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有罪愛  作者: 臣 桜


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生きたい

「……俺はずっと性的な事を避けて生きてきた。自分が父親に性暴力を受けてきたからこそ、自分が誰かを抱くなんて考えもしなかった。男として誰かを抱くなんて、犯罪的で、とても攻撃的な事だと思っていた」


 彼の心に刻まれた深い傷を再度知った春佳は、湯の中で兄の手をそっと握った。


「だから、昨晩は本当に初体験だった。うまくできたか分からないけど、……それでも、できて良かった。……生まれて初めて好きな女性を抱けて、自分の中にある〝男〟をポジティブな意味で認められた気がしたんだ」


 冬夜は声を微かに震わせ、目を瞬かせる。


「今までモテる男として扱われていたけど、モテると思った事なんてなかった。女性からもてはやされ、男から妬まれたけど、この容姿も学歴も仕事も金も何もかも、ポジティブに捉えた事なんて一度もなかった。俺のスペックはすべて、自分の悪運に勝つために培ったものだ。それを求める女性に嫌気が差したし、男に嫉妬されるたび『それなら代わりにどうぞ』って、過去ごと全部渡したくなった」


 兄がモテていた事を喜んでいなかったと知り、春佳は頷く。


「……でも春佳となら、素直にそのままの自分を受け入れられる」


 冬夜は小さな水音を立てて春佳に向き直り、彼女を見つめた。


「俺に抱かれて嬉しかった?」


 尋ねられ、春佳は「うん」と頷いた。


 彼女の返事を聞き、冬夜は泣きそうな表情で笑う。


「俺も嬉しかった。これでもう後悔はない……、と思いたかったけど、こんな素晴らしい事を二度と味わえないのかと思ったら、勿体なくなった」


 言ってから、彼は照れくさそうに相好を崩した。


「私も、勿体ないって思った。……死ぬならいつでもできる。……私は、大好きな人と、お兄ちゃんと一緒に生きていきたい」


 自分の希望を口にする事は、なんと勇気のいる事だろう。


 それでも、今ほど本音を口にしなければいけない時はないと感じていた。


「……生きたい。……好きな人と愛し合って、生きていきたいの」


 感情が高ぶり、涙が頬を伝っていく。


 それを薄明の光が照らし、彼女の白い面をうっすらとしたオレンジ色に染める。


「私、望まれて生まれた子じゃないと知って、ショックだった。お父さんが私をまったく愛していなかった事も悲しかった。……両親のどちらも、私を求めてくれてはいなかった」


 悲しい事実を口にすると、それを認めたような気持ちになり、泣けてしまう。


「……でも、お兄ちゃんだけはずっと、私を必要としてくれていた。……だから私は、あなたを幸せにするために生きていきたい……っ」


 春佳の訴えを聞き、冬夜も涙を流して頷いた。


「一緒に生きよう」


 微笑んだ彼は春佳の頬に唇を寄せ、ちゅっと涙の雫を吸う。


 そして妹の手を握り、一糸まとわぬ姿をした愛しい女性に語りかける。


「これからずっと、俺がお前を愛していく。足りなかったすべての愛を俺が与える」


 誓いを立てる彼の言葉を聞き、春佳はポロポロと新たな涙を流す。


「世界は俺たちを見捨てたかもしれない。……でも俺たちなら幸せになれる。……なるんだ。……俺は、春佳を一生愛して、生まれてくる子供に愛情を注ぎ、幸せな家庭を築く」


 冬夜の頬を伝った涙が顎先に至り、浴槽のお湯に滴った。


「結婚してくれ。……俺と、生きよう」


 涙を流しながらプロポーズされ、春佳はクシャリと泣き笑いの表情に顔を歪ませ、――冬夜に抱きついた。


「生きる! ……っ()と、生きていく……っ!」


 春佳は勇気を出して彼の名前を呼び、ギュッと腕に力を込めた。


 壮大な朝焼けが広がるなか、空と海に抱かれた二人はまっさらな心をぶつけ合う。


 茨の道を裸足で歩み続け、血だらけになって辿り着いた真実は、想像つかないほどの絶望に満ちていた。


 すべてが嘘だったし、常人なら考えつかない歪んだ想いの上に自分たちの人生は成り立っていた。


 だが〝普通〟と違っていても、両親にはそれぞれの愛の形があったし、自分たちもまた〝普通〟とは違う人生を歩み、〝普通〟ではない夫婦となる。


 樹と春佳は世間的に問題のない夫婦だが、彼らの心の底には兄妹としての意識がしっかりと根付いている。


 ――けど、それでもいい。


 ――私たちには、私たちの愛がある。


 ――その過程にどれだけの罪が横たわっていたとしても、私たちの愛はこれでいい。

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