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有罪愛  作者: 臣 桜


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殉教者

 子供はいつか親の手から離れる。


 それを見届けたらもういいだろう、と感じていた。


 春佳もいずれ自立するだろうし、涼子は私の遺産や障碍年金で生きていける。


 死ぬ時は妻に『私よりいい男を見つけて再婚してほしい』と遺書で伝えるつもりだ。


 あまりに身勝手な父親、夫だという自覚はある。


 でも私はこう生きる以外、どう生きればいいか分からなかった。


 生き方のマニュアルなどないし、どんな選択をすれば両親や家族、世間の人の期待に応えられるのか、欠陥品の私には分からなかった。


 だから私は、自分を認めてくれた優那に縋り続けたのだ。


 けれどもう、囚人服のようにも思えるグレーのスウェットを着るのにも疲れてしまった。


 優那の意志を継ぎ、彼女が最期に着ていた服で子育てをしようと思ったが、色のない服を着続けているうちに、自分の人生もグレー一色だと、心が萎びていった気がする。


 興味を持つのは冬夜と子育てだけ。


 たまに普通の家族のふりをして外出をした時、遊園地やファミリーレストランで喜ぶ子供たちを見て嬉しくなった気持ちは、まやかしだったに違いない。


 私は最後まで〝親〟にはなれなかったのだ。






 十八歳になった冬夜が家を出る時、私に保証人になられるのを嫌がった彼は、祖父母に事情をすべて話した。


 両親に呼ばれた私は、凪いだ気持ちで実家に向かい、父の激しい怒りと母の嘆きをぶつけられた。


 すみません。ろくな息子になれなくてすみません。


 私だってどこから間違えたのか分からないんだ。


 少年期に感じていた不安を打ち明けたとして、あなた達は親身になって聞き入れてくれただろうか。


 あなたは自分や父のように優秀な成績を収める事のできない私を、いつも諦めた目で見ていた。


 言葉で責めなくても、子供は親の失望を敏感に受け止めるものだ。


 そして見放されるのが怖いから、自分からは決してネガティブな話題をできない。


 本当は他の子のように、勉強で分からなかったところを父さんに聞きたかった。


 父さんが趣味にしている、釣りの良さを教えてもらいたかった。


 母さんがなぜ、『疲れた』と言っているのに庭の手入れをし続けているのか、教えてほしかった。


 そこにある魅力、良さを子供である私にも共有してほしかった。


 ……でももう、何もかもが手遅れだ。


 不出来な私は自分なりに生き方を模索し、相談できる相手を持たず、周囲を欺きながら破滅の道を歩んでしまった。


 もう、怖れも怯えも何もない。


 あと数年、冬夜が二十四歳になって四月を迎えたら、私は優那のもとへ行く。


 心にあるのは『死んで楽になれる』という安らぎだけだ。


 身に纏っているグレーのスウェットは、殉教者のように白く染まってくれるだろうか。


 いつからか〝その日〟を待ちわびるようになった私は、朝早くに起きて、ベランダから朝陽が昇る様子を見る事を日課にした。


 あとどれぐらい日が昇って落ちたら、この歩みを止めても許されるだろうか。


 妻と子供を遺して死ぬ私を、世間の人は快く思わないだろう。


 私が冬夜にした事、涼子を妻として扱わなかった事、春佳に興味を持たなかった事、そもそも冬夜を優那のもとから連れ去った事を知られれば、私は大罪人となる。


 けれど数多(あまた)の未知と謎が隠されたこの世界で、一組の夫婦が抱えた秘密が人知れず葬り去られたとしても誰も構う者はいないだろう。


 死後の責め苦ならどれだけでも受けるから、妻と子供たちには穏やかに生きてほしい。


 彼らが普通に暮らせるのなら、私は何も弁明せず、黙って死んでもいい。


 そして願わくば、最期は愛する人にバトンを渡したい。


 優那が遺体となった姿で私に想いを託したように、私も冬夜の前で死を選び、想いを託したい。


『……迷惑だと言われるんだろうなぁ……』


 私は父に殴られて腫れた顔で笑い、居酒屋で日本酒の入ったグラスを傾ける。


『でもそれが、父さん(わたし)の愛し方なんだ。諦めてくれ』


 小さく笑った私は、冬夜なら春佳をだしにすれば簡単に煽れるだろうと見当をつけた。

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