第5話 噂の種
魔王城の中は2つの噂で持ちきりに。
後方支援部隊のバナナしか召喚出来なかったはずの召喚士が魔王を召喚したこと。
ヒロヴェイルがノーヴェインを好きなんじゃないかということ。
あちこちから視線を感じてノーヴェインはどことなく居心地の悪さを感じていた。
逃げるように人の少ない魔獣育成所へ足を運んだ。
「・・・はぁ。」
ヒロヴェイルにはあれから会えていない。
彼女が何を考えて、何を思っているのか。
声が聴きたい。そう思った。
「なんだ、噂の種がこんなところで。」
「君は・・・事務課のユキロップ。」
「ホワイトナンバーな?事務課って言うな。おいらはマチョ兄に会いに来たんだよ。」
「2人とも僕に用なの・・・?」
真っ白なたれ耳ウサギのような魔獣族の子と大型うさぎの魔獣族がそこにはいた。
ホワイトナンバーのユキロップと、魔獣育成所の所長マチョリニウムだ。
「マチョ兄―!!」
「よしよし、ユキロップは元気でいいな。」
「マチョ兄、好きだよ~。」
「はは、仲良くていいね。」
彼らは、従兄弟なだけあってとても仲がいい。
2人とはたまに飲みに行ったりする仲だ。
「ノーヴェインは今日どうしたの?」
「いや、その・・・。」
上手く言葉が出てこない。いつもなら、えへへと笑い飛ばすことが出来るのに。
言葉に詰まるノーヴェインを見て、ユキロップは再び苦い顔をした。
「お前、何かかくして。」
「逃げて来たんだろう?」
「え?」
問い詰めようとするユキロップの言葉を遮ってマチョリニウムが言った。
「いいんだよ、ここは幸い軍用の魔獣ばかりで噂するような人はいない。悩みがあるなら吐き出していくと良い。」
「マチョ兄・・・仕方ないな、おいらも聞いてやるよ。」
「ありがとう、2人とも。」
その言葉に心がジーンとなる。
「1人、密告した人物に心当たりがあるんだ。」
***
いつもの5人。いつもの渡り廊下。
いつも通りじゃないのは噂になってる自分だけ。
そして何食わぬ顔でラヴェルニクスと話している・・・。
「キギョドン、だよね。」
唐突に言ったノーヴェインに他の3人はぽかんとしている。
「どうしたんですか、ノーヴェイン。いきなり何かあったんですか?」
いつもなら、ここで呼んでみただけと、とぼけるノーヴェイン。
だが、今日だけは違った。
「キギョドンなんでしょ?密告したの。」
「あんた、友達に向かって何言って!」
ラヴェルニクスが慌てて叫んだ。けれど、ノーヴェインは表情を変えない。
オピリニアとイトゥルスは真剣な面持ちで3人を見守っている。
「そうやとしたら?」
「キギョドン・・・?」
どこまでも重く暗い瞳が見つめ返して来る。その瞳が意味することは一つだった。
「なんで密告したの?しかもあんな内容で。」
「・・・やのに。」
「え、何?」
「ウチのほうが好きやのに!!」
「「「「えーーー!!!」」」」
キギョドンの思わぬ言葉にその場にいた全員が驚いた。
ラヴェルニクスが戸惑いながら話し出す。
「あ、のー、いや、誰を好きになるかは自由だけどさ。ノーヴェインが好きなの?」
「んなわけあるか!ウチが好きなんは、ヒロヴェイル様や!」
「あ、そっち。」
「ノーヴェインを好きになる物好きなんて、いませんしね。」
「確かに。」
「みんなオレに対してひどくない?」
キッと、キギョドンがノーヴェインを睨む。
先に口を開いたのは、ノーヴェインだった。
「なんであんなことしたの?ヒロヴェイルが悲しむだけじゃない?」
「あんたをヒロヴェイル様から離すことが出来れば何でもよかったんや。」
「そんなことしても、ヒロヴェイルは喜ばない!」
「あんたに取られるよりマシ!ウチのほうがヒロヴェイル様のことわかってる!」
「いや、オレのほうがヒロヴェイルのこと分かってる!!」
キギョドンは怒りに任せてノーヴェインの胸倉を掴んだ。
「その呼び捨てもウチは気にくわへんのや!!」
「だから?じゃあキギョドンも呼び捨てにすればいいだろ!?」
「あんたのそういうところ昔から嫌い!!」
「いやいやそういうところがダメなんだよ、キギョドン。本当にヒロヴェイルのことを思うならみんなで仲良くしないと!」
「ばかやろーーー!」
そう吐き捨てるとキギョドンは3人を置いて走り去った。
そこへ、イトゥルスに連れてこられたヒロヴェイルが現れる。
「私のせいですまない。」
「ヒロヴェイルは悪くないよ。」
「いや・・・。」
ヒロヴェイルは何か言いよどんだ。それに気づいたノーヴェインは、優しく肩をたたいた。
「ヒロヴェイル、あのさ。」
「オレの記憶、覗いてみない?」