卒業後の彼女
やがて私たちは高校を卒業し、大学に進学した。
優那とは進学先が異なり、彼女は都内の有名大学に入学してサークルに入り、毎日を謳歌しているようだった。
以前のように最寄り駅から自宅まで送る役は他の男が担っているようで、私に連絡が来る頻度はグッと少なくなった。
それでも彼女のナイトを自称する私は、自発的に優那の家の最寄り駅まで行き、彼女が無事帰っているかを確認していた。
駅で待機していると、酔っぱらった優那がチャラそうな男と寄り添って歩く姿をよく見た。
そっとあとをつけると、彼女は家の前でその男と唇同士のキスをしていた。
――私には頬しかキスをしなかったのに。
その姿を見て、胸の奥にジリジリと焦げ付くような想いが沸き起こる。
しかしここで飛び出して『何をやっている!』など言えば、私のほうが邪魔者扱いされる事は充分に理解していた。
私はどこまでいっても、優那の黒子だ。
彼女が光り輝くほど、私に掛かる影は濃くなる。
これがサスペンス映画なら、私は鈍器を持って優那に関わる男たちを闇の中で始末していただろう。
しかし犯罪者になる訳にはいかないので、ひたすら見守り続けた。
時に、優那は自分の父親ほどの男が運転する車で帰る事もあり、彼女がどのような生活を送っているのか大体理解した。
だがそれを〝悪〟として『やめろ』と言う権利は私にはない。
ろくに連絡されなくなった男ができるのは、ただ陰から見守る事だけだ。
優那から連絡があるのは、年に一、二回ぐらいだ。
年明けになり、中旬頃になって携帯電話のメールで【あけましておめでとう】とくるぐらい。
いっぽうで、なぜか卒業式の時に泣いて頼まれて連絡先を交換した長瀬からも、定期的にメールがくるようになっていた。
『気の利いた事は言えないと思う』とあらかじめ言ったが、涼子は『構いません』と言い、月に一度、メールで自分の近況報告をしてくる。
送られてくるそれに一応目を通すものの、私は特に返事をする事はなかった。
卒業後、優那はメガバンクの三神銀行に入社し、同社の御曹司、丈司という男と付き合うようになった。
三神丈司は分かりやすいほどの〝成功者〟だ。
目鼻立ちがくっきりした甘いマスクに、高価なオーダースーツ。
高級クラブではホステスたちに大盤振る舞いしたらしく、店を出る時は大勢のホステスから帰りを惜しまれていた。
乗っているのは赤いスポーツカーで、クルーズ船やセスナの免許を持っていると言っても驚かない。
優那は当時社会現象にもなった沖縄出身のアーティストに影響を受け、ワンレングスのロングヘアをシャギーカットにし、サラリとなびかせていた。
厚底ブーツにミニ丈のスカートを穿き、ロングニットを羽織って闊歩する姿は、都会にいる女性の中でも上位にいる〝勝者〟だ。
そんな優那を連れて歩く三神は、さぞ気分が良かっただろう。
――こんな男、裏があるに決まっている。
大学生時代の彼女の相手を見るより苛立ってしまうのは、三神が明らかに勝ち組の色男だからだろうか。
そのいっぽうで私は優那に声を掛けられないままで、【あけましておめでとう】のメッセージすら、忘れられる事もあった。
気配を殺して優那の家を見張っていると、数日帰らないと思ったらスーツケースを引きずって三神の車から降りる日もある。
やがて、彼女は【とっても嬉しい事がありました!】と一斉送信のメールを送ってきた。
それを見た瞬間、私は直感した。
――結婚するのか。




