第7話
「こちらは私が作った茶葉でございます。ぐっすり眠れる葉を使いましたので…飲んで頂けませんか?その、初夜ということもあり大きな声を出してしまうかもしれません。恥ずかしいのです。」
声を聞かれたくないと言いたかったことを察してくれた男爵閣下は
「私にそんな趣味はないけど、可愛い娘が作ってくれたお茶は頂きたいね。」
と言ってシャーロットからカップを受け取ると口をつけてくれた。
「前と香りも味も違うね?たしか前回はカモミールに蜂蜜を入れたものだったかな。」
「その通りでございます。さすが男爵閣下ですわ。」
「閣下だなんて呼ばないで?もう婚約したんだから、お父様と呼んでくれないか?で、今回は何をブレンドしたのかな」
「眠っていても元気になれるものですわ」
「ん…?元気に?ああ、起きたら元気になっているということかな?疲労回復?」
「まあ、そんなところです。…お父様。」
「あ、いいね。慣れるまで頑張って」
私はずっと男爵閣下をお父様と呼びたかった。
父親のいない私は、父親という存在に強い憧れをもっていた。
幼い時だったけど、初めて会った時のことを鮮明に覚えている。
なんて素敵なお方なんだろうと思った。
格好良くて優しくて、なんでこの方が私のお父さまじゃないんだろうと。
オリバー卿がものすごく羨ましかった。
私のお父様になってほしかった。
「あ…もうすでに瞼が重くなってきたよ…すごいね、私の娘が作ったお茶は…」
「お褒めの言葉をありがとうございます。倒れてはいけませんので、寝台へどうぞ」
「ははは、悪いね。心配してもらって」
お父様は嬉しそうに微笑んだあと、寝台へ足を動かした。
横になったのをしっかり見届けると私たちは一度部屋を出た。
「さあ、布を取りに戻りましょう。」
不安なのか卿は、一言も話さなかった。
失敗するのが怖いのかしら?
それともお父様を騙すことや私を利用することへの罪悪感でつらいのかしら。
胸を痛める必要はないのに。
こっちだって利用するのだから。
あらかじめ用意していた、お父様を拘束するための布をもつと、もう一度寝室へ向かった。
静かにドアを開けると、そこには気持ちよさそうに寝息をたてているお父様の姿があった。
寝ていても素敵だなんてずるい人だわ。
シャーロットが見張りをしてる間に手早く私と卿はお父様の手をベッドの両脇にあるサイドレールに縛りつけた。
「よし、これで大丈夫ね。追ってこられないわ。今のうちに逃げてください。あとで起こした後にお父様を説得しますから。」
「…本当に、いいの?」
もう、しつこい人ね。
優柔不断なんだから。
「安心して行ってきてください。子を孕みましたら手紙で報告します。領地で待っていてください」
私は仕方なく最後まで背を押してあげた。
卿は私を抱きしめると礼を言ってお父様の部屋を出た。
これで邪魔者はいなくなったわね。