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有罪愛  作者: 臣 桜


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29/91

小村沙由紀

 十月下旬、春佳は千絵に教えられたアンティークな喫茶店に行ってみたくなり、土曜日に神保町を訪れていた。


 服装は先日買った、フリルがたっぷりあしらわれた丈の短いトップスを着て、ゆったりとしたデニムのワイドパンツを穿いている。


 母と暮らしていた頃は、可もなく不可もなくなベーシックなアイテムしか着ていなかったが、千絵に『気分転換にもうちょっとお洒落してみなよ』と言われ、彼女と一緒に安くて可愛いアイテムがある店を巡って意外とハマりつつある。


 自分の容姿にはあまり自信がないが、親友いわく『メイクを勉強して着る物にもう少し気を遣えば垢抜ける』らしい。


 彼氏もいないしそれほど気乗りする理由はないのだが、褒められると嬉しくなって『それなら……』と興味を持つようになっていた。


 本の町と呼ばれている神保町は大好きな所で、千絵が絶賛していたチーズケーキとコーヒーを味わったあとに、ぷらりと書店に行こうと思っていた。


 昼過ぎ、駅から出て横断歩道に向かおうとした時、見覚えのある女性が雑踏の向こうからやってくるのを目撃した。


 小村沙由紀だ。


 休日だからかまとめ髪を下ろしていたが、先日彼女の顔を脳裏に焼き付けたので、間違える事はない。


 春佳は思わず立ち止まり、正面から歩いてくる小村を見つめる。


 それだけなら、小村も気づかずに通り過ぎただろう。


 だが春佳は兄を悩ませている女をどうしても許す事ができず、胸に決意を宿すとツカツカと彼女に歩み寄った。


「あの!」


 声を掛けると、小村は驚いた表情をして立ち止まった。


 近くで見ると余計に彼女の美しさが分かり、さらに憎たらしさが増す。


「何か……?」


 白いシャツに日焼け防止のベージュのカーディガン、ライトブルーのデニムを穿いた小村は、いきなり話しかけてきた少女を見て足を止めた。


 小村は芸能人と言っても差し支えがない顔立ちをしていて、目がぱっちりと大きい。


 メイクの効果もあるだろうが、夏でも白くつるんとした肌に長い睫毛を見ると、胸の奥にジリッとした黒い炎が宿った。


(私だって、もっとメイクを学べばこれぐらい……)


 対抗心を抱きながら、春佳はきつい眼差しで小村を見つめた。


「兄に近づかないでください」


「はい?」


 言った途端、小村は目を大きく見開いて声を上げる。


 その予想外という反応が、余計に春佳を苛立たせた。


「……私、瀧沢春佳と言います。瀧沢冬夜の妹です」


「ああ……」


 名乗って初めて、小村は春佳が誰なのか理解したようだった。


「ごめんなさい。全然似てないから分からなかった」


 加えて、彼女の率直な感想が春佳の神経を逆撫でした。


 昔から周りに『似てない兄妹ね』と言われ続けていた。


 冬夜は彫りが深く二重の幅が広いのに対し、春佳は印象の薄い顔をしている。


 優しい顔と言えば聞こえがいいが、要は普通なのだ。


 兄が毛量が多く黒々とした髪をしているのに対し、春佳は猫っ毛で少し色素が薄い。


 憧れている兄に劣等感を抱いている春佳にとって、『似ていない』と言われるのはタブーに近かった。


 だから春佳は、小村の何気ない言葉を聞いて眦をつり上げた。


 尋常ではない雰囲気を感じた小村は、宥めるように口調を和らげて尋ねてくる。


「瀧沢くんの妹さん? 初めまして。私は小村沙由紀といいます。……私たちは初対面だけれど、どこかで会った事がある? いきなり『近づかないで』と言われても、何の事か分からないの。彼は会社の後輩として相応の接し方をしているけど、必要以上にベタベタしているつもりはないよ」


 その、やけに馴れ馴れしい話し方も春佳の癇に障り、彼女はますます険しい顔になる。


 兄が被害を受けている事をストレートに言ってやりたかったが、それではあまりに考えなしだ。


 冬夜だって先輩である小村を怒らせたら、会社での立場がなくなる。


 どれだけ兄が優秀でも、小村が先輩なのは事実なのだ。


 下手な事を言って冬夜がとばっちりを食らっては本末転倒だから、兄が小村に迫られている事は知らない体にし、あくまでブラコン妹として接する事にした。

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