表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
有罪愛  作者: 臣 桜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/91

0303

 それでも、ささやかな平和は掴めた。


 いつ人に嫌われるか、怒られるか、ビクビクしながらも、春佳は精一杯〝普通〟のありがたみを味わっている。


 今の生活を愛しむからこそ、牢獄の中にいたような〝昔〟の象徴である母に会うのがとても怖かった。


 そんな彼女を一人で守り、支えているのが冬夜だ。


 今、春佳は兄のもとで、とても幸せな生活を送っている。


 思い出に苛まれる事はあっても、現実の春佳を害する者は誰もいない。


(何をやってるの。お兄ちゃんは今の私にとって、幸せの象徴。それを疑って、パソコンの中身を見ようとするなんて……)


 ロック画面には京都の嵐山らしき、竹林の写真がある。


 春佳は自分を責めながらも、震える手でエンターキーを押した。


 するとPINコードを求める画面が現れ、彼女の思考は一時停止する。


 四桁の数字と言われても、無限の組み合わせがある。


 一つずつ数字を変えてロック解除しようとするなど、時間が幾らあっても足りない。


 パソコンの詳しい事は分からないが、何回も間違えたら開けられなくなるかもしれず、そんな事態になれば自分のした事がバレる。


 チラッと時計を見ると二十時前だ。


 ここ数日、冬夜は仕事が忙しいらしく、いわゆるデスマーチ状態にある。


 家に帰ってきてもシャワーを浴びて着替え、すぐ会社に戻ったり、深夜に帰って早朝まで寝てからすぐ出社している。


 倒れてしまわないか心配だが、その案件さえ乗り越えればもとの生活に戻れるらしく、疲労の濃い顔で『頑張る』と言っていた。


 だから春佳は少しでも手伝いたいと思い、夜のうちに弁当を作っていた。


 朝起きるとダイニングテーブルの上に『弁当ありがとう。○○が美味しかった』と感想があり、作りがいがある。


 冬夜が懸命に働いているのを知っているからこそ、彼の不在時にパソコンを覗き見している自分が嫌で堪らない。


(……嘘をつかれたとしても、お兄ちゃんには後ろめたい事はないんだって、証拠を見つけたいだけ)


 小村の件さえなければ、春佳は何も疑わずに今の幸せを甘受していただろう。


 だが、世間知らずの春佳とて、兄を盲信している訳ではない。


 気に入らない女の言う事だとしても、彼女の言葉が真実である可能性はあるのだ。


 そして、なぜ兄が自分に嘘をついたのかを知りたい。


 嘘と言われても、実害はないと言っていい。


『職場の女性の先輩に迫られて困っている』


 それぐらいの嘘なら、自分はモテていると周囲に思わせたい人がつく事もあるだろう。


 だからこそ違和感がある。


(お兄ちゃんは黙っていてもモテるし、妹の私にそんな嘘をつくメリットがない)


 常識的な自分が結論を出し、もう一人の自分が馬鹿みたいな事を思いつく。


 ――私に嫉妬してほしかったのかも?


(まさか)


 春佳は内心で突っ込み、溜め息をつく。


(お兄ちゃんが私に嫉妬してほしいと思っている? 私の事を好き? 確かに大切にされてはいるけど、まさかそんな……)


 ありえないと思いながら、ある事を思いついた春佳はテンキーを押す。


〝0303〟と打った途端、パッと画面が変わった。


「……嘘でしょ……」


 春佳は嘆くように呟き、両肘をデスクにつき顔を覆った。


 打ち込んだ数字は、春佳の誕生日――三月三日だった。


(わたし)を大切に想ってくれているとしても、……普通の兄はここまでするものなの?)


 春佳は〝普通〟と縁遠く生きてきたため、世間の兄妹の距離感が分からない。


 兄のいる友人はいるが、『兄貴うっざ』と吐き捨てるように言っていた子はいるし、友達のように接している人もいる。


 各家庭で兄妹の距離感は違うので、一概にこうと決めつけられない。


 憧れている冬夜に大切にされて嬉しいはずなのに、春佳はとても複雑な気持ちになっていた。


 小村に嫉妬して、邪魔しようと思ったのは春佳のほうだ。


 そこまで兄を想っているはずなのに、彼が自分の誕生日をPINコードにしていると知って、怖じ気づいている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ