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天帝の星を導く 〜王族専属風水師  作者: 水無月せん


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6/6

男装して王に会うしかない 2

     ※



 洛王の使いが来て、馬車で王城へと向かった。姉弟の姿を見たのは宿の人間だけだ。部屋を出て馬車に乗るまで、顔を見られないよう修名の影に隠れて移動した。

 馬車の中で修名と向かい合って座る。


「本当に、鈴華さまには驚かされます」

「なんとかしなきゃいけないんだから、驚いてる場合じゃない」


 永成は宿で休んでいる。姉の鈴華が長距離移動で酔って体調を崩している、ということにして。

 王と会って、遠く離れた場所から少しの時間会話を交わすだけだ。なんとかなる。

 緊張しないわけではない。

 だけど今は、早く終わらせて北州の都を見物することを楽しみにしておこう。特徴的な海岸や水路、風水術に沿って建物が配されているか、星はどんなふうに見えるか。

 考えているうちに城門を抜け、乾和殿という建物に通された。


 乾和殿は行事の場ではなく、私的な来賓をもてなす宮殿で、とてつもなく広いわけではない。立っている場所から正面の椅子までは、十歩ほどだろうか。まだ王の姿はない。背後の扉には兵が立ち、修名は扉の向こうに待機している。

 王城は外観も内部も、落ち着いた色合いだった。壁や柱の朱色は央州の宮殿よりも深みのある色合いで、柱にほどこされた彫刻なども控えめだ。

 南州は全体的に色合いが派手だったので、土地柄があるのだろう。

 ふと、漂う香に気づいた。控えめで爽やかな花のような匂い。どこかで嗅いだことがある。

 思い出す前に、正面の奥から足音が複数聞こえてきた。

 来た。

 ひざまずいた。王の姿が見えた瞬間、すぐに胸の前で手を重ね、額を床に付けるほど頭を下げる。


「ああ、私が招いたのだから、そこまでしなくて良い。頭を上げよ」


 落ち着いたやわらかい口調だ。


「恐れ入ります」


 ゆっくりと顔を上げ、立った。

 一段高い場所に立つ姿を見て、声をあげそうになった。


 あの男――。

 椅子に座った王ではなく、その近くにいる従者。

 婚礼の日に広場で声を掛けてきた男だ。


 まずい。


 顔を伏せぎみにする。あの夜は化粧をしていたし、薄暗かった。一度しか会っていないし、今は男性の身なりをしている。

 距離もある。

 動揺して怪しまれてはいけない。

 洛王が語りかけてきた。


「永成どのも知っているだろうが、北州では先王が急逝し、後を継いだ誉王も病で伏せがちだ。ほかにも何かと異変が続き、先王が風水を軽んじたからだと言う民もいる。白氏を招いたのは確かな血筋と、この者が――」


 洛王は隣に立つ男に視線を向け、話を続けた。


「先日の婚礼で風水師と話す機会があり、良いのではないかと薦めてきたからだ。先王が風水師を排除したので、私もなじみがなく懐疑的だったのだが、試して損をすることもないだろう」


 遊び回っていたという噂から、もっといい加減な人物を想像していたが、口調も表情も穏やかで威圧感もない。刺繍が入った黒い衣装に水色の帯を締め、若く雄々しい。

 なんとかなるかもしれない。

 そう思ったが、隣の男の視線が気になる。

 気づかないでほしい。

 男が口を開いた。


「私は星苑せいえんと申します。王とは乳母が同じで、子供のころから見知ってますが、今は手足となり働き、命を狙われるようなことがあれば盾となる覚悟です」


 笑みを浮かべながら王の方に視線を向ける。王は少しだけ苦い表情になった。永成と修名の関係に近いが、それよりは歳近い友のような感覚なのだろうか。

 星苑はこちらに視線を戻した。


「ところで姉君が体調を崩されたと聞きましたが、大丈夫でしょうか」

「はい、馬車の揺れで酔っただけですので、一日休めば回復するでしょう」


 視線は合わせず、目を伏せ気味に答える。精一杯、低めの発声を心がけた。


「話した印象では、酔って寝込むような繊細な人には見えなかったが」


 思わずごくりと喉を鳴らしてしまう。


「……意外と繊細なのです」

「ああ、失礼しました。図太く見えたという意味ではないのです。良い意味で健康的と言いますか」


 適当な発言には気をつけるのではなかったのか?

 言い返したかったが堪える。

 ちらりと洛王の方を見ると、王も少し呆れたような視線を星苑に向けていた。

 洛王は気を取り直したように言った。


「それで、どうだろう。私の専属風水師として試してもらえないだろうか。無理だと思ったらその時点で辞退してもいい。逆に私も上手く使えないと思ったら契約を破棄するかもしれない。それくらい気楽にだ」


 風水師に詳しくない分、試して合わなくても失望は浅いし、責めたりしないかもしれない。条件は悪くないが、それでも永成には荷が重い。


「実は、ご依頼の直前にほかからも話がありました。熟考して後日ご返答してもよろしいでしょうか」

「……ああ、それは致し方ないな。国内で血筋確かな風水師は白氏と柳氏のみだから、引く手あまただろう。なのにわざわざ遠路足を運んでくれたこと感謝する」


 思い通りに話を進められた。

 帰郷後に永成が断りの書簡を出せばすべて終わりだ。

 勝利を確信して心の中で拳を握った瞬間、星苑に問われた。


「出立は明朝とのことですが、このあとのご予定は」


 気が緩みかけ顔が上がっていたので、慌てて目を伏せる。


「はい、北州の地理に興味があるので、見て回ろうと思っています」

「では私が案内しましょう」


 結構です!


 叫びたかったが堪える。


「……いえ、本当に個人の趣味のようなもので、お忙しい中、お付き合いさせるわけにはいきません」

「こちらが招いたのですし、ここ数年で変わった場所もある。案内があった方が効率よく回れるでしょう。それに私は洛王に使われなければ忙しくはないので」


 星苑が視線を向けると、洛王はため息をついて頷いた。


「と、言うわけなので行きましょう。食事も美味しい穴場に案内しますので」


 星苑が近づいてきた。

 冷や汗が出そうだ。

 完璧な男装のはずだが、この男には顔を知られている。いや、暗がりで一度会っただけで、絶世の美女でもないのに覚えられているとは思い上がりか。

 気づいたら、すぐに指摘したはず。頑なに断る方が怪しまれてしまうかもしれない。

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