女神と出会う
『彼は私の友達なんです。お願いですから乱暴な事はやめてください』
ある日、学校の裏庭で先輩に絡まれていた私を、優那は果敢にも女子の身でありながら一人で立ち向かって助けようとしてくれた。
『へぇ? じゃあ、北条は俺たちにどうしてくれるわけ?』
『学校一の美女って呼ばれてるぐらいだから、ナニかしてくれる?』
優那が下卑た笑いを貼りつける先輩たちの餌食になると悟った私は、必死に抵抗しようとする。
『北條さん……っ、やめ……っ』
『ヒョロガリは黙っとけよ』
だが体格のいい先輩にミドルキックを食らい、私は七転八倒する。
『その件については後日お話しましょう。今は瀧沢くんを解放してくれませんか? そして二度と手を出さないでください』
優那はキリリとした眉の下にある大きな目で先輩たちを見つめ、強い意志を込める。
その様子を見て興が削がれたのか、先輩たちは『あとで話をつけるからな』と言ってゾロゾロと連れだって去って行った。
『瀧沢くん、大丈夫?』
優那は私に笑いかけ、学生服についた泥をパンパンと払う。
『ありがとう。……でも、どうして僕なんかを……』
そう尋ねると、彼女は女神のように笑って言う。
『困ってる人を助けるのは当たり前じゃない』
さも当たり前のように言うその姿を見て、私は心からの感動を得た。
――世の中には、見た目だけじゃなくて心まで清らかな人がいるんだ。
『……ありがとう。なんてお礼をすればいいのか……』
好ましく思っていた女子に守られて情けない気持ちはあるものの、その時の私は運命の相手を見つけたと思っていた。
――彼女のためなら、何だってできる。
その時の私は、自分の中の唯一神を見つけた気持ちになっていた。
第三者がなんと言おうが、それまで自分の中に確固たる信念を持たなかった私は初めて「彼女の言う事だけは何があっても聞こう」と自分に誓ったのだ。
それからの三年間はとても楽しかった。
穏やかに学生生活を送れるようになったし、何かあったら女神と話す事ができる。
彼女が属する一軍グループには加わる気持ちになれないが、放課後に優那と二人でコソコソお喋りする事もできた。
優那は常に目立つ系の男子と付き合っていて、私は最初から自分が彼女の恋愛対象になる事はないと分かっていた。
最初こそ「もしかしたら」と身の丈に合わない想いを抱いたが、皆の中心で笑っている優那を見るたびに、「あそこにはいられない」と痛感するようになっていった。
幸いだったのは、助けられた時だけでなく、そのあとも彼女と関われる機会があった事だ。
恋人とのデートで帰りが遅くなる日は、私が彼女の最寄り駅まで駆けつけて、実家までの道のりを一緒に歩いて送っていった。
『今ってこういうのが流行っているんだよね』と優那が流行のアクセサリーやブランド品をスマホで見せると、貯金を崩してでもプレゼントし、喜んでもらおうとした。
優那は『悪いからいいよ』と遠慮したが、彼女から得た多大な恩を返せるなら、なんでもできる。
彼女が助けてくれなかったら、私は高校三年間、ずっと弱者として虐められ続けていただろう。
それを思えば、優那に感謝の証として贈り物をする事ぐらいどうって事はないし、むしろ感謝の印として受け取ってほしい。
加えて、優那は私に褒美を与えなかったわけではなかった。
家まで送った帰り、優那は『じゃあね』と私の頬にキスをしてくれる。
それだけで全身を言い知れぬ高揚感が包み、この上ない幸せを得た。
一度は、高ぶった想いのまま告白した事があった。
『北條さんが好きです! あなたのためなら何だってできる』
愛の告白を受けた彼女は驚いてキョトンとしていたものの、やがて申し訳なさそうに笑って首を左右に振った。




