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子カフェ  作者: 絶対完結させるマン
彼女のこと

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愛されてない?

 私が宇佐家の一員になって、あっという間に1ヶ月が過ぎ、2ヶ月が過ぎ——私は2年生に進級した。


 お父さんとお母さんのいる生活さえ手に入れば、学校でも上手くやっていけるはず。

 そう思っていたのに、私は相変わらず学校の子たちと話せなかった。


 クラスメイトと私は、何かが大きく違っていた。親のいる子といない子では見えている世界が違っていた。


 私は、お父さんとお母さんのいる家を手に入れた。なら、私とあの子たちの間に違いなんてもうないはず。


 あの地獄を出て、幸せな家庭に入ったはずなのに。

 幸せになったはずなのに、私は何も変わっていない。施設にいた時のまんま。


 おかしいな、と感じていた。

 正直、この家に来た日から今日まで、一度も幸せを感じたことがない。

 ずっと願っていた"家庭"での生活なんだから、一分一秒ごとに、幸せだなあ、と感動しても変ではないと思うんだけど。


 お父さんとお母さんはどんなお仕事をしているの? と訊いたら、そっけなく「自営業」とだけ返ってきた。会社員ではない人のことをそう呼ぶらしかった。


 二人で同じ仕事をしていて、パソコンを使って何かやっているみたいだった。それ以上のことは、子どもにわかるように説明するのが難しいからと、教えてもらえなかった。


 二人は、朝私が学校に行った後、すぐに仕事場に向かう。そして、夕飯時になると二人一緒に帰ってくる。


 夕飯は、スーパーのお惣菜とか冷凍のおかずとかが多かった。冷凍のおかずは、月に何回か宅配便の人が渡してくれる。


 週に2回くらいは、お母さんかお父さんがご飯を作ってくれた。

 玉子焼き、うどん、チャーハンなどが多かった。私は玉子焼きが好きだから、玉子焼きが出てきた日は嬉しかった。


 お父さんとお母さんの作ってくれる玉子焼きは甘くもしょっぱくもなく、卵本来の味が強かった。

 施設の玉子焼きは甘すぎたから、私は二人が作ってくれるものの方が気に入っている。でももっと言えば、学校の給食の玉子焼きが一番美味しいと思っている。内緒にしてるけど。


 夕飯を食べた後は、二人はもう寝室に行ってしまう。

 困ったこと以外では、あんまり呼び出さないように、と言われているから、私は二人が寝室に入るのを見ると、シュンとしてしまう。


 私は夕飯を食べ終わった後、今日学校であったことなんかを、一生懸命お父さんとお母さんに聞かせようとする。できるだけ一緒にいられる時間を延ばせるように。

 でも、油断すると「そうなんだ。じゃあ明日も学校頑張ってね」と切り上げられてしまう。


 私と会話をしたいと思っていないんだ。

 お父さんとお母さんは、子どもが欲しいから私を引き取ってくれたんじゃないの?


 それとも、親戚に親を亡くして施設で暮らしている子どもがいると知って、可哀想に思ったから世話をしてあげようと思ったんだろうか。

 子どもは全然好きじゃないけど、放っておくのも可哀想だと思ったのかも?


 ある日私は、二人に聞いてみた。

 「なんで私を連れてきたの?」と。


 「はるかを娘にしたいと思ったからよ」

 「はるかを知った時から、はるかがうちの子になってくれたらどんなに良いだろう、ってお母さんと話してたんだ」


 と答えてくれた。

 お父さんとお母さんは、私を愛しているんだ。

 幸せすぎて死んでしまうかと思った。二人を冷たい人たちなんじゃないか、と疑っていた自分が恥ずかしかった。


 「はるかみたいな可愛い子が娘になってくれて、本当に嬉しいよ」

 「そうよ。はるかがいてくれないと、私たちはダメなの。これからずっとよろしくね」

 「うん! お父さんお母さん、大好き!」


 二人が目を見合わせて、満足そうに頷く。


 「じゃあ、お父さんとお母さんはもう寝るから」

 「えっ、もう?」


 まだ夜の8時だった。いそいそと寝室に引き上げようとする二人を、じっと見上げる。


 「今日はお仕事で疲れちゃったから。いつもより早めに寝るの」

 「でも……」


 まだ話していたかった。お父さんとお母さんが、私を愛してくれていると知ったからには、もっともっと"家族らしい楽しい会話"みたいなものをしてみたかった。

 団らんというものに、私はずっと憧れていたから。


 もっと家族らしくしたかった。

 私のイメージする"家族"とは、休みの日に遊園地やキャンプに行ったり、夕飯の後には一緒にテレビを見たり、ということをするものだった。

 クラスの子たちの話を聞くと、そういうエピソードが当たり前に出てくる。


 ママとパパが、どこそこに連れてってくれた、みたいな話題は子どもの定番だった。

 別に遊びに連れていってほしいわけじゃない。

 私にとっては、親に連れていってもらったということが大切で、そこが遊園地だろうが近所の公園だろうが同じように嬉しい。


 他にも『家族ができたらしたいこと』はたくさんあった。今のところ、一つもできていないけど。


 お父さんとお母さんは仕事が大変で、私とゆっくり話したりする余裕がないんだ。土日も大抵仕事に行っているし、私を育てるためにもたくさん頑張っているんだ。

 そう考えると、わがままを言うわけにはいかない、という気持ちになる。


 「あのね、はるか」

 お母さんが眉を下げて、苦しそうな表情をする。


 「はるかと一緒にいたいのは山々なの。でもはるかを立派な大人に育てるためにも、お仕事を一生懸命頑張らないといけない。私たちは毎日くたくたになるまで頑張っているの。全部はるかのためにね。だからはるかも頑張っていい子にしててね」

 「うん……でも今日はもうちょっと——」

 「お父さんとお母さんの気持ち、はるかにもわかってもらえると嬉しいんだけど。ねえ、お父さん」

 「うん。はるかも俺たちと同じように、頑張ってくれるといいな。お父さんとお母さん、頑張り屋さんは大好きだから」


 頑張る子が好き。そう言われてしまっては頑張るしかない。

 できる限り好かれたいから。親に喜んでほしいから。


 「わかった。お父さんお母さん、いつも私のためにありがとう! 私も学校頑張るから……二人もお仕事頑張ってね!」

 「ありがとう、はるか」


 じゃあおやすみ、と言い終わった時には、お母さんの体はもう寝室に半分入っていた。


 私も自分の部屋のベッドに入る。

 いつもは9時に寝るんだけど、起きていたって何か面白いことが起こるわけでもないし……。


 お父さんとお母さんは私のことが"ちゃんと"好き……。

 お父さんとお母さんは、私のために頑張っている。私のために……。


 二人は私のために、毎日頑張っている。


 何度も何度も、心の中で復習する。

 忘れないように。寂しくならないように。


 二人が頑張っている。だから私も頑張らなきゃダメだ。

 みんなで頑張る。それが家族だから。


 家族——そうだ家族だ。家族なんだから、いつでも心は通じ合ってるはず。

 何も心配いらない。


 大丈夫、私は頑張り屋さんだから。頑張っていれば、お父さんとお母さんも私をもっと好きになってくれる。

 頑張ろう、二人にもっと好きになってもらえるように。

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