第6話
男爵家で婚約パーティーを終えて、オリバー卿と2人で教会へ行って婚約の書面を提出した。
これで正式に婚約者になったわ。
晴れて同居生活がスタートする。
屋敷に戻ったあと、私と卿は私の部屋で作戦会議をした。
部屋の外にはシャーロットが立っていて、男爵家のメイドたちにバレないように見張ってくれている。
「ララ、無事に馬車が到着したよ」
卿は深刻そうに眉間に皺を寄せて、私…ララにそう言った。
「では愛の逃避行を決行致しましょう。その前に男爵様のお部屋に寄りましょうね。これを使って眠らせたあと、手を縛りましょう。」
「ねぇ…本当にいいの?」
深刻そうな瞳から心配の色が濃くなってきた。
「オリバー卿。どうかお幸せになってくださいませ。今夜しかチャンスはありません。お医者さんも、今日なら大丈夫と言っていました。私たちには絶対成し遂げられます。」
月に1日や2日、女性にはほんの少し体温が上昇する日がある。それに合わせて婚約式の日程を調整した。
「だけど、これでは君だけが犠牲になってしまう気がして…」
「何をおっしゃっているんです。私は貴族になって、子を産めば夢を叶えられるんです。幸せになることは間違いありません。ですから、迷う前に行きましょう」
私はオリバー卿の手を取るとグッと引っ張った。
顔だけではなく心まで女性のようなんだから。
私がしっかり導いてあげなくては。
ドアを開けてシャーロットを見てニコッと笑うと、彼女は真顔で頷いた。
彼女の手にはトレーがあり、温かいポットとティーカップがのせられていた。
ばっちりね。
無言のまま三人でオリバー卿のお父様である、男爵の寝室へ向かった。
軽くノックをすると、はい、とバリトンボイスが返ってきた。
はあ。なんて素敵な声なの。
「男爵閣下、ララでございます。入ってもよろしいでしょうか」
はやる気持ちを抑えて、努めて冷静にそう聞いた。
バタバタと慌てて駆けてくる足音が聞こえると、すぐにドアが開いた。
「どうしてこんな夜に私の寝室へ…?ああ、リビーも一緒だったんだね。君は…シャーロットと言ったかな?どうぞ」
男爵閣下は卿を愛称で呼んだあと、わたしたちを招き入れてくれた。
私のメイドの名前まで覚えてるんだからさすがだわ。
「それで、どうしたの?」
3人でテーブルを囲んで座り、シャーロットはトレーを持ったまま私の隣に立った。
「まさか、初夜の相談にきたんじゃあるまいね?まだ婚約したばかりなんだから、焦らなくてもいいんだよ」
クスクス笑いながら男爵閣下は冗談を言った。
まあ、冗談ではなく正解なんだけどね…