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子カフェ  作者: 完結保証
始まりの事件
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10年前

 またおばあちゃんの日記を読んでしまった。


 何度も同じところを繰り返し読んでいる。もう何回も見返して、紙に手垢が染み付いているというのに、それでも毎回涙が溢れ出てしまう。


 ごめんなさい、と一人ぼっちになった部屋でまた謝る。


 ごめんなさい。ごめんなさい、おばあちゃん……。あんなに可愛がってくれたのに、恩返しできなくてごめん。


 誰よりも私を大切にしてくれた祖母が世を去ったのは、半年前だ。


 私のまだ目立たないお腹をさすって、「楽しみだねぇ」とニコニコ笑っていた。


 不妊治療の末にようやく孕んだ待望の我が子。無事に生まれてきた暁には、一番におばあちゃんに抱っこさせてあげよう、と思っていたのに——。


 不幸は立て続けにやってきた。

 最初の不幸は、おばあちゃんの死だった。


 祖母はそろそろ90歳を迎える頃になっていたが、頭も体もしっかりしていた。心臓麻痺で死ぬなんて、想像すらしていなかった。


 予想はしていなかったけれど、歳も歳なのでお別れの覚悟はできていた。だからひ孫の顔を見せてやれずに残念だ、と嘆いたものの、そこまでのショックはなかった。


 ここで不幸が終わっていれば……。

 第二の不幸は、それから3日の間も待たずにやってきた。


 (はるか)が死んだ。突然下腹に激痛が襲ってきて、うずくまった時、股からドロリと何かが出てきた。


 死を告げる医者が、死神に見えた。

 もうすぐ旦那さんが来るでしょうから——と慰めるように言った医者の携帯が、その直後にけたたましく鳴った。


 胸ポケットに入れている仕事用の携帯を、医者は慣れた様子で取り出し、応答した。


 その顔が見る見る青ざめていく。私を見つめる眼差しに、不吉な予感がした。

 最後の不幸は、夫の死亡だった。


 大好きだった祖母が死んで3日も経たずに、私は最愛の我が子と夫をほぼ同時に失ったのだ。


 夫の死因は交通事故だった。病院からの連絡を受けて、慌てて会社を飛び出した彼は、自動車に跳ねられた。即死だったそうだ。


 私が何をしたのだろう。ここまでの苦しみを課せられるほどの罪を私は犯したのだろうか。

 神様なんていないのだ——。


 遥を授かった時に、神に感謝したことを思い出す。

 なんて馬鹿らしい。


 寂しくなったお腹を撫でる。

 遥は確かにここにいたんだ。

 苦しい不妊治療の末に、ようやく私の身体に宿ってくれた命。


 私は40歳。とてもじゃないが、ここから子どもはもう望めない。

 そもそも夫と血の繋がった子どもにしか興味はない。夫がいない以上、子どもを持つことに何の意味もないのだ。


 おばあちゃん、ごめんね。おばあちゃんの願い、叶えてあげられなくて。


 私はもう子どもを産めない。

 ずっと欲しかったのに。子どもができれば幸せになれると信じていたからこそ、苦しい不妊治療も頑張れた。


 これから何に縋って生きていけばいいのだろう。


 1人には広すぎる家の中で、頭を抱えて呻く。

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