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「ララは、私のことも閣下のことも愛していません。ただ男爵夫人となって跡取りをつくることを目的に励んでくれたんです。それも、私に幸せになってほしいと言って、自分の純潔を犠牲にしました。あまりにも不憫です。もう解放してあげたいと思います。」
解放…?
私はこめかみに当てていた手を下ろして、スッとリビーを見据えた。
「どうか、ララを叱らないでやってください。嫌いにならないでください。婚約破棄のお金を払います。私はこれから精一杯男爵としての務めを果たすので、どうかララのことを…」
「ララは、私を愛している」
私の言葉に、リビーと騎士は目を丸くした。
「怒ってなどいない。リビーにどんな説明をしたのかはわからないが、ララは私を愛しているし、私もララを深く愛している。だから婚約破棄はさせるが、その後私はララと結婚する」
「か…閣下!何をおっしゃっているんですか!ララと閣下の間に愛はありません!演技です!まやかしです!子を孕めなかったんです!だから帰しました!万が一子作りが失敗した暁には彼女を帰して、茶葉屋を開けるお金を渡して平民と結婚できるように私が責任を…」
「今なんて言った?」
私の凄むような声にビクッと肩を震わした後、リビーは黙った。
「帰したと言ったか?」
尋常では無い殺気めいた空気を感じたのか、騎士が立ち上がって私とリビーの間に入った。
「閣下、落ち着いてください。悪いのは全て私です!オリバー卿を責めないでくだ…」
「君は黙ってなさい。リビー?ララを帰したと言ったか?どこへ?」
「…存じ上げません…」
「なに?」
「馬車を用意しただけで、ララがどこへ向かったかは知りません」
先ほどの耳打ちは、馬車を伝えるためだったとは!
「ふざけるな!こんな夜に女性1人で乗せたと!?襲われたりしたらどうするつもりだ!」
「きっ騎士も同乗して…」
「男性騎士か!?ララが泣いていたら欲情しない男などいないだろう!何を考えている!」
ついに騎士が私を落ち着かせるために腕に触れようとしたが、勢いよく振り払うとバトラーを呼んだ。
「まだ時間は経ってない!急ぐぞ!馬を用意してくれ!」
許さない。私から逃げるなんて。
ここまできたらララの気持ちはどうでもいい。
私を好きではなくても、好きでもどちらでもいい。
私がララと離れることができないくらいに、愛してしまった。
平民と結婚なんてさせてたまるか。
″苦痛だった乗馬″が役に立つ時がくるとは。
山賊や、野盗、または護衛騎士に襲われることなく無事にララを乗せた馬車が目的地へと向かっていることを祈り、無我夢中で私は馬を走らせた。
目的地がどこか検討もつけずに…
第二章 閣下目線 完




