1.DDになってみよう
過去作『魔石クラフター~ダンジョンのおまもり屋さん』https://ncode.syosetu.com/n4416iw/
の主人公、砂耶の従妹、璃乃が今回の主人公です。
前作を読まなくとも問題はないけれど読んでいあだけると嬉しい。
短期突発連載。初回は二話連続更新。
従姉もすなるダンジョン・ダイバーというふものを、私もしてみむとてするなり。
なんて、授業でさわりだけやった古典の冒頭にちなんでみたけれど、実際、私が通称DDと呼ばれるダンジョン探索者になろうと思ったのは、二歳上の従姉の砂耶があまりにも楽しそうだったからだ。
「璃乃、新作のピアス作ったからあげる」
「砂耶ちゃん、何これ、カワイイ! 売り物になるレベルじゃん」
「売ってんだよ。売り物だよ」
「すごいな! ありがとね! これ、魔石でしょ? きれいだねえ」
「そうだよ。魔石ってきれいなんだよ」
砂耶はダンジョンではじめて魔物を倒したら貰える職業が、「創造職」だったそうで。そしてスライムを倒しては魔石を集めて、それでお手製アクセサリーを作っている。
今から二十年ちょっと前。正確には1999年に、突如、世界中にダンジョンが出現した。世紀末だとか、ノストラダムスの大予言とかで、何か大災害とか起こるんじゃないかって思われていた年らしい。
うちの両親なんかは丁度まだ大学生で、「大パニックだったよ」とか話してくれる。中で魔物が現れて、倒すとレベルが上がるとか、ゲームそのものじゃないかとテンション上がって、制度が整ったら嬉々として突進したのだそうだ。そんな両親は現在、普通に会社員やってる。一生かけてダンジョンに挑むのはちょっと……という結論に達したからと。
そんな風に、専業でDDやってる人もいれば、無関係の普通の仕事をしている人もいる。週末だけダンジョンに潜るという層も一定数。私が物心ついた頃には、そんな社会になっていた。もうダンジョンは世界を構成するうちの一つとして受け入れられているのだ。
砂耶を見ていて思ったのが。戦闘は無理してやらなくてもいいんだ、ということだった。
どうしても注目されるのは「戦士職」になる。何しろDDやってる六割以上がこの職で、一番数が多いから声も大きくなる。特に攻略組、トップ層と言われる人たちの動向は、常に世間の注目の的で、何かと話題にもなるし、彼らがダンジョンからもたらすものが社会に与える影響も大きい。戦って魔物を倒して。その結果が、身体能力も特別なスキルなんかも持っている超人の誕生だ。なので、ダンジョンに潜るのはイコールで戦うことだと思ってしまう風潮なのは仕方ないだろう。三割を占める「魔法職」だって、「戦士職」に同行して共に戦うのが大半なんだから。
中学卒業後の春休みにDD資格を取るのが、最近では当たり前。私も中学の友人たちと、引率付きの講習と実習を受けた。資格があるからって、ダンジョンに潜るのは義務じゃない。ただ便利だから皆、取るだけ。比較的安全な低層でならば小遣い稼ぎくらいにはなるし。資格持ち全員が全員、ダンジョンに潜るわけでもないのだ。
まあ、「戦士職」で有用スキルとかを最初から持っていたら、さすがに怖がりの私でも、戦う選択をしたかもしれないけれど。うちの両親も兄も「戦士職」だったからね。
ゲームなら画面の外にいる本体の私は安全だから、戦ったりするけれど、実際に戦いたいとは思わない。怪我とかしたくないし。下手したら死んじゃったりもするって聞く。死にたくないです。危ないの、怖いです。
だから、従姉の砂耶が「創造職」になって楽しそうにしているのが私の救いになった。なので、はじめてのダンジョンで、
(なにとぞ私を「創造職」にしてください!)
と、真剣に祈って挑んだ。何せ、全体の一割しかなれないからね、「創造職」。見事に引き当てた私は、ここで一生分の運を使い果たしたかもしれない。それでも構わなかった。「創造職」と共に与えられたスキルが、“ポーション作成”とその関連の物だったからだ。
(これで一生、食いっぱぐれはない!)
ポーションというダンジョン由来の薬は、DDに必要とされるだけでなく、広く一般にも需要がある。例え、作れるのが低級のポーションのみであっても。本職にするもよし、副業にするもよし。そのあたりは、これから高校在学中にじっくり考えれば良いこと。ソロで協会に売るだけでも良い稼ぎになるし、攻略クランの専属になるとか、製薬会社と契約する道だってある。
あるけれども、ひとまず高校在学中は、この能力を好きに使うと決めたから。
資格を得るための講習の後、近所のEランクダンジョンに五日かけて潜った。ダンジョンには階層の深さでランクが決められている。一層しかないのが最低のF。三層までがE。十層までがD。……とどんどん深くなっていくと、アルファベットが先頭に向かう。Aランクとか、どこまで深いのか分からないらしいよ? もちろん、深くなればそれだけ強い魔物が出て来ることになる。倒せれば恩恵も多いとはいえ、よくまあそんなところに潜ろうと思うものだ。
資格習得のためにはEランクダンジョンが選ばれることが多い。というのも、ここで基本の戦い方を覚えて攻略完了することで、個人レベルを5まで上げられる。そうすると、どのランクのダンジョンであっても三層までは行ける、最低の能力が得られるからだ。
最初の敵はゲル状の不定形魔物、スライム。次がラットかラビット。このあたりまでならば私でもソロで倒せる自信はついた。生物を殺傷する感覚がないのも救い。ただ三層から出るドッグ系――フォックスとかウルフだと複数で当たらないと厳しいかな、という感想。
へっぴり腰で引率の教官の後ろで、お膳立ての上で何とか倒させてもらっただけだから。パワーレベリングとか言うほどでもないけれど、個人レベルが5まで上がると、ウルフに噛みつかれたくらいでは軽い怪我程度で収まるようになるから、安全対策として推奨されている行為だ。DD資格もレベル5に達していないと発行できない仕組みになっている。一人で群れに襲われた場合はさすがに命に係わるけれど、レベル5まで達していたら逃げきることもできるから、らしい。いや、私はウルフが出るような所まで潜る気ないから。だってEランクの三層ボスのウルフの群れ、本当に怖かったんだよ……。あんなの教官と一緒じゃないと無理に決まってる。
ともあれ、Eランク三層攻略完了したと見做されて、無事DD資格を得た。あとはご自由にどうぞ、となる。実習中は自分に与えられたスキルを試す機会はなかったから、しっかり向き合うためにも、またダンジョンに赴くことにした。春休みはまだあるから、この機会にある程度のスキル習熟をしておきたい。
私が選んだのは徒歩だと一時間くらいの所にある藤川Dダンジョン。もちろん歩いてなんかいかない。バスは路線の関係で遠回りだから自転車一択。駐輪場もあるから便利。
ダンジョンには洞窟迷路型が一番多いけれど、まるで野外のようなフィールド型もある。実習に使ったのは洞窟型だったけれど、そこでは私のスキルが使えない。ポーション作成にはダンジョンで採取できる薬草が必要なのに、洞窟型には生えていないから。ダンジョン協会を通して購入もできるけれど、高校入学前の私の小遣いでは厳しい。じゃあ自力で採取できるダンジョンをホームにするよね、って。そう。藤川Dダンジョンはフィールド型である。
ダンジョンの入り口には協会の建物があって、有資格者はそこで色々な便宜が図ってもらえるのだ。ドロップ品の売買の他に、Dランクダンジョンからは売店が併設されてもいる。そこで一層と二層のマップを購入。ダンジョン内ではスマホなどの電子機器は使用できないので、アナログな紙製。詳細なカラー印刷された代物だった。低層の情報は得るのも簡単だから。しかも一枚五百円。
建物にはロッカーや更衣室、シャワールームなんかもあるけれど、私にはどれも必要がないから、まっすぐ入口へと向かった。
「創造職」にはもれなくアイテムボックスが付いてくるから、大きな荷物もない。背中にはリュックを背負っているけれど、中身は採取品を入れるための袋とタオルくらい。お弁当も水のペットボトルも、重いものは全部アイテムボックス任せ。装備は両手にはめた軍手のみ。足元はDD御用達のがっしりしたブーツで、これは高校の入学祝いで買って貰ったばかり。服だって普通のパーカーにデニムパンツ。低層も低層で、小物相手に重装備は必要ないから。武器だって、兄のおさがりのコンバットナイフだけ。靴以外に買い足したのは軍手と土を掘り返すためのスコップくらい。
私は暴れる心臓を宥めながら、初訪問の藤川ダンジョンに足を踏み入れた。
園芸用はスコップ。関西圏の人間だからスコップで押し通すことにしました。JIS規格もそう言ってるし!




