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子カフェ  作者: 絶対完結させるマン
子カフェの店長

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10/123

苛立ちの理由

 ***


 「そうか……歩を辞めさせたいか」

 「はい……だってあれじゃあ、仕事になりませんよ。この前なんてお客さんの前で泣き出したんです」


 宮内はその場にいた。

 歩が客に対して気のない返事を繰り返すのを見て、ハラハラしていたので観察していたら、前触れなく歩がポロポロと涙を流し始めた。

 客はギョッとして、近くにいた宮内に助けを求めるような目を向けた。


 宮内はすぐに飛んでいって、

 「大変申し訳ございません。目にゴミが入ってしまったみたいです。少々お待ちください」

 と客に告げ、歩の手を引いて店の裏へ回った。


 「駄目じゃないの。お客さん困らせちゃ」

 そう言って叱ると、歩は素直にコクンと頷いた。「ごめんなさい……」とまた泣きそうな気配を見せたので、次から気をつけてくれればいい、と笑顔を作って安心させた。


 戻ってきた歩はお客さんに、「心配かけちゃってごめんなさい」と謝った後で、へにゃっと笑ってみせたので、もう大丈夫だ、と宮内は胸を撫で下ろし、仕事に戻った。

 しかし、大丈夫ではなかったのだ。


 ——話の途中で急に、『お母さん……』なんてつぶやいて、それきり下を向いて黙りなんだから、困っちゃったよ。


 帰り際に不愉快そうな顔をした客からそう言われて、宮内は青くなった。

 申し訳ございません、と頭を下げたが、客の怒りは収まらず、宮内のつむじに向かって苦情を言い続けた。


 ——ああいう子は雇わないようにしてるんじゃないの? 仕事中に親が恋しくなってるようじゃ、勤まらないでしょ。もうこの店には来ないから。あーあ、お金無駄にした。


 最後にこれ見よがしにため息をついて、その客は去っていった。


 「それを見てたユカが『せっかく来てくれたのに、お客さんガッカリしてたよ。歩ちゃんのせいだね』って言って、また歩が泣いちゃったんです」

 ユカというのは、歩の後に入った同じ7歳の女の子だ。歩の固定客を図らずとも横取りする形になった子である。


 「その言葉が結構効いたらしくて、長いことメソメソしていました。だから私、今日はもう帰って、って言ったんです。どのみち仕事にはならなそうでしたし」

 「それで帰ったのか、歩は」

 「はい。すんなり帰ってくれました。駄々こねたりしなかったので助かりました」

 「歩が帰る時、宮内は何か言ったりしたか?」

 「え? 特に何も——ああ、いや。明日までに気分整えてきてね、って言っときました」

 「……そうか」


 何なのだろう、この気持ちは。

 俺はにわかに苛立っていた。でも、自分が何に苛立っているのかわからない。


 「あ、そうだ。さっき歩が帰ってくれて助かったって言いましたけど……」

 「おお、何だ?」

 「歩の両親が気がかりではありますね。勝手に早退させてしまったので、文句言ってくるかもしれません。給料が減っちゃったじゃないですか! って」


 ダンッ!

 握り拳をテーブルに叩きつける。

 ジワジワと広がる痛みにハッとした。

 何をやってるんだ、俺は。


 「え、どうしたんですか急に」

 「……いや。ハエがいただけだ」


 俺はおかしい。

 宮内の言う通りだ。急にどうした。

 わからない。話を聞いていたら、ふいに苛立ちが最高潮に達して、あんなことをしてしまった。


 俺は一体、何にそこまで怒っているんだ?

 頭を抱えていると、フッとあいつの言葉が浮かんできた。


 ——あなたは悪魔の手先よ。

 そう言った愛理の手遅れな者を見るような眼差しが、こびりついて離れない。

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