春の宮〜龍王候補の選抜〜
龍王の治める雲仙という国があった。
龍王は国王の称号であり、龍王の座は世襲制ではなく、二十年に一度、宝玉が国民の中から無作為に5人を選ぶのだ。そして、その5人の中から当代の龍王が考案した試練を乗り越えた者が新たな龍王となる。
一見、一国の統治者を宝玉が選ぶのは皆抵抗を持ちそうなものだが、この選定方法はこの雲仙は非常に有用なものとされている。
この選定方法は、嘗ての雲仙国の悪政を強いた王を引き摺り下ろした際、民は再び王が悪政を敷く事を恐れ、新たな王の選定は難攻した。
そこで、民は雲仙国の山奥に棲む龍の知恵を借りた。その際、龍は己の宝玉を民に与えこう言ったのだ。
『──この宝玉が二十年に一度王に相応しい者を5人選ぶだろう。その者達に試練を与え、最も相応しいものを王とすると良い』
此れが龍が選んだ王即ち龍王の始まりである。
そして今まで異論が出なかったのは、選ばれるものは皆各分野で既に名の知れた英雄だったからであるのだが……。
──何故、私が選ばれたのかしら?
商家の末娘・王雨桐は選定された者達が集められた春の宮で一人首を傾げていた。
ほか四人をを見れば皆巷で名の知れた者達だ。
──あの赤髪は若くして将軍に抜擢された李沐辰様ね。青い着物の方は確か文官の漢敏様。鮮やかな着物をお召になっているのは確か絵師の趙静様。白衣を方は恐らく医師の呉秀英様だわ。ああ、本当に私どうしてこんなところにいるのかしら?
国で知らぬものはいないだろう者達の中で雨桐は頭を抱えたくなった。
──帰りたい!
雨桐は心の内で叫んだ。帰りたいが、王城の馬車で迎えがり、家族親戚一同に盛大に送り出された以上何もせずには帰れなかった。
「──お顔の色が優れませんね」
「ひゃい!」
雨桐の様子に気が付いたのだろう、呉医師に突然声を掛けられ驚いて珍妙な声を上げてしまった。
「君、緊張しているの?」
くつくつと趙に笑われ、雨桐は羞恥で顔を真っ赤にする。
「全く何と情けない。それでも宝玉に選定されたものなのか? 人違いではあるまいな!」
「情けないとは失礼だな。此の様な場に選ばれれば誰だって緊張する。年頃の娘なら尚更だろう。不躾な奴め」
李将軍の言葉に漢文官が苦言を呈した。
「──春の宮には今は選定されたものと龍王しか入れぬ。人違いという事は無かろうよ」
くつくつと笑いを含んだ声が頭上からした。声のした方を振り向くとそこには何時からいたのか龍王が愉快そうに5人のやり取りを見ていた。
『龍王様!!』
5人は一瞬にして凍りついた。
「さて、雑談は済んだだろう。そろそろ試練の説明をしても良いだろうか?」
龍王は5人の表情を見て更に愉快そうに笑っていた。




