第8話
本来男爵家にはたくさんのメイド、侍女、執事もいるのだけど、
″シャーロットが初夜の見届け人をするから大丈夫″と伝えて、人払いをした。
結婚してから初夜を迎える人もいるけれど、わりと婚約してすぐに子作りに励む人もいる。
真面目な人ほどそう。
女性はみんな子を作るのが仕事と言われて育ったし、出来なければ養子をもらって跡取りとして立派に育て上げる。
だから私は仕方ないのよ。
息子が、出来ないのであれば父親が責任をとるしかないんだから。
湯浴みは完璧に終えているし、あとはドレスの内側に縫い付けていた、眠れる茶葉とは別の粉を使えばいいだけ。
堂々と茶葉は自分の部屋に置いているけど、これは隠した方がいいから今回使い切ったら小袋は燃やす。
というか、小袋こと暖炉に投げ入れて燃やして使うの。
これはお母様に娼館でも使ってもらっていた、媚薬のお香。
先ほどお父様に飲んでもらったお茶には睡眠を促すものと、精力を活性化させるものを混ぜておいた。
そしてこの香りで惑わしてしまえばいいの。
正直、見たくれには自信がある。
お母様が綺麗な女性に育て上げてくれたからね。
あとはこの子を使えばなんとかなるでしょう。
さあ″植物博士″とよばれた私の実力を発揮する時がきたわよ。
もう、考えただけでドキドキして心臓がうるさい。
私は暖炉にお香を入れた。
パチパチと燃える音と共に甘い香りが鼻をくすぐってきた。
なんだか鼓動が速くなってきた気がするし、体が熱くなってきた。
私はネグリジェ姿でお父様のお顔の横にひざをつくと
「お父様、起きてください」
と声をかけて揺さぶった。
お父様は何度目かで、やっと目だけを薄く開いた。
「…ララ…?」
「ぐすっ…」
「…どう…した…?リビー…は…?」
「出て行ってしまいましたの…」
「…なん…」
お父様はなんとか懸命に体を動かそうとしたが、思うようにいかなくて苦しそうに眉を寄せた。
話すのがやっと、という感じ。
やるじゃない相棒たち…効き目抜群よ…
体は眠ってて動かないのに、脳だけ起きてるみたい。
このシチュエーションを待ってたのよ。
嬉しくて口元が緩んじゃいそう。
「ごめんなさいお父様。責任を取ってください」
「…責任…」
私は座ったまま袖の無いシュミーズドレスの胸元についてあるリボンを引っ張ると、肩から滑らせるようにそれを床に落とした。
ショーツ一枚だけの姿になった。