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子カフェ  作者: 絶対完結させるマン
彼女のこと

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子カフェって?

 ある日のことだった。お父さんが急に、

 「はるか、ご馳走を食べに行こう」

 と言ってきた。


 外にご飯を食べに行くのは、この家に来て初めてのことだった。

 お店まで三人で手を繋いでいく。私を真ん中にして、薄暗くなった街を歩く。


 どうしたんだろ二人とも。さっきからずっと笑顔だし……。

 ちら、とお母さんを見上げると、ニコニコ顔で「なあに?」と訊かれた。


 急いで下を向いて「なんでもない」と言う。

 すごく良いことでもあったのかな? なんか今の二人は……。


 ちょっとこわいかもしれない。

 そんなふうに思ってしまい、何を考えてるんだ、と自分を叱る。


 今日の二人はこんなに優しいのに。こわいなんて思っちゃダメだ。




 お店に入ると、すぐに店員さんに畳の部屋に通された。


 「お座敷って言うんだよ」

 お父さんに教えられる。お座敷……なんだか高級そうな感じの言葉だ。


 やけにご機嫌な二人に対して感じていた居心地の悪さは、メニューを開いたころには消えていた。


 「なんでも好きなものを食べな」

 食べたいものが多すぎて、なかなか一つに決められない。

 ああ、私が大食いのチャンピオンだったらなあ。食べたいと思ったもの全部食べられるのに。


 私が迷っているのを見てお母さんが、

 「ふふ、はるかは食いしん坊ね」

 とくすくす笑った。


 そのセリフと笑い方が、いかにも優しいお母さんって感じで、嬉しくなった。


 家族みんなで外にご飯を食べに行く。

 『家族ができたらしたいこと』のうちの一つだったことが叶った……。


 何とかお子様ハンバーグセットに決めて、料理が来るまで待つ。

 待っている間、珍しく二人とたくさん話ができた。


 学校で縄跳び大会があったこと。

 休み時間にウサギ小屋によく行っていること。

 図工の時間で先生に絵を褒められたこと。


 どんな話も、お父さんとお母さんは、うんうんすごいね、良かったね、とニコニコ頷いていた。


 私の話を楽しいと思ってくれている! 私は何も食べないうちから、もうお腹いっぱいになった気がした。


 ご飯中も楽しい時間は続いた。二人はずっと笑顔だった。


 でも、私がご飯をお箸ですくう時なんかに、ちょっと下を向いてそれからまた顔を上げた瞬間に、ふと真顔になった二人が目に入ってきた。


 それは本当に一瞬だけのことで、すぐに二人はまた元の笑顔に戻る。だから私も気のせいだと思って、それからはそんなことは忘れてしまった。


 ご飯を食べ終わって、デザートも頼んでもいいのかな、いやそれはちょっとわがままかもしれない……なんて悩んでいると、お母さんが「実はね」と言ってきた。


 「はるかにお願いしたいことがあるの」


 そう言って、カバンからパンフレットを取り出して、テーブルの上に置いた。


 表紙を見ると『チルカフェ』とカラフルな文字で大きく書かれていた。

 その下に、かわいい子どもたちに癒されよう! という文句と一緒に、笑顔の子どもを抱っこする笑顔の大人が描かれていた。


 「これって……」

 ニュースで見たことがある。子カフェがここ数年でポツポツと店舗を増やしていると。

 ニュース番組に出ていた学者さんによれば、これからもっと子カフェは増えていくだろう、ということだった。


 子カフェには、4歳から12歳までの子どもがいて、大人と遊ぶことでお給料をもらえる。


 遊ぶだけでお金がもらえるなんて、なんて楽な仕事なんだろう。あーあぼくも子カフェで働きたいなあ。


 施設の子たちが、何人かそんなふうに言っていたのを、聞いたことがある。

 誰とでも仲良くなれる人見知りしない子なら、子カフェで働くのは最高なのかもしれない。私は絶対にムリだけど……。


 なんで子カフェのパンフレットなんか持ってきたんだろう。

 もしかして……。


 「はるかには、ここに通ってほしいの」

 「何も難しいことはない。はるかはただそのお店で、好きなことをして過ごしていていいんだ」


 お父さんが歯を見せて笑いかけた。


 部屋の空気が変わり始めたのをヒリヒリと感じる。

 私の答え次第で、二人の機嫌が良くなるか、悪くなるか決まる。

 絶対に間違っちゃいけない。正解から外れないように——。


 「はるかにしかできないことなの。私たちのお願い、聞いてくれるよね?」

 「うん」


 二人は大喜びしてくれた。私の答えは大正解だったんだと嬉しくなる。


 「でも私、すぐにクビにされちゃうかも……かわいくないし、子どもっぽくないし……暗いしつまんない子だし……」


 あまり期待しないで、とあらかじめ言っておく。

 私が子カフェで上手くやっていけるとは、とても思えない。

 きっとあそこでは、笑顔ではしゃぎ回れるような子どもが好かれる。私みたいな可愛げのない子どもがお客さんに好かれるわけない。


 じわ……と涙が滲んでくる。たくさんの大人に「愛想のない子だなあ」と言われる自分を想像してしまって辛くなった。


 「大丈夫よ、はるかはとっても可愛いから」

 「きっとすぐに人気になれるって。心配するな」


 お父さんとお母さんが、口々に慰めてくれる。

 二人が期待してくれるなら、苦手なことも頑張ってみようかなと思えた。


 でも、どうして二人は子カフェに行ってほしい、なんて言い出したんだろう?


 「ねえ、なんで私に子カフェで働いてほしいの?」

 「そうだな……色々理由はあるけど——」


 そこでお母さんが、ここは私にまかせて、というふうにお父さんに目くばせしたあと、私の手を握ってきて目を合わせる。


 「まずね、子カフェに行ってたくさんの大人と遊べば、はるかの引っ込み思案な性格が直るかな、って思ったの。それと、お母さんとお父さんはお仕事が忙しくて、なかなかはるかに構ってやれないでしょ? でも子カフェに行けば、たくさんの大人に遊んでもらえて、はるかが寂しい思いをしないかな、って思ったのよ。同じように働いている子たちと、お友達になれるかもしれないしね」


 お母さんはゆっくりと、いくつかの理由を私に言い聞かせた。


 「はるかを一人でお留守番させるのも心配だからね。でも放課後は子カフェにいれば安全でしょ? たくさんのお客さんがそばについているから安心だわ。大丈夫! 子ども好きに悪い人はいないから」


 私のため——そっか。二人は私のことを考えて、子カフェに行くように言っているんだ。


 学校で校長先生が、子どもを子カフェで働かせる親をめちゃくちゃ貶していたから不安だったけど——。

 良かった。うちの親は違った。純粋に子どものためを思って子カフェに行かせるんだから、自分勝手な親たちとは違う。


 こんなに立派な理由なら、校長先生だってうちの親を褒めてくれるだろう。


 それに、"働く"っていう経験は、大人になって社会に出た時に、きっと役に立ってくれるはず。

 いつだったか、子カフェに関するニュースをテレビで見た時に、アナウンサーがそう言っていた。


 私みたいな子どもが子カフェでやっていけるのかな、怖いお客さんがいたらどうしよう、店長さんに怒鳴られたら……。

 不安は数え切れないほどあった。でも、お父さんとお母さんが、今まで見たこともない喜びようを見せてくれたから、私は幸せな気分になった。


 頬ずりされたのなんて初めてだった。頭もたくさん撫でてもらえた。二人に優しく触られたところがあったかくて、心が軽くなって、今なら空だって飛べちゃう気がした。


 帰り道でも二人は優しかった。行きと同じように、私を真ん中にして三人で手を繋いで帰った。


 その日は布団にもぐってからも、なかなか寝付けなかった。明日がこんなに楽しみだったことは生まれて初めてだった。


 でも、朝になると二人はいつも通りに戻っていた。

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