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子カフェ  作者: 絶対完結させるマン
彼女のこと

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初出勤

 3日経って、私はお母さんに連れられて『チルカフェ』に来ていた。

 初めての"面接"というやつを受ける。店長さんは、怒鳴ったりしなさそうな雰囲気の人だったから、とりあえずそこは安心できた。


 面接といっても、話していたのはほとんどお母さんだった。私は質問に何回か頷いているだけでよかった。


 さっそく明日から、学校終わりに働くことになった。


 お店は賑わっていた。裏にいても子どものはしゃぎ声がよく聞こえてくる。お店に入る時にチラリと様子を見たけど、お客さんはみんな顔をゆるゆるにさせていて、子どもたちはキャハキャハ笑っている子が多かった。


 こんな明るい場所に私が混ざり込むなんて……想像してみただけでクラっときた。明らかに似合わない。


 「はるか、頑張ってね。お母さんもお父さんも、はるかに期待してるんだから」


 帰り道、お母さんにそう言われた。

 だから、向いてないことはわかっていても、私なりに頑張るしかないか……。

 と、覚悟を決めたはいいものの、やっぱり怖いものは怖い。


 翌日の放課後、一旦家に帰って荷物を置いてから、チルカフェに向かう。


 「今日のところは、ただいてくれるだけでいいから」

 店員さんにそう言われてホッとする。


 今日のところは、店に入ってすぐのところにあるメインフロアで、のんびり過ごすだけでいい。

 いきなりお客さんの相手をさせられるんじゃないかとビクビクしてたから、ありがたかった。


 メインフロアは、学校の教室くらいの広さだった。

 そこで十人くらいの子どもたちが、思い思いの遊びをして過ごしていた。そんな子どもたちの様子を、フロアの後ろの方にいる大人の店員さんが見張っている。


 見張りと言っても一人しかいないし、そこまで真剣に目を光らせている感じでもなかったから、気楽ではあったけど……。


 子どもたちは、友達と一緒に遊んでいる子が多かったけれど、一人で折り紙やお絵かきしている子もいる。大人しくて物静かなタイプの子も、いないことはないみたいだ。これには勇気づけられた。


 私たちのいる場所から少し離れたところに、小さなテーブルを挟んで二つの椅子が置かれている。それが何組もズラーっと並んでいた。カフェのテラス席に似ているかもしれない。

 それがお客さんの席だった。子どもを鑑賞するための席。


 平日の夕方。お客さんは結構いた。席の八割は埋まっていて、男女の割合は半々だった。カップルで来ている人たちもいた。

 30秒に一度くらいのペースで、可愛い、と聞こえてくる。


 子どもは幼稚園児くらいの子が多かった。大体の子が私よりも幼かった。


 それでも、私より一つか二つ上らしい女の子が一人いた。

 その子は慣れた様子で、時々お客さんたちに手を振っている。それを見たお客さんたちは、口々にやだー、とか可愛いー! と歓声を上げた。


 確かにその子の笑顔はすごく可愛かった。あんなに上手に笑える子を、私は見たことがなかった。


 すごい、まるで子役みたい。

 ああいう子が、ここで人気になっていくんだろうな。


 「ねえ見て見て、あの子めっちゃ可愛くない?」

 指をさされたので、体が固くなる。

 私の方を見て言ってるし、私で合ってるよね?


 話題にされていることが恥ずかしくて、とっさに俯いてしまう。


 「あっ、見えづらくなっちゃった。でも、さっき顔見た時、マジで可愛かったんだよ! ジュニアモデルみたいな顔してた!」


 目だけで声のする方を覗き見ると、女の人が二人、私を指さしながらはしゃいでいる。


 「えーマジで? そんなに? ちょっと顔見てなかったわ。そんなに可愛いなら気になるなー」


 お客さんが、顔を上げてくれないかな、と願っていることが伝わってきたから、おずおずと俯いていた顔を持ち上げてみる。


 「あーたしかに。めっちゃ可愛いじゃん!」

 「でしょ。あの子今まで見たことないけど、新しく入ってきた子なのかな」


 私に笑顔が向けられている。

 お客さんが私を見て、笑顔になってくれている。


 大人からあたたかい反応をもらったことが久しぶりすぎて、少しうるっときてしまう。


 その後も、私を見て「可愛い」とか「癒される」とか言ってくれる人が、何人も現れた。


 子カフェと聞いて、怖い場所なんじゃないか……とビクビクしていたけど、取り越し苦労だったみたいだ。

 ここには、私に酷いことを言う大人はいない。


 どんな子どもも「可愛い」と言って、受け入れてくれる人しか、ここには来ない。

 子カフェのお客さんは、あたたかい大人ばかり。


 子どもたちも、みんな楽しそう。お店全体が和やかな雰囲気で満たされている。

 大丈夫だ、きっとうまくやっていける。


 そう頼もしい気分になるけど、やっぱり恐怖もあった。

 ただ座っているだけでも、たくさんの人の視線が突き刺さる。私は人に見られるのに慣れていないし、元々怖がりな性格だから、この場から逃げ出したくなった。


 そわそわして落ち着かない——働いているうちに気にならなくなるのかな……。

 みんなよく平気だな。私よりも年下なのに……。


 私はダメだ。人から見られていると、今にも悪口を言われるんじゃないか、とヒヤヒヤしてしまう。長年の習慣だ。


 でも、子カフェには子ども好きの大人しか来ない。全ての子どもを可愛いと思ってくれる。私みたいな笑わない子どもも、可愛いと言ってくれた。

 ここに私の悪口を言うお客さんはいない。


 もしも私が気に入らなかったとしても、本人に聞こえるところで悪口を言うなんてこと、子どもならともかく大人はしないはず。

 だから大丈夫だ。


 まだまだ不安の方が大きかったけれど、私はこれからのことを少し楽しみに思い始めていた。

 お母さんとお父さんの期待に応えるためにも、子カフェを好きになれるといいな……。

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