友達認定
私は、例の漫画が置いてある女子高生の部屋に、須美ちゃんと一緒に忍び込むことにした。
部屋に入るところを誰にも見られないように注意して、私と須美ちゃんは漫画を読んだ。
その漫画は全部で12巻あって、女子高生の恋愛を描いたものだった。
その漫画は、1巻に必ず一回はキスシーンがあった。
ヒロインと彼氏の間には、色んなトラブルが起きた。
彼氏の前に元カノが現れて、それがきっかけで別れそうになったり。
ヒロインを虐める女子が立てた作戦に彼氏が嵌ってしまい、別れそうになったり。
彼氏が外国に引っ越すことになり、それを知ったヒロインが「私たち別れた方がいいと思うの」と言って、喧嘩になって別れそうになったり。
色々あったけど、最後には二人は結ばれてめでたしめでたし——というストーリーだった。
多分感動的な話だったと思う。
でも、書いた人には申し訳ないけど、内容は全然印象に残らなかった。
漫画の中で、ヒロインと彼氏は度々裸になって絡み合っていた。喧嘩の後やトラブルが解決した後、二人が仲直りをすると、必ずと言っていいほどそのシーンが挟まれるのだ。
全裸になった体中に汗をかいて、色んな体勢で抱きしめ合って、汗だくでキスをしていた。
そのキスも、何だか普通のとは違っているように思えた。
私のイメージしていたキスというのは、ちょんっと1秒か2秒軽く触れ合うものだった。すっごく大好きだよ、という気持ちを伝える挨拶みたいなものと想像していた。
漫画の中のキスは長かった。何より口を開けてしていたのに驚いた。
物語の中の二人は、よだれを交換し合うようにキスをしていた。
ちょっと離れたかと思うと、また唇を合わせる。その度によだれが糸を引いて、ツヤツヤした舌が見え隠れした。
それを見てると、背筋がゾクゾクしてきたけれど、嫌な感じはしなかった。
恋人たちが夢中でやっている何かが終わると、必ず二人の仲は深まるのだった。笑顔で愛を伝え合う様子に、恋愛なんてまったく興味のなかった私も、良いなあ、という気持ちになった。
そして、不思議に思った。
この二人がしていることが、いやらしいことに入るということくらいは、私にもわかった。
いやらしいことは、悪いものだと私はずっと思っていた。
でも違ったんだ。好きな人同士でするなら、それは素晴らしいものなんだ。この漫画に描いてあるように、幸せな気分になれる良いことなんだ。
だったら教えてくれればいいのに。
悪いもの、と言い聞かせられたから、てっきりエッチなことは全部駄目なんだと思っていた。
そうじゃないんだよ、とあらかじめ教えられていれば、須美ちゃんだって、自分は悪いことをしているんだ……と自分を責めずにすんだのに。
私は須美ちゃんは悪くないよ、と伝えた。
こういう漫画に興味を持っちゃうのも、みんなに隠れてやっていることについても。
先生から「そんな子だとは思わなかった」と言われるようなことなんかしてない、と力を込めて伝えた。
だからそんなに悩まないで、と励まして——少し迷ってから言った。
「私は須美ちゃんのこと好きだよ」
すごく照れ臭かった。誰かに好き、と伝えることがすごく怖かった。
私なんかに好かれて相手が迷惑しないかな、とか、嫌な反応が返ってくるかもしれない、などとマイナスな考えが浮かんできて、素直に誰かに好きと言えなかった。
だから、私はかなりの勇気を振り絞って、須美ちゃんに好きと伝えたんだ。
俯いていた顔を上げると、須美ちゃんは泣いていた。
私はとっさに、ああやっぱり——と後悔したけど、須美ちゃんに抱きしめられて、沈みかけていた気持ちが引き止められた。
そんな反応が返ってくるとは思っていなかったので、私は一瞬何が起こったのか掴めなかった。
私もっ! という須美ちゃんの声でハッとする。
「私もはるかちゃんのこと大好き!」
一気に幸せが押し寄せてくる。
人から大好きと言われたのは、生まれて初めてだった。
抱きしめられたこともそんなにない。
いきなりやってきた幸せに、気持ちが追いつかない。ただぼんやりと、大好き……大好き……今大好きって言われた……? とぐるぐる考えることしかできない。
少しでも須美ちゃんの気持ちを楽にしてあげたい、と願って私は好きだよ、と言った。
それだけで、こんなに大きなお返しがくるとは。
「ねえ、須美ちゃん。私を須美ちゃんの友達にしてくれない、かな。一生のお願いだから。それとも、やっぱり駄目、かな……」
全身にグッと力を入れて、視線をあっちこっちに飛ばす。怖くて須美ちゃんの顔を見れなかった。
「ええっ!? 何言ってんの、もう友達じゃん!」
信じられない、という顔に、全身の毛穴が一気に開いた気がした。
人生初の友達に、私の心は浮き足立った。
その日はいつまでも眠れなかった。隣の須美ちゃんの寝顔を見て、私たち友達同士なんだあ……と感動に浸っていた。
須美ちゃんを一生大事にしよう、と思った。
この幸せがずっと続きますようにと、神様に祈っているうちに、いつの間にか朝が来ていた。




