第24話:帰命頂礼
■星曆一九〇七年(光分四〇年)・五月:月輪皇國/平坂吸血鬼學園/裏山/時刻は昼
――美しい純白の毛髪が、青い血糊を付けた銃弾に切り裂かれて宙を舞う。
それもそのはず、その銃弾はサユリの背中側から襲い掛かろうとしていた鬼オオカミの体躯を貫通してきたものだったからだ。
「うおおおおおおおおおおおおッ!」
「ジンさま……⁉」
流れ弾でサユリを殺せなかったと知るや、俺はなるべく必死に見えるようにサユリへ向けて吶喊を開始した。
九発全弾撃ち尽くした《PT md.55回轉式雷銃》は邪魔だったので捨ててきた。
サユリは……無傷であった。良くも悪くも。
結局、あれこれ考えているうちにサユリの背中側へ回っていた鬼オオカミたちが射線に入ってしまったので、その瞬間に引き金を引いた。
『鬼オオカミの体躯を貫通した弾がサユリに当たるような射線で撃つ。もし流れ弾でサユリが死んだら自分に言い訳がつく。もし外れたらそのまま援護に入る』と、自分を納得させた。
よくよく考えたら、すでにサユリが俺のことを他の連中にチクってる可能性のほうが高い。
もう、あれこれ考えても無駄だ。
射殺した鬼オオカミたちの死体を踏み越えながら、右手の人差し指を噛み千切って血劍を生成する。
大きく振りかぶり、血劍を上段から叩きつけるようにして斬る。サユリに襲い掛かろうとした鬼オオカミは頭を真っ二つに割られて息絶えた。
「大丈夫か⁉」
「はい。助かりました……!」
なんとか間に合ったぜ! ……という雰囲気を可能な限り演出する。
口に咥えたままだった人差し指入りの手袋をペッと吐き出し、鬼オオカミの飛び掛かりを血劍の横薙ぎで打ち払う。
しかしあまり力が入らず、吹き飛ばされた鬼オオカミはピンピンしていた。
――クソッ、血劍では太刀筋が安定しない……。
ヤシマ銀劍術とヴァラヒア血劍術は体系の異なる武術であり、身体の使い方がまったく違う。
まず、ヤシマ銀劍術は左腕の力を主体にして剣を振り、右手は斬撃軌道の調整に使う。一方でヴァラヒア血劍術は右腕一本で戦うことが前提である。なぜなら血劍を形成する血液は、左腕への流入を制限することで都合しているからだ。
また、足構えも大きく違う。ヤシマ銀劍術は基本的に左足が後ろであり、正中線を垂直に立てたまま直線的に踏み出す。一方でヴァラヒア血劍術は基本的に右足が後ろであり、右手の血劍を振り下ろす際に右足も後ろから大きく踏み出す。このとき左足を軸とした回転の遠心力を血劍に乗せて振り抜くのだ。
いちおう俺はこれからこの学園で血劍術を習う素人ということになっている。
あまりヤシマ銀劍術を臭わせるような打ち方はできない。
しかし、それでも二人で死角を補い合いながら鬼オオカミを次々と切り伏せていく。
初めて共闘したとは思えないほど、二人の息は完璧に合っていた。
サユリの靑血が作り出した青い血劍の切れ味は背筋が冷たくなるほど鋭い。血劍術も中々の腕前だ。
”最初に突き、続けて斬撃”という動きから、おそらく
『フェニックス型血劍術』を修めているのではないかと予想した。
残り四頭、三頭、二頭――。
しかし、最後の二頭は手ごわかった。
完璧なタイミングでの連携攻撃、寄せては引く波のように波状攻撃を仕掛けられる。
攻撃に気を取られたサユリが鬼オオカミの死体に足を取られて姿勢を崩す。体力的にも限界が来ていたのだろう。
鬼オオカミたちは隙を見逃さなかった。――二頭が反対方向から同時に飛び掛かってくる。
もう手加減していられない――。
俺は血劍を上段に構えると、前方から襲い掛かってくる鬼オオカミの頭を右袈裟で叩き割った。
そして俺は左回りに回転して後方へと振り向きつつ、振り下ろしたばかりの血劍を無理やり脇構えに移行。サユリに襲い掛かる鬼オオカミの顎に向けて剣によるアッパーカットを叩き込もうとする。
――前方への斬撃を、勢いそのままに後方への斬り上げへ繋げる。有念無雙流、『奇妙重來』の応用だ。
ところが脇構えに移行した瞬間、俺は気づいてしまった。
折れてる――⁉
本気で打ったせいで、たいして強度のない藍色の血劍が折れてしまっていたのだ。




