冬の宮〜第三の試練〜
「──解決、出来たのか?」
李将軍は微妙な顔をしている。
「出られたのだから、解決出来たのだろう」
そう言いつつも、漢文官もいまいち納得出来ていない様子だ。趙絵師に関しては表情から読み取れないが、呉医師も同様の表情をしている。きっと、雨桐も似たような表情を浮かべている事だろう。
「少なくとも冤罪は防げたではないか」
雨桐達の表情を見て、龍王は苦笑している。
──冤罪……。けれど、あの御隠居の親戚の男は確かに御隠居を毒殺しようと計画していた。完全に冤罪とは言い切れないわ。
「さて、次の冬の宮に向かうか!」
龍王は何とも言えない表情の5人を鼓舞するかのように言い、冬の宮──龍王城の西に位置する白を基調とした建物──のある場所に向って歩き出した。5人はそれに黙って着いて行く。
「──準備は良いか? 扉を開くぞ」
冬の宮に着くと先程までとは打って変わって神妙な顔で龍王は告げた。その顔を見て、5人はごくりと唾を呑んだ。
──最後の試練は一体どんなものかしら?
不安を感じながら、雨桐は眩い光に身を包まれた。
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光が収まり目を開いた5人は、目の前の光景に目をを疑った。彼等の目の前には、大勢の人々の苦しむ姿があったのである。
「──皆さん、布で口を覆って下さい! 急いで!!」
呉医師が叫び。皆それぞれ手持ちの手ぬぐいや着物の袖で口元を覆った。
「呉医師、これは……」
李将軍が呉医師に緊張の面持ちで訊ねた。
「疫病です」
──疫病、これが第三の試練!
まず、5人は疫病の広がり具合、症状等調査するために呉医師の診療所を作り、そして罹患した患者を一箇所に集め隔離した。その結果、村全体に疫病が蔓延している事が分かり直ぐ様、村を閉鎖した。
また、既に亡くなっていた人々は李将軍を中心にまだ動ける者達の手を借りて火葬した。
それだけで気がつけば数日を費やしていた。
「──恐らく痘瘡で間違いはないでしょう」
患者を診療していた呉医師が他の四人に報告した。
「だが、村一つまるまる感染が広っているのは異常じゃないか?」
「初動が遅れた、或いは何らか原因で爆発的に感染者が増えたと考えられます」
「これを解決、か。最後の試練は厳しいものになりそうですね」
「兎も角、やるしかない」
この数日が怒涛の日々だった事もあり、彼らの顔には疲れが見て取れた。
「ただ、出来れば塩や砂糖を補給しておきたいですね。長引けば足りなくなります」
「他の村か町に行く必要がありますね」
──周辺の村や町はどうなっているのかしら?
漢文官の言葉で雨桐は、ふとある事に気が付いた。
「なら、医者や兵士も呼んで来るか。俺達だけでは人手不足だ」
3人の会話を聞きながら、雨桐は顔を青褪めさせながらも思い切って口を開いた。
「──感染者はこの村だけなのでしょうか?」
その問いにその場の空気がひやりと冷たくなる。皆、頭の隅にはあった様だ。
第一の試練も第二の試練もその村の中、町の中での解決出来ることだった。それに此処がどんな世界であれ医師も兵士も存在する。なのに、何故この有り様なのか、もしかすると他の村や町でも疫病が蔓延しており、手が回らない状況なのではないか。
そんな事を考えると気が遠くなりそうだった。
──けれど、しなければならないのよね。
雨桐は掌を握りしめ、無理矢理にこやかな表情を作る。
「取りあえずは塩と砂糖の補給ですよね。それは私が適任でしょう。呉医師様、必要な量を教えて下さい。それから、周辺の村や町の様子も見て参ります。趙絵師様一緒に来て頂けますか?」
「勿論。だけど、僕で良いの?」
趙絵師に訊ねられ雨桐は大きく頷いた。
「はい、趙絵師様は人の警戒心を解くのに長けていらっしゃいますから適任だと思います。それに痘瘡に対して耐性のある漢文官が此処に残って呉医師を手伝って頂いたの方が良いと思うのです」
ここに来た初日に、呉医師が確認した事だ。5人をの中で痘瘡を罹患した事があるのは、雨桐、呉医師、漢文官だった。この3人とこの村で痘瘡に一度罹ったことのある者を選び患者の看病をしていたのだ。
雨桐達は急いで馬屋から馬車を借りると、隣の村へと移動した。意外な事に半日もかからない内に村に着いた。とても近い場所に村はあったのだ。
雨桐は感染しないように少し離れたところから村の者に話しかけると、酷く驚いた様子の村人達に雨桐と趙絵師は顔を見合わせた。
「よく無事だったね!」
「あの村は変わっていて大変だったろう!?」
何故かあの村に寄った事を話すと労われた。何でもあの村は振興宗教の信者達が集まる村だったそうだ。
「呪いだと言って医者に見せれば治る病人を放置したり、心配して訊ねた人達を追い出したりとそりゃ酷い有り様だったよ。こんなに近い場所にあるのに交流もない。バチが当たったんだね」
──それであの状況という訳だったのね。
雨桐は村で疫病が流行っていることを説明し、対策を教えた上でその村を離れた。その他の村でも多少怪訝な顔はされたが、あの村に行った事を伝えると同様の反応で、案外簡単に信じて貰えた。
また、幸い周辺のどの村でもまだ疫病は広まっておらず、雨桐と趙絵師はほっとした。
──何故、あの村だけなのかしら?
その答えは次の村で分かった。
「──流れの商人から聞いたんだが、隣国で今流行り病が蔓延してるって話だった。あの村の教祖は隣国の出身って話だったから、もしかすると交流があったのかもな。何してもあんたらが知らせてくれて助かったよ」
──隣国から持ち込まれたものだったのね!
あの村は他の村と交流のない閉鎖的な村だった為、他の村に疫病の蔓延が防げたらしい。勿論、村人に確認する必要あるが。
雨桐と趙絵師は村へと戻り、この情報を伝えた。周辺には広まっておらず、ほっとしている様だった。
周辺の村の人々は協力的で、医官や人を頼めるように手配してくれると言っていた。数日後には到着するとの事だった。
「──にしても、その肝心の教祖は何処にいるんだ?」
李将軍が首を傾げた。雨桐達が来てから教祖らしき者を見ていないのだ。
──逃げ出して、疫病を広げていなければ良いけど……。
雨桐達の不安は直ぐに解消された。
「教祖様なら山のお堂にいらっしゃいます」
村の人に教えて貰ったお堂に教祖はいた。但し、既に亡骸になっていたが。
それから3ヶ月後、雨桐達が訪れた時、既に村に蔓延していた事もあり多くの死者を出していたが疫病はある程度治まっていた。
そして、漸く冬の宮の扉が現れた。




