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有罪愛  作者: 臣 桜


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【今になって分かる。本当の意味で幸せになりたかったら、あなたのように何があっても私を求め、信じてくれる人を選べば良かった。でも私は自分に価値があると思いたくて、太陽のように光り輝く人に手を延ばしてしまった。相手は三神銀行の頭取の息子、三神丈司。交際して結婚できると思っていたら――、結局、遊ばれていただけだと分かりました。気がついた時には子供を堕ろせない時期になって、彼が別の女性と婚約発表をした頃、私が得たものはこのマンションと月々送られてくるお金だけ……】


 この手紙が優那の心からの本音である事は、すぐに分かった。


 彼女は、もう誰にも見栄を張る必要がないと思ったのだろう。


 医者の家系に生まれて家族の期待に応えられなかった優那は、自分が医者となって名声を得る代わりに、三神に愛される事で人々に認められようとした。


 ――が、それの夢も淡く消えてしまったのだ。


【やっと真実の愛を見つけられたと思ったのに、私はあっけなく裏切られてしまいました。親にこの子の事がバレて大喧嘩したし、丈司が父になってくれないこの子を愛していける自信がない。毎日毎日この子に泣かれ続け、私は疲れ果ててしまいました。……だからお願い。これで最後のお願いにします。この子を、十二月二十四日生まれの(いつき)を、あなたの子として育ててください。せめて、私と同じ二十四歳になるまでは見届けてくれたらと思います。瀧沢くんには、全額引き出した私の預金と、丈司から送られてきたお金をすべてあげます。だからお願いします。私ができなかった分、あなたが樹を愛してあげて】


 手紙を読み終えた私は、泣いている赤ん坊を見る。


 この樹という子が三神丈司との子供で、優那を死に追いやった一因でもあると思うと、ふつふつと憎しみがこみ上げ、そのまま立ち去ってやりたくなった。


 ――が、私はどこまでも、優那の愛の奴隷だった。


 赤ん坊は首を支えなければいけないという事だけは知っていたから、慎重に手で後頭部を支え、抱っこしてみる。


 生まれたての赤ん坊は三千グラム台から四千グラム台というから、それから四か月経ち、順調に体重が増えたとしても五、六キロぐらいだろうか。


 ダンベルほどしかない重みの中に、命が宿っている。


 私の大切な優那が腹を痛め、この世に生み出した命が――。


『う……っ、うぅ……っ』


 彼の存在をどう捉えたらいいか分からない。


 優那を苦しめた元凶でもあり、彼女を死に追いやった男の血を引いている樹を、私だって愛していける自信がない。


 ――結局、優那は最期に私にとんでもない頼みをして、勝ち逃げしたのだ。


『……樹……』


 私は彼の名前を呼び、慣れないながらもあやしてみる。


 すると、樹は泣きやんで笑顔になった。


 作り物のように小さな手がにぎにぎと動いているのを見ていると、名状しがたい感情を抱く。


 ――私がいま両腕に抱いているのは、命だ。


 ――人道的に考えて、一番大切にすべきはこの子をきちんと育てる事。


 ――樹をどう思うかは個人的な感情だ。私はまずこの子を守って育てていかなければならない。


〝優那のために生きる〟という目的を失ったあと、私の目的は〝樹を愛し育てる〟にシフトされた。


 自分がまともな感覚で樹を相手にできると思えない。


 けれど、クズなりに頑張って優那の頼みを遂行してみせよう。


『……行こうか、樹』


 私は樹に話しかけ、一度彼をベビーベッドに戻したあと、リュックのように体に装着するタイプのおんぶ紐を見つけ、慣れないながらも装着してサイズを調節する。


 それから室内にあった哺乳瓶や粉ミルクなど、必要な物を優那のバッグに入れ、その中に金も突っ込み、樹を抱っこしたあと持てるだけ紙おむつを持つ。


 最後に私は、優那の前に立ってしばし黙祷する。


『……確かに、あなたからバトンを受け取りました』


 私は静かに言ったあと、振り返らずに優那の家を出て、一人暮らししている自分のマンションへ向かった。


 あまりに突然の事すぎて、ろくに思考が回らない。


 これが連れ去りで罪を問われるであろう事も、非嫡出子として生まれた樹が本来なら施設で育てられるべき事も、分かっているようでいながら頭の中で全力で否定した。


 ――この子は、私が育てるんだ。

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