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銀劍のダンピル ~人類軍のスパイとして吸血鬼学園に潜入しつつ、パワードスーツと対戦車ライフルと銀刀で任務を遂行します ※ヤンデレ妹に正体がバレそうです~  作者: ウトウ・ヤスタカ
第一章:戦場~入学準備

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第1話:地獄

星曆(せいれき)一八九七年(光分(こうぶん)三〇年):月輪皇國(がちりんこうこく)領内


『好きであることと、愛していることの違いとはなんですか?』。


 そう問われたお釈迦(しゃか)さまは、こう答えたそうだ。


『花を好きな人は、野に咲く花を千切(ちぎ)って家に持ち帰る。花を愛する人は、野に咲く花に水をやり、枯れるまで見守る』と。


 僕はこの説話が好きだったのだが、後々になって(じつ)何処(どこ)かの誰かが作ったウソだと知った。

 それでも、僕はこの話が好きだった。


「お兄さま、行っちゃヤダ……!」


 胸に(すが)り付いて泣きじゃくる”腹違いの妹”を、僕は優しく抱きしめた。


「ごめんね。でも、もう行かなくちゃならないんだ」

「じゃあ、私もついてく!」

「……ダメだよ」

「なんで……? お人形さんは持っていくのに、なんで私は連れていってくれないの⁉」

「それは……」


 それはね。


「さっちゃんのことを愛してるからだよ」


 僕が地獄に堕ちたとしても、愛する妹には天国に行ってほしいからだよ。


 愛しているからこそ、道連(みちづ)れにはできないんだよ。



星曆(せいれき)一九〇七年(光分(こうぶん)四〇年)・二月:日乃本協和國(ひのもときょうわこく)月輪皇國(がちりんこうこく)の国境付近/時刻は夜


「おいテメェ! 呑気(のんき)に死んでんじゃねえぞ、死ねッ!」


 上官の怒号と蹴りによって、あの世へ行きかけた俺の命が無理やり肢体(したい)に引き戻される。

 自分の上に(かぶ)さっていた味方の死体を押しのけて立ち上がると、そこは現実(じごく)だった。

 夜の(とばり)が下りた荒野を舞台に、人間と吸血鬼たちが凄惨(せいさん)な殺し合いを演じていた。まばらに生えた木々が煌々(こうこう)と燃えあがり、異形の演者たちを真っ赤な光で照らし出す。


 ――そうだ思い出した。敵軍の列車砲が放った240mm榴弾に吹き飛ばされて地面に叩きつけられたあと……、俺は十年も前のことを思い出していたのだった。


 目の前の吸血鬼がこちらに気づき、弾切れになった銃器を放り投げてこちらに突進してくる。

 自らの指を噛み千切り、傷口から(ほとばし)()()()()剣状(サビエ・デ・スンジェ)に成形して斬りかかってきた。――狙いは俺だ。


 銃を構えて迎え撃……、自分の手中に銃がないことに気が付いた。

 何やってんだ俺は――⁉


 吸血鬼が血劍(サビエ・デ・スンジェ)を振り下ろそうとしたその瞬間、狩兵具足(パワードスーツ)を着込んだ兵士――狩兵(しゅへい)が吸血鬼の横っ腹に強烈な蹴りを食らわせて吹き飛ばす。

 狩兵具足(しゅへいぐそく)背部の二行程發動機(2ストロークエンジン)から轟々と噴き出される黒煙に、俺は思わずむせ返った。


 人間が吸血鬼と戦うために作り出された機械の鎧は、ただの人間に怪物的な膂力(りょりょく)を与える。

 虛空管(こくうかん)が筋電位を増幅し、それと連動して驅動筋管(マッスルユニット)が怪力を生み出す。

 ――すると、銃というにはあまりにも長大な吸血鬼獵銃(ヴァンピアブクセ)が軽々と持ち上がった。


 ピタリと構えて狙いを()け、狩兵(しゅへい)はそっとトリガーを引き(しぼ)る。

 爆発――。雷電甁(キャパシタ)から送り込まれた電流が電気発火雷管を起爆させ、20×64mm(オムニアワニタス)機銃彈がとてつもない爆音(ばくおん)(とどろ)かせた。

 《廿七式自動獵砲にじゅうななしきじどうりょうほう》の銃口から放たれた完全覆銀フルシルバージャケット彈が夜闇を切り裂いて飛翔し、起き上がったばかりの吸血鬼の上半身を木っ端微塵(こっぱみじん)に吹き飛ばす。

 ”銀”は吸血鬼のあらゆる異能を無効化する。

 完全覆銀フルシルバージャケット彈の前には、吸血鬼が展開する蜃氣樓の盾スクート・デ・ミラジュもまったく意味をなさない。

 その場に残された吸血鬼の下半身から青色の血液が噴水のように噴きあがった。


 狩兵(しゅへい)は振り向くと、俺を一発ぶん殴った。

 狩兵具足(しゅへいぐそく)の腕力はいとも簡単に俺の歯をへし折り、口内をズタズタにする。


「戦場でボケっとすんじゃねえよ()()()()が。頭にまで菌が回ったか?」


 ひどい耳鳴りの中からなんとか声を拾い上げ、ようやく目の前の狩兵が自分の上官だと理解した。


「はい、申し訳ございません!」


 折れた歯を飲み込み、なるべく何事もなかったかのように返事をする。

 俺はすぐさま足元を見渡し、自分が落とした《九式手動獵銃きゅうしきしゅどうりょうじゅう》を拾い上げた。


 指揮所(コマンドポスト)から通信指令を受けた上官は、後方で弾幕を張る兵士たちに向けて声高(こわだか)に命令を下す。


「これより戦車部隊の前進を援護する! 散開して射撃位置につけ! 療化隊(りょうかたい)総員、支援射撃準備!」


 後方で待機していた十数両の《卅一式對空戰車さんじゅういっしきたいくうせんしゃ火象(かぞう)』》が一斉に動き出す。対向ピストンヂーゼルエンジンからけたたましい騒音と膨大な黒煙を噴きあげ、随伴歩兵とともに前進を始めた。


 俺は周囲の歩兵と歩調を合わせ、荒地の起伏に身を隠しながら前方の岩陰まで移動する。次にやるべき仕事は、こちらの戦車部隊を迎え撃つために湧いて出てくる吸血鬼たちを狙い撃つことだ。

 バカみたいに巨大な《九式手動獵銃きゅうしきしゅどうりょうじゅう》のボルトを前後動させ、13.2/9×94(プルスウルトラ)mm口径漸減彈を薬室に叩きこむ。

 銃床に頬付けすると、今更(いまさら)になって()()の鼻血が垂れてきた。


 そう、俺は吸血鬼だった。


 そして横で伏せている他の兵士たちも、みな傷口から紫や藍の鮮血を垂らしている。この療化隊(りょうかたい)は、劣悪な強制收容所(サナトリウム)の環境に耐えかねた『人間になりたい吸血鬼』によって構成されているのだ。


 敵はまだ出てこない。

 ――銃の構えを解いて足元に転がっていた味方の死体から輸血パックを奪い取り、犬歯を突き立てる。

 パックを握りつぶして一気に中身を飲み干すと、黄ばんだ血液からはクエン酸ナトリウムの酸味がした。


 銃床に頬を付けなおすと、先ほど折れた歯が新しく生えてくる感触を口腔に感じた。

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