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第2話 魔王たるもの

城下街での1件からヒロヴェイルは自分の意味について悩んでいた。

何が魔王だ、住人ひとり守れなくて・・・。

「ヒロヴェイル様、失礼いたします。」

「あぁ、ビネストか。入れ。」

仕事部屋の扉を開けて、執事兼主治医のビネストが現れる。

ビネストは生まれる前から仕えてくれている有能でベテランの人物だ。

その顔は浮かない顔をしていた。

「どうした。」

「姫様、ご報告申し上げます。ただいま、囚人が5人ほど牢にいれられたそうです。」

「5人?多いな。だがそれを何故私に?魔界審判会の仕事だろう?」

魔界審判会とは、その名の通り魔界のルールや法律を守る警察のような仕事だ。

魔王軍の中でも軍の規則などに背いたものが裁かれる事例もある。ヒロヴェイルは正直言って魔界審判会はあまり好きではなかった。だが、なくては魔界の秩序は守られない。そうとも考えていた。

「姫様に会わせろと言っている者がいるそうです。なんでもバナナ柄の下着を身に着けただけの妙な青年だそうですが。」

「バナナ・・・。」

その情報を聞くと、ヒロヴェイルは壁に掛けてあったマントを手に取り、羽織る。

「姫様、どちらへ?」

「牢に行く。その者たちに興味がわいた。」



普段使われていない牢は、この世界が平和な証拠だった。

見張り役が、ヒロヴェイルに気付いて一礼する。

「囚人は?」

「こちらの牢です。」

「ありがとう。」

ヒロヴェイルは牢の中をのぞく。

「あんたが魔王様?見えないね。」

妖精のような姿の男の子が悪態をつく。それに気づいて、他の4人も顔を上げる。

その中には見覚えのある顔があった。

短く唸るとヒロヴェイルが5人に尋ねた。

「名と特技は。」

「なんでそんなこと。」

「やめい、イトゥルス。上の人に逆らうもんちゃうで。」

「でもさ、キギョドン。」

「すいません、魔王様。ウチはキギョドン。頭使う仕事が好きなんや。」

青い半魚人の真面目そうな子が名乗る。

「あたしはラヴェルニクス。力仕事や戦闘は任せて。」

紫のポニーテールをした勇敢そうな女性が名乗る。

「わたしはオピリニア。数字の仕事に特化しています。」

四角い眼鏡をした水色の髪の青年が名乗る。

「ボクはイトゥルス。フェアリーの出来る事はなんでも。」

先ほど悪態をついてきた妖精が名乗る。

そして、5人目。

「オレはノーヴェイン。」

光も希望もない目。

少しばかりの恐怖を覚えながら、ヒロヴェイルはその言葉の続きを待った。

「特技はないです。ヒロヴェイルなら分かるでしょ。」

「ノーヴェイン、あんた魔王様とお知り合いなん?」

「城下街でお会いしただけだよ。」

「ふむ、私に会わせろと言ったのはノーヴェイン、お前で間違いないな。」

「うん。もう一度会いたくて。」

「何故?」

「それは・・・。」

ノーヴェインが言いよどむ。その姿に違和感を覚えながらヒロヴェイルは思案する。

魔王軍は今、中枢を担う人材が少ない。一般兵にはちょうどいいが自分の補佐を頼めるような人材がいないのだ。5人の特技を聞いて、ちょうど兵士が持ってきた資料にも目を通す。

「罪状は、無銭飲食か。」

「仕方なかったんだ。お金がなくて。」

「ノーヴェインは見世物で稼いでるんじゃないのか。」

「1日見世物しても1食分の食費にもならないよ。」

「魔王様には分かんないでしょ。ボクたちが今日の食事にも困ってるって。」

「魔王軍はそのための支給や軍への入隊試験を各地域などで行ってるはずだが?」

「対象外なんですよ、ここにいる5人は。試験場で、それぞれ訳ありで落とされた者たちがわたし達なんです。」

「なるほど。」

5人の冷めた目。

もう一度、ヒロヴェイルは唸ると資料を兵士に返しながら、笑った。

「何笑ってるのよ。あたしたちがそんなにおかしい?」

「この5人を私の配下にする。」

「「「「「え?」」」」」

5人が驚いた声を上げる。

「キギョドンは参謀に、ラヴェルニクスは一番槍部隊に、オピリニアは会計部門に、イトゥルスはオピリニアの補助に。」

すらすらと役職を決めていくヒロヴェイル。

そして、ノーヴェインを見ると、いたずらそうに笑った。

「ノーヴェインは後方支援部隊に。全員分の入隊手続きを済ませておけ。」

「かしこまりました、ヒロヴェイル様。」

「ちょ、ちょいまち!なんでこんなウチらにそこまでしてくれるん?」

キギョドンが叫ぶ。

ヒロヴェイルは牢を出ていこうとした足を止め、楽しそうに振り向いた。

「果物と再会のお礼かな。」



「ヌマンヌ、いるか。」

「某はいつでもいる。そしていない。」

「いるんだな。占いを頼みたい。」

「願掛けなど役にも立たぬ。」

「預言者のセリフとは思えないな。何かあるんだろう?」

魔界の中でも特別なルートで行かないといけない場所。

そこに預言者・ヌマンヌはいた。

ヒロヴェイルはことあるごとにヌマンヌから手紙をもらい、未来予知の能力を使って今後を決める要素にしていた。今回も魔王軍のことだろうとどこか楽観視していると・・・。

「死にます。」

「誰が?」

「貴様が。」

「理由は?」

水晶を眺めながらヌマンヌが何食わぬ顔で言う。

「貴様は恋に堕ちるだろう。その時。その恋を選ぶか魔王として死ぬかで未来が変わる。心されよ。」

ヒロヴェイルは表情一つ変えずに立ち上がるとそのままお礼を言ってその場所を出た。

「春は遠からず。」

水晶には反対側の壁が映っているだけだった。

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