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「おめでとう御座います。ご懐妊されていますよ」
お母様は街医者を家に呼んでくれた。
酷い吐き気で立っていられず、病院まで足を運べなかったから、結構な額を払って家で診てもらった。
「えっ妊娠したんですか?わたしが…?」
一瞬、吐き気を忘れるくらい驚いて、横になりながらそう聞いた。
どうして?あの時はあんなに妊娠したくても出来なかったのに、今になって…?
「はい。まだ初期段階ですので、安定するまでは無理をなさらないでくださいね。」
お母様もシャーロットも顔を見合わせて驚いていた。
普通なら大喜びなところだけど、私たちには不安があった。
この子の存在がばれたら、男爵家に奪われてしまうかもしれない。
それだけ跡取り問題は大きいもの。
「このことは内密にしましょう」
医者が帰ってから、隠れていたお父様も出てきて4人で話し合った。
「私のときは娼館が上手く隠してくれたけど…今回は私が頑張るしかないわね。ララ、それでいい?もしも閣下と話し合いたいなら連れてくることも可能だけど」
「いえ。負担にはなりたくないので呼ばないでください。それに万が一、子だけを引き取ると言われても困ります。私は閣下の子を生みたい…男爵夫人になれなくていいから、生みたいんです。必ず立派に育ててみせますから…」
お母さまは諦めたように笑いながらため息をつくと頷いてくれた。
「結局あなたも私と同じ人生を辿るのね。いいわ。一緒に育ててあげる。あなたが私にとってかけがえのない宝物になったように、あなたも同じく子供から幸せをもらえる人生になるからね。」
お母様がそんな思いで私と生きていてくれたとは知らずに、涙が出てしまった。
「ありがとうございます…」
「愛する人との子供だからね、きっと可愛い子が生まれてくるわよ。そうと決まったら茶畑の作業は一旦中止にして、毎日安静にしないとね。無理をすると流れると言われてるからね。あなたは自分の子供を精一杯守りなさい。代わりに私があなたを守ってあげるから」
お母様がそう言うとシャーロットが私の手を掴んできた。
シャーロットは言葉を出せないほどに、私以上に涙を流していた。
その訳を話してくれたのは夜になってからだった。
「シャーロット、ごめんなさいね。せっかく手伝ってくれたのに茶畑を中断することになって。あなたには迷惑をかけっぱなしね」
「とんでもございません。新しい生命の誕生に楽しみしかありません。お嬢様ありがとうございます。」
「…ねぇ、どうしてそんなに優しいの?シャーロットは別にお金が必要ではないでしょう?もうたくさん貯まっただろうに、どうして私を見捨てずに側にいてくれるの?」




