20年前
ボケ防止のためにも、最近思ったことを書き留めておこうと思います。
私が生まれた頃と比べてみると、科学技術の飛躍的な進歩によって、昨今の生活は便利になり、治安はうんと良くなりました。めでたいことです。
しかしその一方で、子どもの数がめっきり減ったように思えます。街を歩いていても、子どもと遭遇することは少なくなりました。
昔よりも子どもが安心して出歩ける世の中になったはずなのに、昔よりも子どもを見ることが減っている、とはどういうことでしょう。
私は出生率を調べてみて、愕然としました。テレビで少子化だのと騒がれているのは知っていましたが、まさかこれほどまでとは思いませんでしたので。
時代は変わったのだ、と私は今さらになって実感できました。知識として知ってはいても、身に沁みてわかっているわけではなかったのです。
この国の人たちは、子どもを望まなくなっているようです。出産リスクも下がっているというのに。何故? という思いがまたもや胸中に湧き上がりました。
最も大きな理由としては、不景気が挙げられます。あとは、昔と比べて子育てのハードルが上がっている、というのもあります。
生活は楽にならない。むしろ苦しくなってきているのに、人間一人を育てるのにかかる費用は、例えば30年前と比べてみても、確実に高くなっています。
しかし、子どもを持たない理由はお金だけではありません。
加速が止まらない少子化に、本格的に危機感を抱き出した政府が、“子どもについてどう思うか“というアンケートに答えるだけで一万円が支給されるという内容のキャンペーンを、打ち出しました。
アンケートには、
『子どもが好きか嫌いか』
『子どもを持ちたいと思うか、または持って良かったと思うか』
『子どもを持ちたいと思わない、または持って良かったと思わない、と回答された方は、何故そのように思うのか』
といった質問が記してありました。
質問は全部で二十問ほどありましたが、全てを記していくとキリがないので、これから語ることと特に関係があるこの三つに絞りました。
アンケートの結果、最初の質問に「好き」と答えた人は、80パーセント。
次の質問に「思う」と答えた人は、20パーセントでした。
このことから、子どもは好きだけど自分で持ちたいとは思わない、と考えている人が相当数いることがわかります。
最後の質問——なぜ子どもを持ちたいと思わないのか。その理由の中には、
『自分の時間が減るから』
『大変だから。または大変そうだから』
『パートナーとの時間が減るから。また、子どもが出来ると、子供のことでパートナーと揉めそうだから』
『一度きりの人生、自分のためだけに生きたい』
——といったものが多かったそうです。
一度きりの人生、自分だけのために生きたい。
素晴らしいことだと思います。
私が若かった頃は、自分だけのために生きる、なんて生き方は歓迎されるものではありませんでしたから。
若い人が堂々とそういうことを宣言できるようになったのは、良い傾向だと思います。
社会の歯車ではない。誰もが自分らしい生き方を選択できる社会になった——。
もちろん時代が進んだとはいえ、同調圧力や古臭い確執がまったくなくなったわけではないので、そこまで断言することはできませんが、今の社会はだいぶ自由度が増しているのだと思います。
様々な生き方、様々な人生が認められるようになった結果、従来の『結婚して子どもを作る』という道を選択しない人が増えたことが、少子化の原因ではないかと私は感じます。
お金も時間も愛情も、何もかも自分だけに注ぐ。
そういう人生を望む人の方が、今は多いのでしょう。
私はいわゆる『お見合い』で結婚しました。
もはや立派な死語となった言葉です。歴史の教科書には書いてあるかもしれませんね。
歴史とまではいかなくとも、社会科の教科書に載っている可能性は高い気がします。
以前はこんな制度があったのだと。お見合いによる結婚が主流だったのだと記されているんじゃないかなぁと。
今度舞香に教科書を見せてもらおうかしら。
舞香。大切な私の孫娘。
あの子に会えただけでも、私が結婚したことには意味があります。
互いがいいな、と思って結ばれたというよりも、家同士の強い希望により、渋々……といった感じでした結婚は、やはりと言うべきか上手くいきませんでした。
私は愛情の全てを息子に集中させました。手塩にかけて育てた息子はやがて恋愛結婚し、玉のように可愛い女の子をもうけました。
それが舞香です。
息子のことはもちろん愛していましたが、私はずっと娘が欲しいと思っていたので、舞香を初めて抱っこした時は、思わず涙を流してしまいました。
この子のためなら、何だってできる。
誇張抜きでそう思ったものです。
私は愛されるよりも愛する方が、幸せだと思うのです。
自分の全てを捧げたい、と思えるほどの存在がいること。それがどれくらい幸福なのか、最近の人たちはわかっていないのです。私からすれば哀れですらあります。
『子どもは何よりも尊い存在で、子どもさえいれば人生は輝きを失わない』
この言葉を、私は事あるごとに舞香に言い聞かせました。
だから子どもは絶対に持ちなさい、というわけではなく、ただ舞香に子どもが私たちにもたらす恵みについて教えたかっただけなのです。
舞香は、
「おばあちゃん。私、絶対に良いお母さんになるよ」
と言ってくれました。
舞香にもこの幸せを感じてほしいと思っていた私は、当然喜びました。
ひ孫の顔を見るまでは死ねない。
私もいい歳になってきて、そろそろお迎えが来ることを考えるようになりましたが、とりあえず舞香の子どもを見るまで死ぬつもりはありません。
舞香が産む子は、きっと天使のように愛らしいに決まっています。
ひ孫の顔を想像すること。これが最近の私の唯一の楽しみです。
今日は疲れたので、ここまでにしておきます。
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