70
翌朝、ブルーが起きるより先に私は服を着て、1人で小麦を見に行った。
ブルーったら何度も果てたから、なかなか起きなくて寝顔に癒されてしまったわ。
高い鼻梁も、薄い唇も彫刻のように綺麗だった。
目を開けると深い藍色に吸い込まれそうになるけどね。
あの一見冷たそうに見える目や、眉間に皺を寄せて怒ったように見える表情が、私にはたまらなく素敵に思えてしまうの。
「おはよう。調子はどう?」
男爵夫人らしからぬ行動とまた言われてしまいそうだけど…
畑にごろんっと横になって、耳を土にそっと預けて種たちの声を聞いた。
「ふふふ。そうでしょう。ブルーったら、ぎこちない動きで可笑しかったわね。男爵閣下なのだから、麦踏なんてしたことなくて、ああなるのは当然よ。許してあげて。」
「ああ、わかるわ、眉間に皺を寄せて一生懸命除草した時でしょう?そうなの。とっても可愛い方なの。わかってもらえて嬉しいわ」
ずいぶん長い間(側から見たら)1人で笑って小麦畑にいたと思う。
ブルーが血相を変えて走ってきた頃にやっと、あっ!しまったと思い、即座に体を持ち上げた。
「おはようございます。小麦の種とお話して、楽しくて時間を忘れてしまいました。」
ブルーは笑顔の私を見ても硬い表情を和らげずに、私をきつく抱きしめた。
「心臓に悪いからやめてくれ…」
「ご、ごめんなさい」
「また、いなくなったのかと…」
ああ、前に私が逃亡した時のことを思い出させてしまったのね。
「君は植物のこととなると私なんて二の次になってしまうのだね。」
「え…?そんなことは…」
ブルーが何より1番好き。
朝、起きるまで待ってたら昨夜のことを怒られそうで、逃げてきただけなんだけどなあ。
「頼むから、声をかけてからにしてくれないか。私も一緒に起きて行くから」
「ありがとう…ございます?」
どことなくムッとした表情をしていて、もしかしてこれはと期待してしまう。
「植物に妬いたのですか?」
「…」
プイッと顔を逸らせて、唇をキュッと結んだブルーが、とんでもなく…
「可愛い…」
「は?」
心外とばかりにブルーが目をカッと開いて私を見た。
「今なんと?」
「あ、失言でしたね。だって…ふふ…嬉しくって…ごめんなさい。」
「どの口がこんな年上を相手に、可愛いと?」
まだ怒っていることに笑いをこらえきれない。
大きな声ではしたなくも笑ってしまった私を咎めるように、ブルーは片手で私の両頬をグッとつかんだ。




