのぼった。


 鎬造(しのぎづくり)庵棟(いおりむね)鎬高(しのぎたか)く、身幅広(みはばひろ)い。反り尋常(じんじょう)腰反(こしぞ)り付き、中鋒(ちゅうきっさき)

 (きたえ)柾目肌(まさめはだ)地沸微塵(じにえみじん)に厚く付き、地景(ちけい)よく入り、(かね)冴える。

 刃文(はもん)直刃(すぐは)調。(ほつ)れ・打除(うちの)け・喰違刃(くいちがいば)交じえる。金筋(きんすじ)砂流(すななが)幾重(いくえ)にも(しき)りに掛かり、匂口(においぐち)明るく冴える。

 帽子(ぼうし)()ぐに小丸(こまる)

 (はばき)金着一重(きんきせひとえ)


「……大和(やまと)工場製とお見受けしましたが、如何(いかが)?」

「フッ、流石にそれくらいは分かるか」


 《卅五式振銀刀さんじゅうごしきしんぎんとう》の製造元は《D58型(デコッパチ)》の製造元と同じく桑名鐵道(くわなてつどう)社だが、各工場によって作風が違う。

 この《振銀刀(しんぎんとう)》は”柾目肌(まさめはだ)直刃(すぐは)刃文(はもん)”と典型的な大和工場製だった。

 大和工場製の振銀刀は斬れ味よりも耐久性を優先している。俺の遣う有念無雙(うねんむそう)流が刀身を酷使する流派だから、大和工場製の物を選んできたのだろう。

 桑名鐵道(くわなてつどう)社製の一般的な振銀刀は『()』という溝が刀身に掻き流さ(彫ら)れている。にもかかわらず、渡された振銀刀には()()かれていなかった。

 ()を掻くことで強度は5%低下するが重量は15%軽くなるから、普通の兵士は掻く方を好む。しかし、俺が使うことを想定して少しでも強度を優先するなら、”この振銀刀”を選択するのが最良といえた。


「おー、少しは品評できんのか。やるねぇ」

「フン、新しいオモチャを貰ったからといって(はしゃ)ぐなよ。ガキじゃあるまいし」


 同乗していた得上(えがみ)軍曹と隆満(たかみつ)伍長が話しかけてきた。


「おい、お前ら具足(ぐそく)の点検は終わったのか?」

「ええ、バッチリ。それにしても中々いい個体ですよ。装甲からはバッチリ味噌の味がするし、驅動筋管(マッスルユニット)の製造ロットも歩留(ぶど)まりが良くなってからのヤツだった」


 得上(えがみ)軍曹は機嫌良さそうにウィンクした。味噌の味って絶対オカルトだろ……と思ったが黙っておく。

 《針口(しんく)》や《孃矩吒(ひくた)》の装甲はコスパの良い黒森鋼(モリブデン合金)だが、味噌を塗ってから焼き入れすることで炭素を吸着させ、防御力を底上げしている。しかし、この『表面滲炭裝甲』は炭素含有量に個体差(ムラ)があり、各装甲にアタリ/ハズレがあるらしいのだ。

 それを調べるため『装甲を舐めて味噌の味の滲みこみ具合いを確認する』というオカルトじみた方法を聞いたことがあったのだが……、俺が舐めてみてもサッパリ味の違いが判らなかった。


牙白(きばしろ)支隊総員に告ぐ。そろそろ準備しろ。あと二十分で”状況開始地点”に着くぞ」


 トラックの運転席から今朝合流したばかりの工作員の声がした。

 そう、今まさに『和泥合水(わでいがっすい)作戦』が進行しているのだ。

 甲班(牙白支隊)の任務は、雨江市場(うこうしじょう)の事務所に突入して『競売(オークション)で使用された人間型録(カタログ)人血畜(シェルプ)の取引記録を入手すること』だった。


「了解した。……そろそろ()()()るぞ。ションベンは済ませておけよ」

「「「了解」」」


 収納を開けて携帯トイレを取りだそうとしたところ、中に本来の運転手の死体が入っていた。俺が戸籍上の妹(サオリ)と出会った入学式の日、倒れた標識柱に足止めされていたトラックの運転手だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ